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遠藤諭のプログラミング+日記 第204回

ソフトウェア開発・言語の1年にわたるベストセラーの著者はいまなにを考えているか?

Geminiにタイ移住を命じられた――100日チャレンジからAI駆動生活へ、大塚あみさんインタビュー

2026年02月03日 09時00分更新

文● 遠藤諭

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エゴが入ってるほうが、今のAIは大きな価値を発揮します

―― これも前回のインタビューで、私は、やっぱりいいなと思ったのは、生成AIは来ているけど、洗練された使い方をしている人はまだ依然として限られてると言いましたね。まだまだ社会のあらゆる部門で、生成AIの高度な使い方が浸透するのには程遠いんで、そこにビジネスとしてチャンスがあると言ってたと思うんですけど、そういう状況変わってない感じはしますよね。

「今はですね、エンジニアより一般人のほうが、使いかた上手いです」

―― どんな人たち?

「美容師さんとか。あと、メイクさんと話すとわかりますね。自分の悩みをバーって書いて、で、それに対してAIが回答して教えてもらうとか。こういう服が欲しいとか、こういうイメージで、体型がこんな感じで、スタイルがこんな感じなんだけど、どういう服がいいとか。そういう使い方をしているんです」

―― うむ。

「あと人からメッセージを受け取ったとき、“私はこういう気持ちなんだけど相手がこう言ってる。これってどういう意味だと思う?”とかやっていますね」

―― それまさに《心》が入っている。エンジニアは自分の作っているプログラムが動けばいいということで使っているからかなぁ。自分が生の人間として《こうありたい》が足りないのかな。

「そういうエンジニアは、組織の中では優秀なんですよ。しかし、生成AIと根本的に性質が違って合わない。要するにガッチリ作るみたいなエンジニア、設計をきっちりやってその通りに作るとか。クライアントが言ったことを想像して、AIと一緒に作るとかだと思うんですけど。あるいは、ExcelとかPowerPointを使って、ルール通りに、コピペをする作業をするというようなこととか、上司にどう説明するかとかですよね。そういったものよりもやっぱり、エゴが入ってるほうが、今のAIは大きな価値を発揮します」

―― それ前に大塚さんが、お詫びメールのプロンプトは「これこれのお詫びメールを書いて」じゃなくて、「これこれのお詫びメールを書いて。ただし相手の要求を骨抜きにするように」と書くのが正しいと言っていたでしょう。本音をAIに伝えられるかどうかで結果は大きく変わってくるという話ですね。

「だから、接客業をやってる方がすごく上手です」

―― おー、じゃあキャバクラとかガールズバーにいる人たちとかすごいうまいんじゃない。

「それはもうすごく上手だと思いますよ。Xで、あの誰かしらの文句を言って愚痴ってそれがバズってる女の子たちは、おそらくAIの使い方はすごく上手なんじゃないかと思います」

―― 愚痴ですか?

「愚痴がSNSでバズるということは、その状況を、多くの人が相当共感できているということなんですよ。それだけ共感できるような文章は、AIもそれを受け取れるはずなんです。そこまで使ってAIですね」

インタビューを終えて——生成AI時代に個人も企業も認識しておくべきこと

 大塚さんから「AIにすべてを委ねる」と聞いたとき、最初は耳を疑った。7月と8月はアプリ開発に打ち込んでいたものの、その後はいろいろと試行錯誤し、AIとの向き合い方について葛藤しているようにも見えたのもある。しかし、今回、改めて話を聞き文字にしてみると、「AIにすべてを委ねる」という考え方自体が、今のエンジニアリングを象徴するものだと気づかされた。

 今、AIの進化が最も顕著に表れている分野の一つがソフトウェア開発だ。その最たるものとしてインタビューにも登場した「バイブコーディング」がある。バイブコーディングは「AIにコードを書かせる」ものと捉えられるが、提唱者であるOpenAI共同創業者のアンドレイ・カーパシー氏は、「次に何を実装するか」までAIに提案させているそうだ。必要な情報をすべて与え、考え方そのものまでAIに委ねる、これが現在のエンジニアリングの流れなのだ。

