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ウイングアーク1stのビジネスイベントで語られた“自治体デジタル化の今と未来”

世田谷区の「システム標準化」と「自治体DX」 サイボウズ出身の副区長が“別世界”で感じたこと

2025年12月04日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

提供: ウイングアーク1st

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 2022年、サイボウズから世田谷区の副区長に就任した松村克彦氏。民間出身のIT人材として魔法使いかのように迎えられた松村氏は、3年間にわたり世田谷区のDXを推進してきた。そして、DXを進める中で避けて通れなかったのが、国が音頭をとる「自治体システムの標準化」だ。

 ウイングアーク1stのビジネスカンファレンス「UpdataNOW25」。2025年11月12日のセッションでは、同社の代表取締役 社長執行役員CEOである田中潤氏と松村氏が対談。民間から行政に活躍の場を移した中での気づき、そして世田谷区の自治体DXやシステム標準化の現状について語り合った。

「自治体DXの今と未来 デジタル化を推進した3年間で見えてきたこと」というタイトルで対談が行われた

3つのRe-Designを進める世田谷区のDX

 松村氏は、みずほ銀行に16年務めた後に、サイボウズに入社。その後、2022年に民間企業から世田谷区の副区長(4年任期)に抜擢された。同氏が担当するのは「DX推進」と「地域行政」だ。サイボウズ時代には、ノーコードツール「kintone」の官民連携に挑戦していたほか、複業として福祉業界の経営ICTアドバイザリも務めていた。

世田谷区 副区長 松村克彦氏

 「自治体って硬いねと話をしていたのに、いつの間にか向こう側にいました」と村松氏。官民連携に取り組む中で、行政の仕事のロジックには興味を抱き、新しい世界に飛び込んだ。

 1741団体ある基礎自治体の中で、特別区(東京23区)のひとつである世田谷区。東京23区の中で2番目に広く、5つの地域、28地区に分割する独自の地域行政制度を設けている。約93万人と9県を上回る住民を抱え、少子高齢化の時代にも関わらず人口は増加中だ。ただ、他地域からの人口流入に依存する「ブラックホール型自治体」に該当し、子育て・教育施策に注力しているという。

世田谷区は教育環境が充実しているのも特徴だ

 加えて、重要視するのがDXだ。2023年に「世田谷区DX推進方針(現行はVer.2)」を策定。「あらゆる世代が安心して住み続けられる世田谷をともにつくる」ことを目的に、「行政サービス」「参加と協働」「区役所」の3つの観点で、再構築(Re-Design)のプロジェクトを進めている。

DX推進方針の「3つのRe-Design」世田谷区DX推進方針Ver.2より

 ここからは、副区長の松村氏とウイングアーク1stの田中氏による対談の様子をお届けする。

民間から見た自治体は「やっぱり別世界」

ウイングアーク1st 田中潤氏(以下、田中氏):松村さんの担当エリアは、DX推進と地域行政です。

世田谷区 松村克彦氏(以下、松村氏):役所に入ってびっくりしたのが、その守備範囲の広さです。しかも、それぞれ必要なスキルセットも違う。私も地域行政の中で火葬場も担当してまして、色々と勉強させてもらっています。

田中氏:やはり企業と自治体は違いますか。

松村氏:企業も自治体も同じ組織のDXなため、そこまでの違いはないだろうと飛び込むと、結構違いました。まず当たり前ですが、顧客を選べません。世田谷区は約1万人の職員がいますが、その人員で生活全般のサービスを提供する必要があります。

田中氏:我々は、当然サービスやモノを提供してお金をもらいますが、役所は直接的に対価をもらわないです。

松村氏:稼げる行政が求められていますが、税収が売上にあたり、直接対価をもらうわけではない。こうした民間との構造の違いが面白いですが、民間との当たり前に対するずれがじわじわと影響します。

会社と役所の違い

田中氏:こうした役所の中で、松村さんはDX推進を担当しています。世田谷区は、DX推進方針のVer.1を2021年に策定し、2023年にVer.2として更新されました。松村さんが加わったのはこのタイミングからですね。

松村氏:隣の渋谷区の前例から、民間の人が来たらDXが上手くいくと「魔法使い」のような扱いでした。要は、ある日を境に自分の仕事が楽になるのがDXだと思われていたのです。だからかDX推進方針のVer.1では、そもそものDXのあり方が盛り込まれていなかった。そのためVer.2では、DXの目的を定め、一回で終わりではないことを徹底的に強調しました。

田中氏:具体的な方針として、「3つのRe-Design」を軸にしています。

松村氏:特に、区役所のRe-Designとして「問題発見・解決型組織」への転換を挙げましたが、役所の中では盛り込みづらかったです。要は、少しでも「問題があってはならない」という前提があるのです。そのため、「問題を見つけて、解決して、それを継続する」という改善の流れを掲げるだけでも相当苦労しました。

田中氏:やはり、民間で当たり前のことが、行政では簡単にいかないですね。

世田谷区DX推進方針 Ver.2

松村氏:転職して実感したのは、「やっぱり別世界」だということです。私の中で一貫してある「官民で社会を作っていくべき」というテーマも、官民がつながりづらい。そのため、参加と協働のRe-Designとして「つながる区役所プロジェクト」を現在進行形で頑張っています。

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