東日本電信電話(株)(以下、NTT東日本)と日本電信電話(株)(以下、NTT)は25日、光ファイバーと高速無線技術を利用した“パーソナル・ワイヤレス・ブロードバンド”『Biportable(バイポータブル)』のトライアルを3月から8月まで東京/渋谷駅周辺で実施すると発表した。
トライアルで利用される無線基地局。幅229×奥行き177.5×高さ277.5mm。消費電力は100Wと白熱電球程度 |
同トライアルは、NTT東日本の光IPネットワークと、NTTアクセスサービスシステム研究所(以下、AS研)が開発した高速無線技術“AWA”を利用したもの。Biportableとは、Broadband IP Platform with the Optical & Radio Technical Abilityの略称で、光ファイバーと無線の融合による新しいブロードバンド時代の幕開けを表わすための造語。
Biportableのトライアルシステム構成は、光ファイバーをアクセスラインとする広帯域ネットワークを構築し、映像ストリーム配信サーバー、アプリケーションサーバー、インターネット接続サーバー、ネットワーク管理サーバーをNTT東日本ビル内に設置、これらのサーバーと、トライアルエリア内の家庭やオフィス、タウンスポットなどに設置されるモニター用端末を光ファイバー網でつなぐ。
トライアルエリア内の家庭やオフィス、タウンなどの各スポットの屋内部分には、AS研が開発したAWA(Advanced Wireless Access)を導入している。AWAは、MMAC(マルチメディア移動アクセス推進協議会)、ARIB(電波産業会)、およびETSI(欧州電気通信標準化機構)-BRAN(Broadband Radio Access Networks)に準拠した無線アクセス方式。屋内高速通信用周波数5GHz帯を利用しており、最大36Mbpsの高速伝送が可能。このAWA技術により、屋内配線を必要とせず、全てのスポットにおいて同一端末をシームレスに利用できる。家庭やオフィスでは無線LANを構築可能。
AWAの36Mbps帯域は、端末の状況に合わせて“上り”“下り”を柔軟に設定できる。例えば、動画を発信する場合には、帯域設定を“上り”を高速に、“下り”を低速にしたり、TV会議などの双方向映像コンテンツを利用する場合には、“上り”“下り”とも高速帯域を設定したりできる。また、1つの無線装置(基地局)で半径100mをカバー、最大122ユーザが同時に接続できる。
また、無線区間で利用する帯域を保証する“最低帯域保証”を実現し、動画などのリッチコンテンツをストレスなく利用できる。基地局の認証と、端末のIPアドレス設定をネットワーク側で自動的に行なう“位置管理機能”により、タウンスポット、オフィス、キャンパス、家庭など、さまざまな屋内スポットで同一端末を設定変更せずにシームレスに利用できる。
光IPネットワークは、アクセスラインに光ファイバーを利用し、ギガイーサ(Gigabit Ethernet:1Gbps)技術とファストイーサ(Fast Ethernet:100Mbps)技術を利用することで大容量のデータ通信が可能。これにより無線区間の36Mbpsデータをスムーズに送受信できるという。NTT東日本ビル内に設置するサーバーは、最新のストリーム配信技術に対応、数Mbpsクラスのリッチコンテンツを配信できる。また、課金/認証機能も用意されている。端末同士の直接通信も可能なほか、IP-VPNによるセキュリティー機能を提供するため、家庭やタウンスポットから企業内ネットワークへもアクセスできる。
今回のトライアルでは、基地局40台(一般家庭約10台/オフィス約10台/タウンスポット約20台)、およびモニター端末400台(ノートPCに装着して利用する無線カード型端末200台/PDA一体型端末200台(5月より))を用意する。期間は3月~8月で、場所は東京/渋谷駅周辺を中心としたオフィス、タウンスポット、一般家庭。
トライアル用の無線カード型端末。ノートPCに装着して利用する |
ノートPCに装着した様子。ノートPC画面にはBiportableポータルサイトが映し出されている。写真のノートPCは松下の『人』だが、実際にトライアルで利用されるPCはB5サイズのサブノートになるとのこと |