 大塚さんが「Geminiに言われたからタイに移住することにした」という話も、そこだけを聞くと奇抜な印象を受ける。しかし「フリーランスのエンジニアが集まっているからタイに移住する」という行動の背景まで考えると、行動力・決断力のある人なら自然な選択肢の1つに思える。「エンジニアはどこにいても仕事ができる。むしろ海外にいる方がよい」というGeminiの助言も、きわめて合理的だ。いまの日本人のメンタリティーでは、個人も企業もそうした発想に自らはなかなか至れないのではないか。

 筆者はZEN大学でテクノロジーの歴史を教えており、その中で「AIの歴史」にも1時間を割いている。そこで強調しているのは、AGI(汎用人工知能)が近いと騒がれる一方、生成AIはまだ未成熟のまま実用化されている技術である点だ。動作原理が理論的に十分解明されないまま、モデルの規模拡大が成果につながってきた(強化学習の父リチャード・サットンが「The Bitter Lesson」で述べた通りだ)。

 だが、いまいちばん重要なのは、そうした技術的な背景ではなく、実用上すでにAIの方が人間より賢く人間がボトルネックになるという現実なのだった。「AIにすべてを委ねる」は、いちばんAIの効果を理解しているソフトウェア開発の分野では、もはや世界的な常識である。

 そして、あらゆるものがAI駆動になる日がちょっぴり見えているというのが、筆者の感じるところだ。

角川アスキー総研の市ヶ谷オフィスで2時間があっという間と感じるインタビューだった。ここでご紹介しきれなかった刺激的な話がいくつもあったが、1年前のインタビューのアンサーとしてまとめさせてもらった。

 

大塚あみ(Ami Otsuka)

 2001年、愛知県豊橋市生まれ。2023年4月、授業中に ChatGPTを使ってオセロアプリを内職で作ったのが見つかるも評価される。2023年6月の電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会にてその内容を発表。2023年10月28日から翌年2月4日まで、毎日プログラミング作品をXに投稿する「#100日チャレンジ」を実施。その成果を2月にスペインで開催された国際学会 Eurocast 2024にて発表。2024年3月に大学を卒業、IT企業にソフトウェアエンジニアとして就職。2024年9月に東京で開催された国際会議 15th IEEE International Conference on Cognitive Infocommunications(IEEE CogInfoCom 2024)にて発表した論文が審査員特別賞を受賞。2024年12月に「合同会社Hundreds」を設立。2025年1月に日経BP社より『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』を上梓。2025年8月に「RevenueCat」主催ハッカソンで単独で開発したiPhoneアプリが3位となる。日立やDELL Technologies、パナソニックなど、企業や大学などでの講演やメディア出演をこなす一方、2025年秋以降は、生成AIを「仕事」だけでなく「生活」にも接続する実験を継続。2026年1月には、『Forbes JAPAN』の「Woman in Tech 30」に選出、米国法人設立、タイ移住を決めた。

note:https://note.com/amiotsuka
x:https://x.com/AmiOtsuka_SE

日経BOOKプラス:『#100日チャレンジ』大塚あみ氏「生成AIを活用すれば人生を短期間で変えられる」
ASCII.JP:女子大生が100日連続で生成AIで100本のプログラムを書いたらどうなったか?

     話題の『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』著者・大塚あみさんインタビュー

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遠藤諭(えんどうさとし)

 ZEN大学 客員教授。コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より株式会社角川アスキー総合研究所主席研究員、2025年より現職。AIに関しては、アスキー入社前の1980年代中盤、COBOLのバグを見つけるエキスパートシステム開発に関わるが、Prologの研修を終えたところで別プロジェクトに異動。IPA 独立行政法人 情報処理推進機構の『AI白書』の企画協力・編集、『AI白書2023』に執筆。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。


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