ソニーは7月9日、有線IEM(In Ear Monitor)の新機種「IER-M500」を発表した。ステージのライブパフォーマンスに特化した、密閉型のモニターイヤホン。プロのミュージシャンやエンジニアがステージ上で確実にモニタリングできるよう遮音性、装着性、音質などにこだわって開発した製品となる。
発売は8月28日。ソニーストアでの販売価格は1万9800円。カラーバリエーションはレッド&ブルー、ブラック、クリアの3種類。いずれも内部が確認できるスケルトンデザインを採用、肌や髪の毛になじむデザインにしている。
同日には、東京の世田谷スタジオで実際のアーティストの演奏をモニタリングする試聴デモも実施され、5月にソニー・ミュージックレーベルズ/gr8!recordsからメジャーデビューしたばかりの男女4人組ロックバンド・ミーマイナーの各メンバーが実際に聞いている音を聞きながら、その実力を知ることができた。
遮音性、装着性、耐久性などに配慮したプロ用イヤモニ
イヤモニなどとも言われるIn Ear Monitorは、プロがライブパフォーマンスなどで使用するモニターイヤホンだ。ライブで使用するイヤホンのため、装着安定性、遮音性、耐久性の高さが求められ、音を確認するという用途に合わせて、一般的なリスニング向けの製品とは異なるチューニングが施されている。
ソニーはこれまでも立体音響制作に適した開放型モニターヘッドホンの「MDR-MV1」やレコーディングやミキシングを想定した「MDR-M1」など、さまざまなプロ用ヘッドホンを開発してきたが、IER-M500はステージでアーティストが実際に装着して演奏することを目的としたステージパフォーマンス向けの製品となっている。
一口にプロ用といっても、使用目的や作業する内容によって求められるポイントは少しずつ変わってくるので、それに合わせてきめ細かくラインアップをそろえているというわけだ。
例えば、ライブパフォーマンスでは、周囲の音を聞きながら、演奏中のクロック(テンポに合わせて一定間隔で鳴る信号音)、自分の声や演奏している楽器の音がしっかりとわかるということが重要になる。これは音楽全体の音をバランスよく聞くのとはまた別の用途だ。また、ステージ上では外の音も回り込んで耳に入ってくるが、聞きたい音とそうではない音が混ざらないことも重要だ。
モニターする際には、アーティストの指示に合わせて、それぞれの音の強弱を変えて再生されるが、遮音性が低かったり、装着性が甘くて使っているうちに緩くなったりすると、余計な音が入ってきて大事な音を聞き逃すことにもつながりかねない。
こういった状況下で聞き取りやすく、細部まで音を見通せる高音質を実現するのが難しいテーマになるのだ。
音が良く外れない、IER-M500のポイントは?
IER-M500について少し詳しく見ていこう。
本体は高い遮音性と音質を両立するため、外気への経路を完全になくした完全密閉構造を採用。これに大型のアコースティックチャンバー(ドライバーを中に収納する音響空間)を組み合わせた独自の音響構造を採用している。
本体は耳栓のようにぴったりとフィットし、ステージ上の大音量から演奏者の耳を守る役割を果たす。さらに、ステージ上で鳴っている音がかぶることによって、モニタリングしている音が聞こえにくくならないようにすることにも貢献する。
演奏中はアーティスト自身が激しく動くことも多く、ちょっとした隙間が密閉感を下げる理由になったり、汗の侵入につながることもある。外れにくく、装着性の高さを維持できる点も重要だ。
本体には独自のポリウレタンフォーム素材を用いた「ノイズアイソレーションイヤーピース」(4サイズ)を同梱し、遮音の難しい高周波領域のノイズも効果的に減衰させられるという触れ込みだ。
音質面では、5mmと小口径で、空気圧の変化に強いドライバーを採用した点もポイント。音質面では米国のモニターエンジニアで、ビヨンセなどの楽曲も手掛けたNoel Edwards氏と共創し、プロのニーズに応える音質チューニングを実施したという。
