Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第2回
【東京大学大学院・真鍋陸太郎氏】都市は「情報の織物」である。コミュニティ・アーカイビングが書き換える、没場所性を超えるレジリエンス
街づくり、街おこし、そして都市計画。その最前線には、常に常識を書き換える「キーマン」たちがいる。元ウォーカー総編集長であり、長年日本の街を見つめ続けてきた玉置泰紀が、いま最も話を聞きたい相手に直撃、大きく変容する日本の「新しい街の形」を紐解いていく。
第2回は、東京大学大学総合教育研究センター教授の真鍋陸太郎氏。効率重視の都市計画が地域の個性を奪う「没場所性」に対し、真鍋氏が提唱するのは、住民の記憶や物語を資産化する「コミュニティ・アーカイビング」だ。黒電話を使った記憶の収集から、最新のスマートフットウェアによる歩行データの解析まで。デジタルとアナログを往来しながら、都市を「意味の充満する場所」へと再定義する、真鍋流・まちづくりのOSに迫る。
【真鍋陸太郎氏プロフィール】
真鍋 陸太郎(まなべ りくたろう) 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授。博士(工学)。専門は都市計画、まちづくり、コミュニティ・アーカイビング。ジェイン・ジェイコブズの思想をデジタル技術で現代に実装する試みや、メタ観光、教育DXなど多岐にわたるプロジェクトを牽引。著書に『まちづくりデジタルトランスフォーメーション』など。
テーマ1:「教育DX」と「街づくり」の意外な接点:情報の循環
玉置: 真鍋さんは今、東大の教育DX推進を担当されていますよね。一見遠い「大学のDX」と「まちづくり」ですが、先生の論文ではその二つが共通のプロセスで語られています。まずは今、大学で具体的にどんなお仕事をされているのか、そこからお聞きしてもいいですか?
真鍋: 正確には「大学総合教育研究センター」という全学組織の「教育DX推進部門」に所属しています。今まさに手掛けているのが「UTokyo ONE(ユートン)」というシステムです。 今の東大って、学生が使うデジタルサービスが多すぎてバラバラなんですよ。それを一元化してワンストップで使えるようにしようという試みです。
玉置: 窓口を一本化する。学生にとっては切実な話ですね。
真鍋: そうなんですが、これが一筋縄ではいかなくて。大学には「学務システム(履修や卒業判定)」と、授業で使う「LMS(ラーニング・マネジメント・システム)」という巨大な二つの山がある。これらが部局(学部)ごとの細かいルールで設計されているので、中身を置き換えるのはほぼ無理なんです。だから、せめて入り口だけでも一つにしよう、と格闘している最中です。
玉置: 他にも、コロナ禍で注目された「MOOC(ムーク:大規模公開オンライン講座)」や、学外向けの「東大TV」なんかも先生のセンターの担当ですよね。
真鍋: はい。もう一つの「TL(ティーチング・アンド・ラーニング)推進部門」が担当しています。講義を収録して公開し、単位認定までつなげたり。そうした「情報の集積・蓄積・活用の連環」をデザインする仕事が、僕の中では「まちづくり」と分かちがたく結びついているんです。
90年代、自力でコードを書いて「地図」を民主化した
玉置: 真鍋さんの論文でも「情報流通による関係性の再構築」という言葉がキーワードになっています。まちづくりの専門家である真鍋さんが、なぜこれほど「情報の連環」を重視されるようになったんですか?
真鍋: 僕の原点は、1992年の都市計画法改正にあります。この時「都市計画マスタープラン」の策定に市民参加が義務付けられ、日本中で市民参加の会合が盛んになりました。でも、当時大学生だった僕は思ったんです。「週末ごとに街のことを考えに集まるなんて、普通は無理だよ。遊ぶ方が絶対いいに決まってる」と(笑)。
玉置: 確かに、ごく一部の熱心な人しか参加できない仕組みですよね。
真鍋: そう。その「積極的な参加」を強いるまちづくりに疑問があって。もっと日常の中で、なんとなく情報を得たり意見を伝えたりできないか。そんな時、Windows 95が出て、ガラケーにGPSや写メが付いた。1998年に博士課程に行った頃、「これだ、インターネットの地図に直接書き込めればいいじゃん!」と思いついたんです。
玉置:1998年! Googleマップすらない時代ですよね。
真鍋: 何もありません。だから全部自分でコーディングしました。一からピュアJavaでサービスを書き、JavaScriptを使用したユーザーフレンドリーな機能を入れて、地図は1/3ずつ都度サーバに読みにいってスクロールさせるシステム「カキコまっぷ」を作ったんです。これが僕の「アーカイビング」の始まり。市民から情報を集め、地図の上に蓄積し、それを公開して活用する。まさに今の研究に直結しています。
デジタルは、市民が手に入れた「新しい民主化」の武器
玉置: 都市工学の真鍋さんが自力でそこまで……。その実感が「デジタル=共通言語(コモンズ)」という思想に繋がっているんですね。
真鍋: そうですね。まちづくりにおけるデジタルやネットワークの本質は「新しい民主化」です。かつてはミーティングを一つ設定するのも電話やFAXで大変な時間がかかったし、個人が情報を発信する方法もなかった。 それが今や、SNSやLINEで誰でも写真や動画を共有できる。これは市民側が「力」を手に入れたということなんです。情報発信ができるようになれば、市民同士のつながりも、行政との関わり方も書き換わる。
玉置: デジタルを単なる効率化の道具ではなく、コモンズ(共有財)を作るための基盤として捉えるわけですね。
真鍋: はい。学生にもいつも言っています。「君たちが当たり前に使っているそのスマホは、市民が力を手に入れるための武器なんだよ」と。教育DXもまちづくりも、その「力」をどうデザインして、新しい関係性を築くか。そこが僕のやっていることのすべてなんです。


