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ウイングアーク1stのビジネスイベントで語られた“自治体デジタル化の今と未来”

世田谷区の「システム標準化」と「自治体DX」 サイボウズ出身の副区長が“別世界”で感じたこと

2025年12月04日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

提供: ウイングアーク1st

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システム標準化で避けられない“データ連携” 臨機応変に対応し続けられるか

 話題は、「自治体システムの標準化」に移る。自治体の基幹業務システムを統一・標準化する政策であり、20業務を対象に国が仕様書を定め、2025年度までに標準準拠システムへの移行を目指している。(参考記事:デジタル庁が語る「自治体システム標準化」と「ガバクラ」の現状 運用コスト増大は解消するか

田中氏:私は、この取り組みを知った時、まずはびっくりしました。何でいきなりクラウド基盤なのだろうと。主な目的は、自治体ごとのシステム差をなくして、住民サービスを均一化することです。開発・維持コストも削減でき、ベンダーロックインも防ぎ、データ連携や災害対応にもつながるというコンセプトになります。

ウイングアーク1st 代表取締役 社長執行役員CEO 田中潤氏

松村氏:2022年に転職した時は、既にシステム標準化が決定されていました。担当者に話を聞くと、「心配ないです。2025年3月末には世田谷区はすべて終わります」と言われました。

 その後色々ありましたが、2025年1月に、まずは4システム6業務を標準化しています。開発・維持コストの削減も大事ですが、正直、日本社会をよりよくするまで達するには、10年、20年はかかります。改めて、問題を整理する必要があり、日本がIT先進国になれるかの岐路に立たされていると感じています。

田中氏:それでも、2025年1月に6業務のカットオーバーは大規模自治体としては早いです。

松村氏:なにぶん世田谷区の人口は93万人であり、データ量は膨大で、いきなりすべてを移行できないです。そのため、2回に分けた第一弾が2025年1月でした。

田中氏:第一弾はスムーズに移行できたのでしょうか。

松村氏:残念ながら、システムが数時間止まってしまいました。標準化をしなければならない、住民に迷惑をかけられない、その板挟みにあるのが基礎自治体です。現場は相当に頑張って、新しいシステムやデータセットに慣れ、業務を回しています。

田中氏:第二弾は順調に進んでいるのですか。

松村氏:既に移行困難システム(※)が発生することは報告していまして、その上で第二弾は2026年1月、2月に分けて実施するよう進んでいます。

※政府は、2025年度末までに移行できないシステムを「移行困難システム」と位置付け、移行期限を概ね5年以内に延長し、支援策を継続している

田中氏:自治体や標準化に関わるベンダーの方に先人としてのアドバイスはありますか。

松村氏:仕様を決めるのも綱渡りで、単に業務システムを移行するだけは終わらないです。転居した住人の学校や介護保険はどうするかなど、あらゆる業務はつながっているため、システム連携をどれだけ担保できるかが重要です。現場だけ解決できる問題ではないため、ベンダーとどれだけ息を合わせられるかが勝負になります。

田中氏:データ連携でいうと我々も「Govlong」という自治体向けソリューションで「システム共通機能群」を提供してまして、ベンダーも当社の機能で標準化を目指しています。データ連携以外にも標準帳票や電子決済、EUC(※)を揃え、申請管理も企画検討中です。

※End User Computing:現場の社員がシステムやアプリを自ら開発・運用する仕組みであり、自治体においては「データ抽出定義の作成」に利用される

松村氏:自治体の立場でいうとEUCは絶対必要だと思っています。基本的に、転居や住民基本台帳の書き換え、戸籍といった個別のパーツは動かせるのですが、例えば、政府の方針で世帯所得に応じて給付金を支給するとなると、EUCでデータを出力できるかが重要になります。

田中氏:業務は堅いのに、その実は柔軟性が必要で、可変領域もあるということですね。標準化は本来、すべての仕様が同じになって、データも統合されて、そこから業務が楽になるという思想です。そうなると、データを扱う仕組みが必要になり、それをEUCが担うと思っています。

松村氏:今の段階では、標準化したシステムがあれば、昔のシステムもあります。それらをつなぎながら、データの整合性を保ちながら業務をまわしていく。移行困難システムも含めると、何年も中途半端な状況で臨機応変に進めることになります。臨機応変は役所が一番苦手とするところですので(笑)、そこをどうベンダーと解決していくかに四苦八苦しています。

社会全体で進める“チャレンジ”を体現する自治体に

田中氏:こうした仕組みが整った後は、職員が運用することを想定しているのでしょうか。

松村氏:標準化も終わって、EUCもある程度安定したら、職員が使えるようになると良いなと思っています。ただ、職員は23区まとめて採用しており、ICT職は2024年から雇い始めたばかり。現状は、役所の中にはジェネラリストしからおらず、EUCの専門家は育てられる環境ではないです。

 加えて、役所は3年でどんどん異動して、ずっとシステム畑の人材はいない。こうした現状も変え、「データを使って93万人の住民を幸せにできる」ように、プロフェッショナルを増やしていく必要があります。

田中氏:松村さんが来て、魔法で全部なんとかしてくれるのでは、と思ってしまう気持ちは分からなくはないです。我々もノーコードでデータにアクセスできるツールも提供しているのですが、意外とツールの力で、現場で回せるようになるかもしれません。

 最後に、世田谷区の未来についてお聞きしたいです。

松村氏:システム標準化の話は、世田谷区だけの問題ではないです。標準化に限らず、国としてデジタルで勝ち組になるには、やはりコストの問題をどうにかしなければならない。少子高齢化で税収も落ちていきます。

 そこをバランスをとり、人が幸せに暮らせる社会を作れるかというチャレンジに皆が取り組んでいる状況です。その挑戦を体現するような自治体になれたら良いなと思っています。

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