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歴史的建造物と高層ビルが融合! 都市開発マニアが案内する「丸の内建築ツアー」 第28回

かつての東洋一から日本一のビルへ! 丸の内の空を塗り変える「TOKYO TORCH」再開発秘話

文●きりぼうくん

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朝日生命大手町ビルの建設(1971年)

 朝日生命大手町ビルは、東京都千代田区大手町二丁目、江戸通りと永代通りが交差する地点の北東角に位置していた超高層オフィスビルです。1971年7月に竣工し、当時の丸の内・大手町エリアでは初となる本格的な超高層ビルとして、大きな注目を集めました。その建築的価値と先進性が評価され、第14回BCS賞を受賞しています。

 朝日生命保険相互会社と東海銀行(現・三菱UFJ銀行)が、東京都下水道局施設跡地を活用して進めた前回の「常盤橋地区再開発計画」の一環として建設されました。設計は日建設計、施工は清水建設が担当しており、清水建設にとっては初の超高層ビル施工という点でも、技術史上重要な建築物といえます。地上29階、地下4階、高さ119.0メートルの規模を誇り、日本の超高層建築が「普及の時代」へ移行する象徴的な存在でした。

 竣工当初の名称は「朝日東海ビル」で、用途は主にオフィスです。地下1階の一部と地上4階を除く8階までを東海銀行が使用し、それ以外の多くのフロアには朝日生命をはじめとする複数の企業や飲食店が入居していました。また、4階床の高さには低層基壇部の屋上を活用した庭園が設けられ、都心のオフィスビルでありながら、利用者に憩いの空間を提供していた点も特徴です。

 交通利便性の高さも大きな魅力でした。東京メトロ東西線・大手町駅と直結しており、地下の商店街を通じて周辺ビルとも接続していました。さらに、地下には大規模な駐車場が整備され、首都高速八重洲線や周辺ビルと直接連絡するなど、当時としては極めて先進的な都市インフラの一部を担っていました。

 外観デザインでは、低層部に厚さ4ミリ、上部に2.5ミリのアルミニウム板を用いたカーテンウォールを採用しています。白色を基調としながらも、窓を深く取ることで陰影を生み出し、単調さを避ける工夫が施されていました。また、頂部にはハロゲンランプによる天気予報表示板が設置され、夜間には天候を示す電光表示が街に彩りを添えていたほか、オープン当時は塔屋からレーザー光線を発射するという、まさに昭和のレトロフューチャーな超高層ビルでした。

 その後、所有者の変遷や経済環境の変化を経ながら、朝日生命大手町ビルは長年にわたり日本の金融・ビジネスの中枢を支えてきました。しかし、三菱地所が主導する大規模再開発「TOKYO TORCH」の再開発計画の進展に伴い、その役割を終えることとなります。ビルが建っていた場所には、日本一の高さを誇る「Torch Tower」が建設中です。

 これにより、朝日生命大手町ビルは2022年(令和4年)10月から閉鎖され、解体工事が進められました。半世紀以上にわたり大手町の景観と都市機能を支えてきた同ビルは姿を消しつつありますが、日本の超高層建築史と都市再開発の歴史において、その存在意義は今なお大きなものとして語り継がれています。

南西側から見た朝日生命大手町ビルの様子(2020年8月撮影)

朝日生命大手町ビルの頂部にはロゴが取り付けられていた

南東側から見た朝日生命大手町ビルの様子

朝日生命大手町ビルと日本ビルヂングの様子

北東側から見た朝日生命大手町ビルの様子

北西側から見た朝日生命大手町ビルが建っていた頃のTOKYO TORCHエリアの様子

TOKYO TORCH(東京トーチ)の再開発事業

 2016年に内閣府の国家戦略特区と第一種市街地再開発事業認可が行われ、TOKYO TORCH(東京トーチ)の開発プロジェクトが始動します。TOKYO TORCH(東京トーチ)は「大手町連鎖型都市再生プロジェクト(第4次)」の一環として位置付けられ、老朽化した業務ビル群の更新と、国際競争力を備えた都市拠点の形成を目的に計画されました。

