Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第2回
【東京大学大学院・真鍋陸太郎氏】都市は「情報の織物」である。コミュニティ・アーカイビングが書き換える、没場所性を超えるレジリエンス
テーマ3:メタ観光の「次」:情報のレイヤーが変える都市の価値
玉置: 僕も理事として一緒に活動している「メタ観光」について教えてください。大きく言えば、「情報のレイヤーが都市の価値を変える」という話です。 真鍋さんの論文の中でも、代表理事の牧野友衛さんがよく仰っている「観光は情報の消費である」という定義を引用しつつ、墨田区でのメタ観光祭の実践などを紹介していますね。行政がこれまで決めてきた「公式な観光資源」だけでなく、一個人の「マンホールの蓋」への偏愛や、行き止まりの「ドンツキ」といったものまで、フラットに価値化していく。こうした「文化の民主化」が進むことで、専門領域である「都市計画」はどう変わっていくのでしょうか。
真鍋: 都市計画とメタ観光が普段から直接結びついているわけではないんですが、メタ観光的な「資源を見つける」あるいは「あるものを可視化する」というプロセスは、都市計画における物理的な整備に非常に重要なヒントをくれると考えています。 というのも、物理的な空間を作る際に一番難しいのは、「どんな文脈(コンテキスト)でそのものを作ればいいか」という判断なんです。これまでの都市計画が「金太郎飴」的なハコモノばかり作ってきたと言われますが、それは作る側が無能だったからだけではなく、その町にふさわしい固有の文脈を「読み取る手段」を僕たちが持っていなかったという側面もあると思うんですね。
玉置: 読み取るための「道具」がなかった、と。
真鍋: そうなんです。メタ観光のように、ニッチな視点から大衆的な視点までを「レイヤー」として重ねて可視化できれば、整備の際に「どのレイヤーに力点を置くべきか」を住民と一緒に決めやすくなりますよね。 最近だと江東区でもメタ観光の取り組みが始まっていますが、あれは江東区の方から「やりたい」とアプローチがあったんです。最初、僕と玉置さんで区役所を訪問しましたよね。あの時の担当の方のセンスが素晴らしくて。一気に盛り上がって、これから5年かけて展開していくという話になっています。
市民は「センサー」である:25年前の世田谷から続く思考
玉置: 山口県での取り組みも盛り上がっていますよね。地元の高校生たちが探究学習の一環としてメタ観光に取り組んでいて。
真鍋: 山口県での、メタ観光のプロジェクトは本当に面白いですね。地元の「株式会社3in(さんいん)」という、元高校教師の方たちが立ち上げた組織の熱意が凄まじいんです。 最初は、ほかの理事も「高校5校を一度に相手にするのは、防衛的に準備を固めないとパンクする」と心配していましたが、実際には彼らがメタ観光の本質を深く理解して、自律的に動いてくれた。高校生の「探究学習」とメタ観光の「資源発見」が見事にマッチしたんです。
玉置: 真鍋さんは論文の中で「市民をセンサーにする」という言葉を使われていますが、これは先生の原点でもありますよね。
真鍋: はい。僕が博士論文で取り組んだのは、世田谷区での「子育て支援情報」の集積でした。当時はまだベビーカーで入れる店や、駅のエレベーターの場所なんてどこにも載っていなかった。そこで子育て団体と一緒に情報を集めてマップ化していったんです。その時、障害者団体の方たちとも繋がりができました。「ベビーカーが行ける場所は、車椅子でも行けるよね」と。「子育て」と「障害者」という異なる視点(レイヤー)を持っていても、見ている対象や価値は重なる。この「違う視点で同じ場所を語り、レイヤーを重ねる」という思考は、僕の博士論文から現在のメタ観光まで一貫して流れている方法論なんです。
地図プラットフォームの自作と「アスキー×真鍋」の可能性
玉置: 地図システムについてですが、Stroly(ストローリー)の高橋真知さんは独自のプラットフォームを展開されています。一方で、メタ観光はGoogleマップやオープンストリートマップを使っていますよね。
真鍋: 今はもう、リーフレット(Leaflet)などのライブラリを使えば、自分たちで地図を自由に描ける時代です。地図プラットフォームを介さなくても、自分たちでデータベースを組んで、国土地理院の地図などの上に表現できてしまう。 僕が本当に作りたいのは、単なる地図ではなく、そこに紐づく「アーカイブシステム」です。人々の「はかない記憶」や、多様なレイヤーを蓄積し、引き出せる場所。
玉置: それは面白い! アスキーと真鍋さんがタッグを組んで、自治体が手軽に導入できる「物語のアーカイブ・システム」を構築できたら、ものすごい価値になりそうです。
真鍋: ぜひやりたいですね。ソフトな「物語」を地図上で重ね合わせる。過去から現在、そして未来の予測までを多層的に可視化する。そんな新しいサービスの形を、アスキーの皆と一緒に作っていけたら最高ですね。