耳の形状にフィットしやすいエルゴノミックサーフェイスデザインや5つのサイズが用意された新開発のフィッティングサポーターなども装着性を高めるポイントとなる。フィッティングサポーターは小耳の人にも合うよう小さなサイズも途中で追加したそうだ。
ステージ上で映える透明筐体に加えて、暗がりでも左右がスピーディーに認識できる、赤と青に色分けしたモデルを用意したり、つまみやすくしっかりと固定できる大きめのケーブルクリップを開発したりと、細部までこだわったつくりも印象的だ。
また、音導管の内径を広く設計して、汗による詰まりや音割れのリスクを抑制。着脱式コネクターはMMCXタイプではあるが、耐久性の高いソニー独自規格とし、ハンガーを含めて試験を繰り返している。プロの過酷な使用環境にしっかりと応える仕様だという。
主な仕様は再生周波数帯域が10~40000Hz、インピーダンスが16Ω、感度が103dB。ケーブルを含まない本体の重量は約6.9gだ。
体験して分かったリスニングとは違うイヤモニの音
デモパートではIER-M500をスタジオのワイヤレスレシーバーにつなぎ、チャンネル切り替えでメンバーそれぞれが聞いている音を聞くことができた。
披露された楽曲は1st EP『部屋とガラクタと私』に収録されている「純文学」と7月15日にデジタルリリースされる新曲「君はサイダー」の2曲。後者は夏の青春や恋心を歌ったこの場が初披露の楽曲。暑い夏にさわやかな風が流れるような、ちょっとした清涼感があり、時間で例えるなら日がカンカンに照った真昼よりも夕暮れどきのような肌触りがあるもの。
演奏は各曲2回で、1回目は演奏をそのまま、2回目はイヤモニを通してチェックする形だった。
まずは装着感から。本体は軽く小さめ。耳にケーブルを巻き付けて固定するタイプだが、密閉感が非常に高く安定度が高い。遮音性にこだわったという説明だったが、うまく耳にはまると、周囲の余計な音が入らず集中感を高めてくれる。
音については、明瞭でハッキリとしているが、単に直接音が把握しやすく、音が近いイヤホンというわけではなく、適度な空間の広さや音の立体感も感じさせるチューニングになっている。立体感があると、楽器ごとの分離感も上がるので、全体の中でのこの声、この楽器が把握しやすいというメリットもありそうだ。
また、密閉感の高さは低域の充実感にもつながっていて、量感があることに加えて、リズムの歯切れよさなどビートの再現もいい。このあたりは、5mmと口径の小さなドライバーを採用した点も功を奏しているように思える。
イヤモニでは、クリック音などが立って聞こえ、各楽器やパートが良好に分離することが重要だ。本機はその点でも優れているし、ワイドレンジで高域が伸び、かつボーカルなどの子音もきつすぎず、魅力的な音色で響くので、リスニング用途でもモニター系の音が好きな人には合っているだろう。
次にイヤーモニターとして使った場合の感想だが、ここは初めての経験ということもあって、興味深い発見が多かった。
まず、面白いのは同じ楽曲ではあるが、メンバーによって音量やトーンバランスの設定がかなり異なっていた点だ。ここはあとでメンバーからも詳しく説明があったが、演奏に臨む際にどの音を聞くか、どうすれば集中度が高まるかについての考えが反映されているのが分かった。また、クリックや自分の楽器だけが聞こえるようにしているというよりは、全体の音を聞きつつも自分が重視する優先度にそって強弱を大きく変えているのもわかった。
よくアーティストのインタビュー記事などを読むと、イヤモニの調整がパフォーマンスに大きく影響するため、「返しの調整にもこだわっている」といった説明があるが、なるほどこういうことかと納得できる。
一方で、スタッフの説明によると、これでもあまり差をつけていない調整でもあったという。ある意味、まったく聞く音が違う中、パフォーマンスとしては全体のバランスが取られる。この成り立ちが面白さを存分に感じさせる面白いデモだった。
ミーマイナーメンバーに聞く、プロはライブの音をどう選ぶ?