 再開発以前の街区には、日本ビルヂング、朝日生命大手町ビル、大和呉服橋ビル、JXビルといった昭和期に建設された既存建築物が建ち並んでいました。これらは機能・耐震性の面で更新期を迎えており、加えて地下には下水道ポンプ所や変電所、都市計画駐車場など重要な都市インフラが集積していました。そのためTOKYO TORCHでは単なる建物建替えにとどまらず、下水・電力・交通といった都市基盤を一体的に再構築する点が大きな特徴となっています。

 事業は段階的に進められました。まず2017年から2018年にかけて大和呉服橋ビル、JXビルの解体が行われ、その跡地にA棟である「常盤橋タワー」が2018年1月に着工し、2021年6月に竣工しました。続いて、日本ビルヂングの北側一部を解体した敷地に下水道機能を担うD棟の「銭瓶町ビルディング」が建設され、2022年3月に竣工しています。これにより、地下インフラを止めることなく次の開発段階へ進む体制が整えられました。

 その後、2022年10月から、街区の中核となるB棟の「Torch Tower」の建設に向け、朝日生命大手町ビルおよび日本ビルヂングの本体解体が進められ、2023年9月にTorch Towerが着工しました。2028年5月のTorch Tower竣工をもって、TOKYO TORCH全体が完成する予定です。

 Torch Towerは地上62階、地下4階、高さ385mを誇り、完成すれば日本一高い超高層ビルとなります。構造面では、超高層かつ超大型建築に対応するため、外殻制振構造による高強度鉄骨を用いた制振構造が採用されています。9階床、高さ約52メートルまでの低層部には「ダイヤグリッド架構」と呼ばれる巨大な斜め鉄骨柱を配置し、斜めに配置された鉄骨の柱や梁で構成する三角形フレームが地震や風揺れを抑えるほか、象徴的な外観ファサードを形成します。また、9階床よりも上層階は斜め部材によるブレース架構とオイルダンパーを組み合わせた構造となります。ダイヤグリッド架構の鉄骨断面は1.4メートル×1.6メートル、最大板厚90ミリメートルとなっており、現代の鉄骨工事・製作で合理的に可能な最大級の大断面となっています。さらに低層部のダイヤグリッド架構の鉄骨総重量約1.1万トン、タワー全体は約80万トンという驚異的な重量を誇る超高層ビルとなります。

 TOKYO TORCHは、歴史ある東京駅前の景観と最先端の都市機能を融合させ、国際金融・観光・防災の拠点として、次世代の東京を象徴する街区となることが期待されています。

現地に掲示されていた初期のころのTOKYO TORCHの完成予想イメージ。当初、Torch Towerは高さ390mとなる予定だった

建設が進む雪化粧したTorch Towerの様子

建設が進むTorch Towerの夜景

斜めに鉄骨の柱と梁が組まれた独特な構造が特徴的なダイヤグリッド架構

2018年8月頃のTOKYO TORCHの建設地の様子。A棟として先行して建設された常盤橋タワーは2018年1月に着工した

2020年1月頃の常盤橋タワーの様子。鉄骨建方が進んでいた

2021年11月頃に撮影した常盤橋タワーの様子。常盤橋タワーは2021年6月末に竣工した

2021年11月頃に撮影したTOKYO TORCHの街区全体の様子。朝日生命大手町ビルと常盤橋タワーの組み合わせは今ではもう見られない

2023年3月頃のTorch Tower建設地の様子。朝日生命大手町ビルの解体工事が進んでいた

2025年4月頃のTorch Tower建設地の様子。朝日生命大手町ビルは姿を消し、Torch Towerの基礎工事が進んでいた

2025年9月頃のTorch Towerの建設地の様子。遂にTorch Towerの地上部分の工事が始まり、タワークレーンも姿を現した

2025年11月頃のTorch Towerの建設地の様子。本格的に鉄骨が組まれ出して、Torch Towerが伸び始めた

2025年2月に撮影したTorch Towerの建設地の様子。見るからに巨大な超高層ビルになりつつあることがわかる

 以上で今回の建築ツアーは終了。現在Torch Tower が建設中の常盤橋地区には、企業の拠点だけでなく都民の生活を支える下水ポンプもありました。「TOKYO TORCH」は老朽化した業務ビル群の再開発プロジェクトかと思いきや、日本を支えるためのプロジェクトでもあったのです。これからこのエリアがどのように変わっていくのか、ますます楽しみになりました。

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