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年末恒例!今年のドメイン名ニュース 第17回

毎年恒例JPRSのドメイン名重要ニュースを振り返る

サブドメインテイクオーバーの被害、13年ぶりの新gTLD、JPドメイン名180万件を突破など、2025年のドメイン名ニュース

2025年12月29日 09時00分更新

文● 渡瀬圭一

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■4. ドメイン名廃止後のトラブルやリスクに今年も注目が集まる

 四つ目は、最初の解説でも触れた、ドロップキャッチに代表されるドメイン名廃止後のトラブルが起こり続けているという話題である。この問題は、だいぶ前からテレビのニュースなどで数多く取り上げられていることから「またか」と思う読者も多いのではないだろうか。しかしながら、同じことが何度も繰り返されているのが現実である。

 ドメイン名は文字列であるため、有限の資源である(そのドメイン名内で同じ文字列は使えない)。資源の効率的な利用や機会の公平性といったことを考えれば、誰かが使っていたドメイン名が廃止された後、それを再登録して使うことにはまったく問題はない。問題なのは、残っているブックマークや他サイトからのリンク、検索エンジンによる評価などがあることで一定のアクセス数が見込めることから、自分のWebサイトにユーザーを誘導したい第三者がそれを利用するという点である。

 使い終わったドメイン名を安易に廃止し、それを悪用された場合、明らかな被害が出てしまう。被害が出たら、そのドメイン名でWebサイトやサービスを公開していた組織に対する信用はもとより、その組織のブランドや商品の評判にも悪影響を及ぼす可能性がある。そうならないようにするためには、利用者が忘れてしまうぐらいの長期間、そのドメイン名を維持するか、手放す前に、利用者への確実な告知、リンクの削除、検索結果の削除を徹底的に行い、そのドメイン名のレピュテーションを下げる行動をするかである。

 使う予定のないドメイン名を保持するのはコストの無駄だと考えるかもしれないが、事故が起こってしまった場合、その対策にかかる費用はドメイン名を保持するコストよりも確実に高くなる。前述した、そのドメイン名のレピュテーションを下げる行動にもそれなりのコストがかかることから、そもそもドメイン名を使い始める前にどのドメイン名でサービスを始め、終了後にどうするかを計画しておく、もし専用のドメイン名を新たに登録して使う場合、終了後に使う予定がなくても一定期間保持することが、一番コストがかからないと考えるのは筆者だけではないであろう。

 多くの場合、始めるときにはあらゆることを入念に行うが、終わるときには深く考えないというのが実情ではないだろうか。しかし、インターネットの世界で何かをやるのであれば、最初と同じように最後も行わなければいけないのである。最初の話題もそうであるが、結局のところドメイン名やDNSは「後始末」がとても重要であり、それをきちんとやるかどうかがトラブルを回避するためのポイントであることを、関係者に周知していただきたい。

■5. 大手クラウドサービスの障害によりDNSの重要性が改めて認識される

 最後の話題は、DNSが関係するトラブルが世界的なサービスの停止を招いたという話題である。規模が大きかっただけに、その影響を直に感じた方も多いのではないだろうか。技術的な詳細はJPRSの記事に譲るとして、おおまかに今回の件をDNSから見ると次のようにまとめることができる。

 AWSの件は、AWS内でDNSデータの自動生成に使っているシステムの不具合により、同社のDynamoDBエンドポイント「dynamodb.us-east-1.amazonaws.com」のDNSデータが設定されていない状態になった。このため、us-east-1リージョンのDynamoDBエンドポイントに接続できない状態になり、障害の規模が大きくなった。

 Azureの件は、Azure内のシステムで発生した障害の影響がAzure Front Doorに及び、Microsoft 365やAzureの入り口である「m365.cloud.microsoft」や「portal.azure.com」が外部から名前解決できない状態になったことで、サービスへの接続性が著しく低下した。

 このように、前者はDNSデータの「中身」が正しくない状態になったことが問題の原因であり、後者は、DNSの「名前解決」が機能しない状態になったことが問題の原因であると言える。今回の問題を通じて言えることは、DNSにとってデータの「中身」と名前解決に関わる「構成要素」のどちらも大事であることを、改めて浮き彫りにした事例となったということである。

 本来、DNSという仕組みは「ドメイン名とIPアドレスを関連付け、ドメイン名を使えるようにする」ためのものであったが、その利便性の高さから、それ以外のさまざまな用途で使われ始めている。たとえば、サービスを効率よく提供するためにそのサービスのパラメータをDNSのレコードとして設定し一度に引き渡すための手段や、電子メールの送信元を偽装されていないことを確認するための送信元認証などが、代表的なものとして挙げられる。

 いまや、DNSという仕組みはインターネットにとってますます重要なものとなり、さまざまな要求を飲み込みながら成長を続けている。しかし、そのDNSをきちんと理解し、正しく実装したり運用したりできる人材は減少傾向にあると感じている。電子メールもそうであるが、将来を担う若手がこの分野に興味を持ち、参加したいと思え、積極的に参加できる仕組み作りもまた大切なのではと思い始めている。皆さまは、いかが感じるであろうか。

■番外編:JPRSがインターネットの国別トップレベルドメインを楽しく学べるポスターとクリアファイルの全国教育機関への無償配布を実施

 今回の番外編は、JPRSがインターネット教育の支援活動の一環としてポスターとクリアファイルを使った、ドメイン名を楽しく学べる教材を配布したというものである。対象は、「全国の教育機関」ということなので、該当する組織は活用すると良いと思う。

 今回の記事を執筆しながら感じたことだが、次回以降はもう少し高い年齢、例えば高校生以上を対象とした教育機関向けに、DNSという仕組みについて解説するような冊子がほしい。技術解説というよりも、若い人に興味を持ってもらう切り口であればなお良い。この言葉を投げかけて、今回の原稿を終えたいと思う。

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