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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第2回

【東京大学大学院・真鍋陸太郎氏】都市は「情報の織物」である。コミュニティ・アーカイビングが書き換える、没場所性を超えるレジリエンス

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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テーマ4:「歩きたくなる街」の数値化:体験的価値の推定

玉置: 真鍋さんの論文に出てくる「歩きたくなる街(ウォーカブル・シティ)」の数値化。今回の論文で特に気になったのが、「スマートフットウェア」を使った研究です。歩行の質をデータ化して、体験的価値を推定する。これこそデジタルと街づくりの融合の最先端だと思うんですが、人間の感情や散歩の質なんて、本当に数値化できるものなんですか?

真鍋: なかなか難しい挑戦ですが、これは内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という大きな枠組みの中で、企業さんと一緒に進めている研究です。名古屋をケーススタディにして、渡部一郎氏が中心となって進めています。靴の中にセンサーを仕込んで、歩幅や速度、加速度などの歩行データを取るんです。

玉置: 靴そのものがセンサーになるわけですね。

真鍋: そうです。どこで立ち止まり、どこで速く歩いたか。そのビッグデータと実際の街の状況を照らし合わせることで、「ここで人はどんな感情になっているか」を推測していく。さらに、スマートウォッチでのバイタルデータ取得や、その人がもともと何に興味を持っているかという「ペルソナ設定」も組み合わせます。こちらも若手の井上拓央氏が中心となっています。パートナーの竹中工務店は、例えば「こういう開発をすれば、こういう人たちが来て、こう感じる」という予測精度を上げたい。彼らが持っている「エモスケ(エモーショナル・スケープ)」という、空間と感情の相関を測るサービスの精度を上げるための共同研究でもあります。

玉置: ご自身もかなり細かく動いておられますよね。

真鍋: ついつい細かいことが得意なもので(笑)。会議でも「ここまで細かい作業をさせるのか」なんて言われます。僕らがやりたいのは、位置を特定して「どの場所にいた時に、どんなバイタルで、どんな動きだったか」を厳密に紐付け、分析すること。それが「意味」と「データ」を繋ぐ鍵になるんです。

「アーカイブ」ではなく「アーカイビング」と呼ぶ理由

玉置: 論文の中で僕が非常に刺激を受けたのが、「コミュニティ・アーカイビング」という言葉です。最後に「イング(-ing)」が付いている。これは先生が作られた言葉ですか?

真鍋: 僕が「-ing」をつけました。これにはこだわりがあって。都市計画って英語で「アーバン・プランニング(Urban Planning)」と言うんです。プラン(計画案)という「静的な成果物」ではなく、プランニングという「動的なプロセス」を指している。 アーカイブも同じで、収集・蓄積・活用という一連のプロセス全体こそが大事なんです。だからあえて「アーカイビング」と呼んで、プロセスそのものをデザインすることを提唱しています。

大森の商店街で「みんなの声」をサイネージに変えた実践

玉置: その「動的なプロセス」の好例として、大森山王の商店街でのプロジェクトがありますよね。

真鍋: 大森山王の商店街では、ワークショップで集まった地域の人たちの声を、いかに街に還元(フィードバック)するかに腐心しました。最初はアーケードに「みんなの声」を印刷したフラッグをぶら下げたんです。当時、東京オリンピック2020の誘致フラッグが並んでいましたが、「これ、情報量ゼロだよね」と思って(笑)。もっと街の生の声を載せよう、と。

大森山王まちづくりフラッグ

玉置: でも、紙だと張り替えが大変だったりしますよね。

真鍋: そう、ラミネート代もバカにならないし、数ヵ月に一度しか更新できない。そんな時、商店街の副理事長さんが「予算を確保したからサイネージを入れよう」と。2013年頃の話ですが、大手メーカーに頼むと高すぎるので、地元の腕利きの若手と一緒に自作したんです。OSにLinuxを積んで、メールで写真を送るだけで店舗前の表示を変えられる仕組みを作った。これが「まちまど」です。

玉置: 10年以上前に、商店主が自分で「今日のおすすめ」をリアルタイムで出せる仕組みを自作していたとは。

真鍋: ポイントは、単なる広告板にせず、まちづくりの情報収集とセットにしたことです。年末には「今年の一文字」をサイネージに表示したり、スマホの写真で「かるた」を作ったり。商店街の販促費を使って綿あめやカニ汁を配り、その代わりに街への想いを書いてもらう。そういう「泥くさい仕掛け」と「デジタル」を掛け合わせることで、初めてアーカイブが街の基盤として動き出すんです。

大森山王まちまど

2030年、価値を「トレード」できる街へ

玉置: 最後に、真鍋先生がこれから先、見据えている未来について一言いただけますか。

真鍋: 個人の思いがどう街に反映されるか、そこをもっと追求したい。街の価値って、人それぞれ違いますよね。その多様な価値を可視化して、お金ではないところで「価値をトレード(交換)」できるような社会的な仕組みを作りたい。 竹中工務店さんとの研究もそうですが、コンサルとして入るのではなく、学術的な支援として「価値の交換」に基づいた開発のあり方を提示できれば、街はもっと面白くなる。そう思っています。

筆者(左)と真鍋氏

【編集後記:玉置の眼】

 「情報の民主化」ならぬ「地図の民主化」を掲げるStrolyの高橋真知氏と、地域の記憶を「情報の織物」として編み直す真鍋氏。二人の根底にあるのは、巨大なシステムに回収されない「個人の物語」への敬意だ。 真鍋氏が語る「没場所性」への抗いは、デジタル技術を単なる管理ツールとしてではなく、私たちが自分たちの街を「自分たちのもの」として取り戻すための筆として使う挑戦でもある。未来は、誰もが自分の視点で街を書き換え、歩くたびに新しい物語に出会える。そんな「多層歩行」の時代がすぐそこまで来ている。

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