「フジテレビ問題」の渦中で下された
新社長・清水氏の決断
野村室長は「まさに交渉の最中にあの事案が起きた。しかし、F1側は真摯に我々と向き合ってくれて、交渉が止まることはなかった。ただ、F1側から提示された金額はとんでもない額になっており、現場で判断できる金額ではなくなっていた。回答期限までにイエスかノーか答えなくてはいけない。タイムリミットが迫っていた」と振り返る。
野村室長と永竹部長、そしてF1担当者は何度も事業計画書を書き直し、国内独占放送・配信がギリギリ可能だという算段がまとまった。あとは経営幹部を納得させるだけだ。
膨大な放映権料が必要ななか、ゴーサインを出したのが、あの事案で新社長に就任したばかりの清水賢治氏だった。野村室長は「清水社長はもともとCS放送部門の責任者をしていたこともあった。F1の価値を十分、理解してくれており、最終的にイエスと言ってくれた」と語る。
相当高額な配信権料が必要ということで、一連の事案で刷新された取締役会にもかけられた。
当時、あの事案でCM出稿を打ち切る企業が相次いだ。フジテレビに企業のCMがまったく流れなくなるなか、F1独占放送・配信権獲得に対して上層部では不穏な雰囲気が流れ始め、野村室長らは孤立無援になりかけた。
しかし、一方で野村室長らを激励する社外取締役も現れた。
「よくぞハードな交渉をまとめ上げたと声をかけてくれた。周りからマイナスな話ばかりされるなか、本当に救われた思いがした」と野村氏は振り返る。社外取締役は、F1は世界の中でも最強のコンテンツの1つであり、フジテレビ復活には欠かせないと理解しているようだった。
だが、F1側はなぜフジテレビに「日本国内独占配信権」を渡したのか。DAZNと競争させて、日本でF1を盛り上げるという手もあるだろう。
永竹部長は「そもそも、これまでF1に対して独占放送・配信したいという提案がなかったのではないか。F1とフジテレビ、一緒に手を取り合って日本を盛り上げられるだろうと興味を示してくれたようだ」と語る。
実は世界でも40年に渡ってF1の中継を続けているテレビ局はフジテレビぐらいしかないという。長年に渡る信頼関係が両者を引き寄せた面もあるのかもしれない。
F1側がフジテレビに期待しているのは、今まで以上に日本でF1ファンを増やすということだろう。そのあたりについて野村氏は「日本のモータースポーツ全体を盛り上げ、もっとサーキットに足を運ぶファンを増やしたい」と語る。
フジテレビでは年間5戦、地上波でF1中継のダイジェストを放送する予定だ。また、ニュース番組でもF1を積極的に取り上げることで、これまでモータースポーツに興味がなかった人にも関心を持ってもらえるようにしていく。
フジテレビ復活への起爆剤
全社を挙げた「F1ブームアップ」
すでにフジテレビ社内では社長も参加する「F1ブームアップ委員会」という組織も立ち上がっているという。
野村氏は「契約期間が5年間なので、色々なことができると思っている。たとえば、かつての「エンジン」(2005年に放映された、木村拓哉主演の月9ドラマ)のようなドラマも作れるかもしれない。また、マンガやゲーム、イベントなど、フジテレビが持つ力を使って、横展開を図っていきたい」と意気込む。
実際、昨年12月にフジテレビがF1を国内で独占放送・配信するというニュースが流れて以降、社内から続々とF1を愛する社員が名乗りを上げ始めているという。
F1ファンとして気になるのは実際、どのような配信が行なわれるという点だ。CSでは従来通りの内容で放送される予定だ。
一方、ネット配信では従来のFODの料金プランとは別に「F1スターターコース」という専門のプランが用意される。料金は月額3880円。さらに「F1 TV pro」が利用できる「F1プロコース」が月額4900円、F1 TV Premiumが利用できる「F1チャンピオンコース」が5900円だ。
FODのF1専門サービスではこれまで長年、出演してきた川井一仁氏の解説が聞けるチャンネルだけでなく、それとは別に実況・サッシャ氏による配信も行なわれる。ここ数年、DAZNでF1を楽しんできた人には朗報だ。
まさにフジテレビは、日本でF1をさらに盛り上げようと盤石の体制で挑む覚悟を見せている。F1の国内独占配信がフジテレビ復活に向けた「起爆剤」になるかも知れない。
ちなみに野村室長、永竹部長、どちらも配信権料の金額については頑なに口を割ることはなかった。ただ、アメリカではアップルが2026年から5年間、F1の独占配信権を取得しており、フィナンシャル・タイムズによると、配信権は7億ドル(約1100億円)と報道されている。
日本とアメリカの視聴者数の違いから、フジテレビがいくら払ったのか、見えてくるかもしれない。