参加モニターは、継続モニターとして渋谷駅周辺のネットベンチャー企業の勤務者、インターネットヘビーユーザー、大学生、主婦などを選定、この継続的モニターはカード型無線端末およびPDA一体型端末を利用する。なお、渋谷駅周辺のタウンスポットを中心に体験コーナーが常設され、参加モニター以外の一般ユーザーも利用できる。
トライアル期間中は、40社以上の企業がトライアル向けにコンテンツやアプリケーションを提供する。コンテンツは、モニターや一般参加者が双方向でつながるTV会議や遠隔授業などのインタラクティブ(双方向)型コンテンツ、映画や音楽、スポーツ、タウンガイド、ショッピング情報などを配信するオンデマンド(配信)型コンテンツ、掲示板への動画投稿などモニターや参加者自身がコンテンツを発信できる発信型コンテンツ、IP-VPNやPIMといったアプリケーションコンテンツなど、25ジャンル70番組が用意される。
NTT東日本は、トライアルの企画と運営、およびブロードバンドIP網の構築とビジネスモデルの検討を行なう。NTT(AS研)は、無線装置や無線端末の開発と、AWAの技術的な検証 、トライアルでの技術サポートを担当する。技術協力会社は松下電器産業(株)と松下通信工業(株)。端末が設置されるタウンスポットは、渋谷TSUTAYA、エクセルシオールカフェ、タワーレコード渋谷店、ビッグエコー表参道店、大井競馬場(4月より)など。
コンテンツやアプリケーションの提供などを行なうパートナー企業は、味の素(株)、(株)アルトビジョン、(株)イー・ゲート、(株)IMAGICA、(株)インプレスコミュニケーションズ、映像塾、(株)オルカビジョン、(株)カミングスーン・ティービー、(株)ギャガ・コミュニケーションズ、キンコーズ・ジャパン(株)、グランスフィア(株)、(株)ケアネット、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、サッポロビール(株)、(株)サテライトニュース、(株)ジェイティービー、(株)渋谷ツタヤ、(株)渋谷マークシティ、情報化メディア懇談会、(株)世界文化社、(株)セルリアンタワー東急ホテル、(株)第一興商、タワーレコード(株)、帝拳(株)、(株)デジタルスケープ、デジタルハリウッド(株)、東映(株)、東京急行電鉄(株)、東京シティ競馬、東京メトロポリタンテレビジョン(株)、(株)東京リーガルマインド、(株)ドトールコーヒー、(株)ナガセ、(株)中谷彰宏事務所、(株)二玄社、(株)ネオテニー、原宿クエスト、(株)パルコ・ドット・ティーヴィー、ぴあデジタルコミュニケーションズ(株)、(株)ビーマップ、(株)ビジネス・ブレイクスルー、フォーリンティブィ(株)、(株)読売新聞社、(株)リクルート。
また、トライアル開始に伴い“Biportable研究会”も発足、有識者およびトライアル参加企業などが参加し、コンテンツやアプリケーションの検討を行なうという。なお、トライアルモニターや一般ユーザーからも、コンテンツやアプリケーションに関するアイデアをトライアル用ウェブページで募集するとしている。
本日都内で行なわれた発表会で、NTT東日本代表取締役常務取締役法人営業本部長の森下俊三氏は、「36Mbpsの高速無線装置の開発に成功した。これを使うと建物の中の高速環境を実現できる。高速環境が整うことで、従来と異なる新しいコンテンツや利用方法、ビジネスモデルが生まれる。IT社会の発展にもつながるだろう。36Mbps無線技術は早期に商用サービスとしたい。また、現在行なっている10Mbpsの光IP通信網サービスの試験提供に続き、今春より100Mbpsの光IP通信網サービスも試験提供できるよう準備を進めている」
「一方ISDNはどうするか。現在6000万ユーザー(東日本3000万/西日本3000万)がいるが、家庭内でFAXといっしょに使いたいなど、ISDNの要望はまだ強い。2005年になっても、すべての人が“電話は必要ない”とはならないだろう。しかし、広帯域では10Mbps、100Mbpsとさらに高速を求めるユーザーもいる。電話を提供する一方で広帯域を広めていくなど、さまざまなサービスラインアップを用意し、その中でユーザーを広帯域に移していきたい」と語った。
NTT東日本代表取締役常務取締役法人営業本部長の森下俊三氏 |
無線基地局の次世代機イメージモデル。トライアル機と比べると非常に薄い |
無線カード型端末の次世代機イメージモデル。トライアル機に比べ、カード部以外の体積が約3分の1程度に小型化されている |
PDA一体型端末の次世代機イメージ。こちらもトライアル機に比べ小型化/薄型化となっている |