自作PCファンであれば、その名を知らないものはいない「玄人志向」。それだけに、このブランドを「Crowxis」(クロウシス)へとリニューアルするというニュースに、ショックを受けた読者も多いことだろう。
ブランド名の変更は今まで積み上げてきたものを捨て、新たに再出発する行為だ。PCパーツにおける「玄人志向」というブランドは知名度が非常に高く、当然、その価値も高い。そう、わざわざ変える理由が思いつかないのだ。
正直なところ、安易な思い付きによる自滅行為ではないか……とまで考えてしまったのは、筆者だけではないだろう。
そこで、玄人志向ブランドを展開するCFD販売株式会社 代表取締役社長の三谷弘次氏、そして第二事業推進部 プロダクトマネジメント第三グループ 次長・グループリーダーの黒川裕大氏にインタビューし、ブランドのリニューアルという大きな決断をした真相をうかがってきた。
自作PCファンに受け入れられているブランドをなぜ変えるのか?
「玄人志向」が「Crowxis」に変わる理由
「玄人志向というブランドは、「価格と性能のバランスに優れた合理的な選択肢」として支持されてきました。しかしユーザー調査をしてみると、ブランドのネーミングや無骨なイメージが、「難しそう」あるいは「不親切そう」といった、心理的なハードルになっていることが判明しています」(三谷氏)
「ありがたいことに、玄人志向のブランドを検討して購入してくれている方は多くいて、購入アンケートの結果でも満足度は高いです。ただ、誰かに玄人志向の製品を推奨しますか、というアンケートでは、購入者の3割くらいしかいないんですね。つまり、口コミで広まっていかないことに、危機感を覚えました」(黒川氏)
このままのイメージでは新規の購買層に届かなくなり、売れなくなってしまうのではないか……。こういった危機感から、ブランドとして発信していかないと、知ってもらうこともできないと考えたそうだ。
玄人志向が過去のイメージを引きずってしまっている要因のひとつが、サポートへの印象だ。当初は「サポートなし」としていたが、2014年頃からは一部の製品でのメールサポートを開始。2017年頃からは国内でのメールサポート基盤を構築し、2019年からは全製品でメールサポートを開始するなど、サポートにも力を入れるようになっている。しかし、登場当時の強烈なイメージが残っており、いまでもサポートがないと思っている人も少なくないとのことだった。
また、ブランドに日本語があると、言葉として捉えられてしまうことがあるとのこと。「玄人」という言葉を直接受け取られてしまうと、「玄人向けのメーカーなのか」となり、壁を感じて敬遠されてしまう可能性があるわけだ。
「サポートも改善されていて昔とは違うというのをアピールしたいですし、新規の方にもブランド名で壁を感じて欲しくない、というのがあって、ブランドのリニューアルを考えました」(黒川氏)
「Crowxis」って、どういう意味?
ブランドのリニューアルにあたり、気になるのが新ブランドの意味。「Crowxis」というのは、どういった意味が込められたブランドなのだろうか。
「Crowxisは、Crow(カラス)とAxis(軸)をかけ合わせた造語になります。ここでいうCrowは八咫烏(やたがらす)のことで、日本神話で道案内をしたことになぞらえています。Axisは軸で、こちらは「ぶれない選択の軸」という意味合いです」(黒川氏)
八咫烏は日本神話で神武天皇を導いたとされる、道案内=知恵の象徴だ。ユーザーが必要としている最適な選択肢へと導けるよう、八咫烏をモチーフとしたとのことだ。
また、Axisには流行や価格だけに流されず、価値や納得といった選択の軸となるものを持つ、という意味が込められている。
「この2つの意味を合わせ、『知恵をもって、ぶれない選択の軸を提供する』ブランドを表現しています。今の時代は情報が多過ぎて、何が正しいのか、どう選べばいいのかがわかりにくく、迷いやすくなっています。そんな中、ユーザーが迷わず選べる方向性、軸を提示する必要があると考え、そういった決意を込めたブランド名にしました」(黒川氏)
ちなみに、Crowという単語もいきなり出てきたのではない。玄人志向は「クロシコ」と略されて呼ばれることも多かったため、新ブランド名でも「クロ」の響きは継承しようと考えたとのこと。いくつか出た候補の中から、ブランドのイメージや意味になるものを考えた結果、Crowが選ばれたわけだ。これは、「玄人志向」というブランドを捨てるのではなく、玄人志向で培った価値を継承し、Crowxisという新しい形へと受け継いでいくという姿勢の表れともいえるだろう。
気になったのは、「知恵をもって、ぶれない選択の軸を提供する」や、キャッチにある「PCの選択に、確かな軸を」という言葉だけを見ると、もしかすると上から目線で価値観を押し付けられるのではないか、という懸念があることだ。
ここは明確に否定されており、あくまで選択の軸はユーザーがもつもので、押し付けはしないとのことだった。
「判断材料となる情報を共有し、それをどういう視点で見るといいのか、というように導いていければなと思っています。例えば、予算の都合でCPUを下のモデルにしたけれど、実はやりたいのは、CPUが重要なゲームだった……というようなことが往々にしてあると感じています。こういった時に必要な判断材料を我々が提供できれば、皆さんも納得して購入できるのではないかと考えています」(黒川氏)
目的に合ったスペック、パーツ選びをどうするかといった情報をメーカーが提供することは少なく、ほとんどの場合は販売店や、PC情報サイトに頼ってしまっている。そこを何とかしたいという思いがあったのだろう。
なお余談だが、情報や視点を言葉で伝えるという意味合いから、AxisではなくWordという候補もあったそうだ。最終的にAxisが選ばれたが、その検討中も、多くの試作ロゴが作られている。その中から、初期ロゴの1つを紹介しよう。
図形シンボルとブランド名、そしてキャッチという構成は同じだが、注目して欲しいのはシンボル部分。なんと、八咫烏がサングラスをかけているのだ。
最終的にブランドロゴからサングラスはなくなっているが、もしかするとそう見えないだけで、サングラスをかけている可能性がある……かもしれない。
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