ツールの内容を比べると違いは明らか
火が起こせるナイフは「生き残るためのツール」
ツール構成を並べて撮影してみると、差はさらに鮮明になる。
Cyber Toolは8種のドライバービット、ペンチ、眼鏡ドライバーを備え、ネジと向き合う構成だ。PCの裏蓋を開け、家具を組み立て、緩んだネジを締め直す。まさに「組み立てるためのツール」なのだ。
一方、Emergencyはどうか。
ファイヤーロッドと火口、LEDライト、ホイッスル、ピンにのこぎりが新たに参加。こちらは「生き残るためのツール」である。Cyber Toolにあったペンチと8種類の交換用ドライバービットは無くなったが、これは目的特化だと考えれば納得だ。
ファイヤーロッドはコルク抜きに収納され、火口をほぐしてのこぎりの背で強く削れば火花が飛ぶ仕組みだ。まだ実際の着火は試せていないが、原理は理解している。できるだけ早いうちに機会を作るつもりだ。火が起こせるという事実は、このサイズの道具として象徴的である。
LEDライトは懐中電灯にはならない。だが真っ暗闇でこの一本を使う手元を照らすには十分だ。真っ暗闇なら体感では1m先前後までは視認可能だった。停電時に床を探る、ブレーカーを確認する。その用途には必要十分だ。
小さなピンも面白い存在だ。ハンドル裏の小さな穴に収納される細いステンレスピン。用途は多岐にわたる。トゲ抜き、SIMトレイ取り出し、縫い針代用、リセットボタン押下。緊急時に「細い先の尖った硬い物」が必要になる場面は意外に多い。Cyber Toolには入っていない。思想の差がここにも現れている。
ワークショップで分解されたパーツ群を見たとき、ビクトリノックスは単なる便利道具ではなく、機能の選択と削除の目的特化集合体なのだと実感した。
Cyber Toolはネジと戦う。
Emergency Toolは暗闇と戦う。
Cyber Toolは机上の問題解決。
Emergency Toolは停電後の現実対応。
どちらが優れているかではない。目的や用途が違うのだ。
震災などの自然災害の多い国に住む身として、「火を起こせるナイフ」を持つという選択は決して過剰ではないだろう。バッグの中で眠り続けることが理想だが、いざという時に火花を出せるという事実は、静かな安心を与えてくれる。
衝動買いではある。しかし今回は、その衝動に明確な理由があった。分解された内部構造を見た直後だったからこそ、思想の違いが見えたのだ。
組み立てるためのナイフと、生き残るためのナイフ。
日常持ち歩く筆者のブリーフケースには、もう一枚レイヤーが増えた。いざという時に火花を出せるT教授でいたい……そんな自己満足も、悪くはない。

今回の衝動買い
・アイテム:ヴィクトリノックス エマージェンシーツール ハントマンライト
・購入:ビクトリノックス銀座店
・価格:1万3200円
T教授
日本IBMでThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。

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