最後にパフォーマンスを終えたメンバーの声を取り上げながら、アーティストの視点でみたIER-M500のメリットについてまとめていこう。
まずはイヤモニを着けたパフォーマンスは初めての経験だというギターボーカル担当の美咲さんとさすけさんから。
美咲(Vo/Gt/Composer)「めちゃくちゃやりやすくて最高です。カチカチというクリックを聞きながら演奏できるっていうのもそうだし、バランスがやっぱこう自分で好きなように調節できるので、すごいやりやすく、楽しいなと思いながら演奏していました。あとはこのイヤモニ、私が使っているのは(左右の色が)赤色と青色で違っていて、それもすごく可愛いなって思いました。大きく口をあけながら歌っても、ぜんぜんずれないし、(純文学のような)高音域がある歌を歌っていても、すごいやりやすかったです」
さすけ(Ba/Gt/Piano/Composer)「初めてイヤモニを経験しました。聞いていただいた皆さんはわかったと思いますが、耳の中に流れている音にクリックが入っているんですね。僕はパソコンでDTMのソフトを使って、クリックに合わせて曲を作っているのですが、まあ現代のバンドマンはみんなそうだと思うんですけど、クリックに合わせて演奏することで曲本来のグルーヴに近づくことができるっていうのがめちゃめちゃメリットだと思っています。
こういう同期音源の量が多い曲にも、フィーリングが合ってすごくやりやすいっていうのが一つですね。ベースの場合、結構ライブハウスでローが回って輪郭が見えづらくなって、何を弾いてるのか自分でモニターしづらい時があるんですけど、耳の中に遅延なくベースの輪郭が入ってくるので、演奏もやりやすく、ミスが少なくなりそうだなと思いました」
一方、ドラム担当の葵さんやギター担当のわたさんはこれまで使ってきたイヤモニとの違いについて指摘した。
葵(Dr)「ドラマーなので、常にイヤモニをつけて演奏しているのですが、ライブになるとすごく大きな動きをしながらの演奏になるので、結構イヤモニが取れやすいんですね。これが取れると、演奏中に鳴っているカンカンという音が止まってしまうので、(リズムが)ズレたり……っていうのがあるんですが、このイヤモニはフィッティングサポーターにちっちゃい突起が付いているので、ぜんぜん取れなくて! 今の演奏中も、ずっと激しめに叩いていたんですけど、ずれないので演奏もしやすかったです」
わたさん(Gt)「まず装着感がとっても良くて、外れる心配ないなっていう安心感がありました。ライブをしてると、どうしても歯を食いしばったりすることが多く、耳のあたりの形がちょっと変わって、外の音が一瞬耳に入ってきちゃうことがよくあったんですけど、それがまったくないですね。密閉感も安心感もあっていいなと思いました。
サウンドについても、イヤモニには結構いろんな種類があると思うんですけど、『音が近くて痛い』ものが多いイメージもありました。この機種はそこのバランスも良くて、これならばレコーディング時のイヤホンとしても使いたいなって思うぐらいでした。バランスよく演奏できたのがすごくよかったと思いました」
ソニーの担当者によると、美咲さんと葵さんは耳に合ったもっとも小さなフィッティングサポーターを使って演奏に臨んだとのこと。「小さい耳の方でもしっかりと外れないようにしよう」と思って作ったものだというが、それが葵さんにバッチリ合った点もうれしく思った点だという。
また、わたさんは音に適度な距離や空間性のあるところが聞きやすさや演奏のしやすさに繋がっている感覚があるとしたうえで、「すごい遠すぎるわけではなくて、あのもう大前提イヤモニなのでしっかり音がはっきりと聞こえるっていうところはもちろんあるんですけど、その上でちょっとこう空間を感じるような距離を感じるのは、僕にとっては結構ちょうどいいところの音質なのかなっていうイメージです」としていた。
音量も聴きどころもアーティストによって全く異なる
