AIエージェントに選択肢 「AWS re:Invent 2025」レポート 第11回
好奇心はエンジニアが社会課題を解決する原動力に
ダ・ヴィンチに学べ AI時代に求められる「ルネサンス・デベロッパー」という生き方
2026年01月14日 07時00分更新
12年に渡り、AWS re:Inventで学び続ける尊さをエンジニアに訴えてきたAmazon CTOのヴァーナー・ボーガス氏。昨年末に登壇した最後のre:Invent基調講演では、まさに総決算とも言える90分の熱血講演が繰り広げられた。幸運にもラスベガスでボーガス氏の講演を直接聴くことができたASCII大谷が、AI時代を生きるエンジニアへの熱いメッセージを数回に分けてお届けしたい。
前回は「AIは開発者の仕事を奪うのか?」「開発者は終わりを向かうのか?」という問いに対する、ボーガス氏のアンサー(関連記事:Amazon ボーガスCTOが最後の基調講演 「AIは開発者の仕事を奪うのか?」への直球な答え)。今回はルネッサンス期の発明家たちになぞらえた「ルネッサンスデベロッパー」という概念で、AI時代のエンジニアを身につけるべく5つの重要な資質について語るパートだ。
ダ・ヴィンチの作った飛行機は空を飛ばなかったが、今、私たちは飛べる
AI時代を前向きに泳ぐ「ルネッサンスデベロッパー」の資質として1つ目に重要なのは、「好奇心を持つこと(IS CURIOUS)」だという。ボーガス氏は「開発者として、すべてがつねに変化するため、継続的に学習する必要があった。私が会った開発者は、なにかを分解して、それがどのように動作するかを調べるという本能を持っている」と語る。
この好奇心は、われわれはこうしたイベントに駆り立てる要素でもある。「理解したい、改善したい、構築したいという欲求。その本能を私たちは守らなければならない」とボーガス氏は訴える。好奇心を持ち続ければ、それは学習と発明につながるという。
そして学習にも2つ重要なことがある。実験(Experimentation)と失敗を恐れないこと(Willingness to Fail)だ。「新しい発明には実験が必要であり、うまく実験するには失敗を恐れないことが重要だ。ダ・ヴィンチの作った飛行機は、結局空を飛ぶことはなかったが、今は私たちも空を飛ぶことができる」とボーガス氏は語る。
加えて、結果のわかっている実験は、実験ではないとも言う。失敗は実感を促し、学数を促進する。そのため、失敗を恐れない姿勢が重要だ。「学ぶための最良の方法は、失敗して優しく訂正してもらうことだ」とボーガス氏は語る。
たとえば、言語学習で文法はいくらでも学べるが、再学習は会話につまづいたところから始まる。ソフトウェアに関しても、ドキュメントを読むことは可能だが、システムがどのように動いているのかを理解するのは、失敗した構築や破綻しか仮定から。読む、聞く、見るだけではどうしても限界があるため、とにかく手を動かしてみること。「再学習は自身が関与したとき、プレッシャーがかかったとき、結果が重要なときに起こる」とボーガス氏は語る。
このストレスとパフォーマンスの間には「ヤーキスとドッドソンの法則(Yerkes-Dodson Law)」と呼ばれる関係がある。すなわちプレッシャーが小さすぎると、意欲が失われ、プレッシャーが大きすぎると、圧倒されてしまうという関係だ。その中間のスイートスポットは「好奇心と挑戦が出会う上昇坂のどこかにある」とボーガス氏は語る。「そのとき、あなたの脳は完全に覚醒し、集中し、成長する準備ができている」(ボーガス氏)。
しかし、楽に座っているだけでは、その時点に到達するとはできないため、自分自身が試すような立場に身を置く必要があるという。イベントで配布された「The Kernel」という新聞には、このことについて書いたアンディ・ウォーフィールドの記事が載っているという。
ボーガス氏が体感した世界各国のソーシャルな学び
また、学習はソーシャルという特徴がある。誰かの話を一人聞くだけではなく、誰かと話し合うことこそ、本当の学びという意味だ。「学びは認知的なものではなく、社会的なものにある。たまには部屋を抜け出して、芝生に触れる必要がある」とボーガス氏は説く。ユーザーグループに参加したり、カンファレンスに出席し、その感想を友人と語り合い、意見を交換する。「私の場合、旅行中にそのようなことがよく起こります。旅行を通じて、私たちが想像するだけではなく、人々が実際にテクノロジーをどのように使っているかを知ることができる」とボーガス氏は語る。
2025年、ボーガス氏は2ヶ月間の長期旅行に出かけることができた。1ヶ所はアフリカ、2ヶ所目はラテンアフリカで、ユーザーに会っていくるかの講演も行なったという。例に出したAJEという飲料会社は、若者が都会に流出しないよう、アマゾン川沿いにあるコミュニティを支援している。
アマゾン川は美しかったが、海で見つかったプラスチックの80%は、世界にある300万もの川のほんの一部から排出されているという。これは2025年頭にボーガス氏がThe Ocean Cleanupというプロジェクトの担当者と対談したときに出てきたトピックだ。The Ocean Cleanupは単に海を清掃するだけではなく、川からプラスチックが流れ込むのを防ぐ必要がある。
ボーガス氏たちは、ダミーのプラスチックと食べ物にGPSを取り付けて、どこにたどり着いたかを確認したところ、結局アマゾン川は大きな汚染源でないことが判明した。The Ocean Cleanupでは、橋や船の後ろにAIカメラを設置し、プラスチックがどこに流れ、滞留するかを予測する計算モデルを作成し、浄化システムが効果を最大限に発揮できるようにしている。
もう1つボーガス氏が驚いたのは、アフリカのルワンダの保険省だ。ここの健康情報センターにある巨大なスクリーンには、全国の4つの異なる階層の医療施設から送られてきた膨大なデータを元に病気の発生から流行に至るまでや、母体の健康状態まであらゆるものが視覚化される。さらに彼らは、国内のどの地域が医療機関から30分以上、離れているかを調べ、医療の行き届いていない地域に新たな母子保健センターを配置している。「彼らはデータを活用し、政策を作成し、実施している」(ボーガス氏)。
また、ナイロビでの取り組みもユニークだ。ケニアでは多くの人が朝に1~2ドルで借りて、商品を買い、それを市場で売りさばく。うまくいけばその日に稼いだ40~50セントで食料を得られるが、これだと調理するためのガスがない。そこで地元のKOKO Networksというスタートアップはガスを購入できる自販機を開発した。人々は近くのガソリンスタンドに歩いて行き、自販機にガスボンベを差し込み、5セントを払れば、その日の料理に必要なガスを調達できる。
こうした事例は社会課題とテクノロジーの接点から生まれる。「これは開発者が自らのスキルを人々の課題に適用したときに起こる」とボーガス氏は語る。

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