世界初の携帯電話を開発したモトローラですが、スマートフォン市場ではなかなか頭角をあらわせず、モバイル製品部門はグーグルへの買収を経て、現在はレノボの傘下となっています。
2016年になり、合体式スマートフォン「Moto Z」が大きな話題を集めていますが、老舗のメーカーらしく、過去には栄光に酔いしれる時期もありました。
スマートフォンの元祖の時代から高性能端末を送り出してきたモトローラの、苦難に満ちた歴史を振り返ってみます。
Androidスマートフォンがヒット
Droidシリーズは「iPhone不要」をキャリアにもたらす
2009年9月、モトローラはAndroidスマートフォン「DEXT MB220」を発表します。フルタッチディスプレーのスマートフォンでありながら、本体を横スライドさせとQWERTYキーボードがあらわれる構造で、タッチパネルだけのiPhoneよりも高速に文字を入力できました。続く10月にはよりスタイリッシュなボディーデザインとなる「Milestone」を発表。これが各国でヒットを飛ばします。
アメリカでは最大手の通信キャリア、ベライゾン・ワイヤレスがMilestoneをCDMA2000に対応させ「Droid」(Droid 1)として発売。当時のiPhoneはGSM/W-CDMA方式にしか対応しておらず、CDMAキャリアのベライゾンはiPhoneを取り扱うことができなかったのです。
しかし、ベライゾンはiPhoneの対抗馬として、キーボードを備えた優位性などを大々的にアピール。iPhoneが無くとも新規顧客を引き寄せることに成功したのです。混迷していたモトローラのスマートフォン戦略は、Androidを第一にするという戦略変更で、ようやく立て直しに成功。この年はMilestoneとDroidの両モデルで100万台以上を販売しています。
2010年になると大量のAndroid端末を市場に投入します。Milestone/Droidの後継モデルとなる「Milestone 2」「Droid 2」。そのキーボードを無くした「Milestone XT720」「Droid X」、キーボードが背面側に反転する「Backflip」。小型ディスプレーに縦型QWERTYキーボードを搭載した「Charm」と、そのキーボードが回転する「FlipOut」と、ギミック的にもおもしろい製品を次々と生み出しました。防水防じんに対応した「Defy」が誕生したのもこの年です。
それらに加えて、透明フリップカバーの「Aシリーズ」も2010年にモデルチェンジ。OSをLinuxからAndroidへと変更し、複数のモデルを登場させました。なお、このフリップスタイル端末は中国で「Moto Ming(明)」の愛称が付けられ、長年にわたり人気を誇っていました。
翌2011年には大きな動きが起こります。まずはモトローラの分社化です。これは携帯電話部門が不信に陥っていた2008年に計画されていたのもので、インフラやソリューション部門を「モトローラ・ソリューションズ」へ、そして携帯電話部門は「モトローラ・モビリティー」と2つの会社に分離されました。
Milestoneシリーズの大ヒットでスマートフォン市場で攻勢に出るモトローラにとって、この分社化は端末開発の強化に優位に働くはずでした。この年はB2B市場を狙った「Atrix」や「Pro」も発売。AtrixはノートPC型のドッキングステーションで拡張できる端末、ProはBlackBerryスタイルの縦型QWERTYキーボード搭載機でした。
なお、この年にはタブレットにも進出し「Xoom」を発表。こちらもB2Bも見据えた端末でしたが、iPadやGalaxy Tabなどの前に販売数を伸ばすことはできず、結果として1年で製品展開は終了してしまいます。
「Milestone 3」「Droid 3」とヒット商品の後継モデルは引き続き販売は好調でしたが、端末販売台数が最盛期まで復活することは無かったのです。モトローラの全端末販売台数は2009年に5846万台と、前年の1億652万台から約半減。Milestone/Droid効果があったものの、2010年は3386万台まで落ち込み、2011年に4027万台とようやく持ち直します(数値はガートナー、以下同)。
ここから販売数が復調するかと思わましたが、2011年8月にグーグルがモトローラ・モビリティーの買収を発表。モトローラのスマートフォン戦略が再び大きく変わることになります。
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