コメントを受けて記者から飛んだ質問に対してもプロならではの実感のこもった答えが返された。例えば、ライドやハイハットをハーフオープン(ペダルを緩めて上下のシンバルの隙間をあけ、余韻のある音を出す演奏法)の状態でたたいた際に、クリックが聞こえにくくならないかという質問。
葵さんは「ハイハ、それこそハイハットオープンは、『サビではほとんど』というぐらい多用しますが、クリックが消えてしまって、テンポがもたついたり、走ったりすることがある」と同じ認識があるとした。
そのうえで「合わさって聞こえるイヤモニが今まで多かった中、(IER-M500では)パートごとの音もしっかりと別々で聞こえてくるので、イヤモニ自体のバランスがいいんだなと感じています」とコメントした。結果、「ライドなどをたたいても、聞こえなくなることはなく演奏できた」と話していた。
また、イヤモニで聞く音のバランスをどう決めているかという質問に対して、美咲さんは「私だったら、自分のギターの音、クリック、ボーカルがよく聞こえる設定にしてもらっていて、声をあんまり張らなくてもAメロの部分のニュアンスを出せるようにしてもらいました」とコメント。
一方でメンバーによって重視するポイントは異なり、さすけさんは「レコーディング時に近い質感を求めて、クリックと自分の音だけで行ってますね、基本的に。今ライブで弾いたフレーズをそのまま音源にできるぐらいのものを目指してやっています」、わたさんは「僕もレコーディングの状態に近いようなところを目指しているんですけど、レコーディングする時も結構他の楽器の音量を出して、完成形に近いバランスでレコーディングをするのが好きなので、割と全部の音が聞こえるような感じです。ちょっとだけ自分の音が大きいかなぐらいの音量感で設定してます」と話す。
面白いのは葵さんで、「ドラムの私は、一番上に来るのがクリック。次がボーカルの声。で、ドラムはあまり気にしていなくて……」とのこと。「というのも、自分の場合あんまり、音というよりかは叩いている、その体の感じ方の方が自分では信用ができるので、ドラムの音というよりは、クリック・ボーカル・ベースで全体の音、ギターのわたさんとか全員の音をしっかりもらった上で叩いている感じですね。多分、私の耳中の音を聞いた人は、クリックの大きさに大丈夫か?って心配したかもしれませんが、ドラムの音と被った時に聞こえにくくならないように、常にこのバランスに上げてもらってる感じです」と答えていた。
会場にはソニーからIER-M500の開発メンバーも集まって、細かな質問にも対応してくれた。プレゼンでは大きくは紹介されなかったが、苦心して開発した大きめのクリップなど多くのこだわりを込めた製品だということだ。
プロジェクトリーダーの西川氏は「気合い入れた作った製品」であるとコメント。音響設計を担当した菊地氏は「音質でアメリカに行ってエンジニアとの共創や遮音性のところをアーティストさんにたくさんヒアリングしながら詰めていった」点を紹介。メカ設計のリーダーを担当した青木氏は「外装の設計、音響構造の具体的な設計に加えて、フィッティングサポーターの設計に力を入れ、全く取れる心配がなくミーマイナーさんも演奏に集中してくれたのが嬉しい」、機構設計の三林氏も「フィッティングサポーターにSサイズを追加したことが功を奏し、演奏者が安心して使える商品ができあがったと考えている」とコメントした。
商品企画の若林氏は「紹介しきれなかった部分もあるが、クリップやワイヤーハンガーなど、こだわって作られている部分はたくさんある。外部の話を聞いたり、このメンバーでも試行錯誤を重ねて本当にいいものができたと思っている」と語った。最後にヘッドホンプロデューサーの松尾伴大氏が「クリエイターや現場の声を聞いたりしながら実現した。非常に楽しいプロジェクトでした」と締めくくった。
ステージパフォーマンスのために開発されたIER-M500。これを装着したアーティストやエンジニアをテレビやステージで目にする機会も増えるはず。そんなときに、ここで体験した音や想いを思い出す機会も多そうだ。
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