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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第5回

【吉見俊哉氏×柳与志夫氏】「知の菌」が発酵する街、神保町。AI時代の身体性を呼び覚ます「都市のリデザイン」

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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【未来への展望】神保町から始まる「スローダウン」の都市政治学

玉置: 未来の展望を考えたいと思います。神保町で今やっていることが他のエリアにも波及することがあるのかということと、これから東京がどういう街になっていくのか。これは僕らが常に考えていることですが、神保町を起点にした未来像を最後にお伺いしたいです。

吉見: 未来の東京のビジョンに繋げてお話しすると、日本の全人口は1億2000万人から確実に減っていき、2050〜60年代には9000万人台になります。一方で東京圏(1都3県)の人口は3700万人ほどで、流入が続いているためすぐには減らないかもしれません。これは全くサステナブルではありません。地方が廃墟のようになる中で東京のみが栄え続けても、日本全体を維持できるとは到底思えないのです。二拠点居住や関係人口など、あらゆる形で東京を分散化し、地方を盛り返していく道しかありません。

 東京から人口や資本、情報を「マイナス」していくことは日本全体の中心的な課題です。それなのに東京では都心の巨大再開発が止まりません。高輪ゲートウェイシティや渋谷など、凄まじい勢いで全くサステナブルではない巨大化が続いています。しかし、この「マイナスサムゲーム」が進めば、東京の中にもいずれ空きビルやシャッター通りのような「空洞(ボイド)」が生まれてくるでしょう。

 私はそれを、都市が空間的な「余地」を取り戻し、豊かになる可能性だと考えています。地価が高騰し、再開発された地域ほど空間的に貧しい場所はありません。

玉置: 豊かさを収奪されているわけですからね。

吉見: 空間以上に重要なのは「時間的な豊かさ」です。東京の最大の問題点はスピードが速すぎることです。19世紀から20世紀の資本主義は領土を広げる「空間的拡張」で利潤を上げましたが、その行き着いた先は、2つの世界大戦だった。戦後、資本主義は「時間の回転速度」を速める「時間的な圧縮」に舵を切りました。AIが爆発的に広がるのも「速い」という最大の特徴があるからです。しかし、それは結果として私たちが時間的に貧しくなっていく過程でもあります。

 だからこそ、都市のスローダウンが必要です。柳さんと進めているTTT(東京トラムタウン)プロジェクトも、路面電車を取り戻して都市のスピードを落とそうという「時間の政治学」なのです。

玉置: そのリアルな「とっかかり」の1つに神保町はなり得る、ということですね。

吉見: なり得ます。神保町は読書の街であり、カフェや古書店を回るには非常に「時間がかかる」のです。AIに要約させて本を読んだ気になるのは間違いで、苦労して時間をかけて読むからこそ読書には意味がある。散歩も同じです。何度も同じ道を歩き、3時間半かけて歩くような、時間をかけるからこそ見えてくる世界があるのです。

 ふだんから、柳さんのように時間をかけて神保町を満喫し、効率化してはいけない時間や空間のあり方を提示すること。スピードアップではなくスローダウンや隙間の活用によって価値を生み出していく。大量消費型ではない、ゆっくりと楽しむこの「神保町モデル」こそが、能登や大分、越後妻有など全国の地方都市で起こっていることとも構造的に同じであり、持続可能な未来の形なのだと思います。

神保町から始まる「逆転の都市論」:身体性と知の生態系

:これまでのデジタルとリアルの融合は、人間がバーチャル空間へ入っていくものでしたが、それでは身体性が失われ「のっぺらぼうの空間」になってしまいます。私たちが考えているのはその逆、「リアルな空間にバーチャルが入ってくる」設計です。

 神保町という現場に行き、本を開いて「この人物は誰だ」と思った瞬間に、世界中のデジタル知識をその場へ呼び出す。この「知恵の探究ができる街」への転換が、最新のビジョンでも基本理念として掲げられています。

吉見:「ウォーカブルな街づくり」も、この地図的な回遊性が鍵になりますね。巨大再開発で街を均一化するのではなく、路地や雑居ビルの「隙間」を活かし、歩いて回るだけで魅力的な「歩き街」を再構築するのです。

:本は「完成品(動物)」ですが、ZINE(ジン)は「菌」のようなものです。 個体で完結せず、根っこのところで別のものと繋がり、インタラクティブに増殖していく。神保町は、こうした知の「菌」を育てるための苗床であり、発酵する図書館なのです。

吉見:個人の「親密圏」が菌のように増殖する一方で、それを受け止める「森(公共圏)」としての生態系も必要です。ビジョンにある「職住遊学」が一体となったコミュニティづくりは、まさにその公共的な「森」をデザインするプロセスと言えるでしょう。

【編集後記:玉置の眼】

 今回の対談で最も衝撃を受けたのは、お二人が語る「菌」や「発酵」という言葉だ。最新の「神保町リデザイン・ビジョン 2026年1月版」に目を通すと、そこには単なるエリア再生を超えた、「知のアップサイクル(高付加価値循環)」の緻密な設計図が描かれている。

 加速するAI社会において、人間が「自分自身の身体の輪郭」を保つための防衛線。それこそが、背表紙を指でなぞり、路地を彷徨い、知の菌にまみれる神保町という現場なのだ。吉見氏が説く「身体性」と、柳氏が構築する「リデザインされた街のOS」。この二つが噛み合った時、神保町は世界でも稀な知的OSを搭載した「発酵する都市」へと進化するに違いない。

●玉置泰紀プロフィール 1961年大阪府生まれの編集者、プロデューサー。同志社大学卒業後、産経新聞記者、福武書店(現ベネッセ)を経て角川書店に入社。「関西ウォーカー」など4誌の編集長や総編集長を歴任した。現在は角川アスキー総合研究所に所属し、「エリアLOVEウォーカー」総編集長を務める傍ら、国際大学GLOCOM客員研究員や京都市埋蔵文化財研究所理事、東京文化資源会議幹事、国際文化都市整備機構理事など、地域の文化・観光振興に幅広く携わっている。

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