モダン化によるコスト最適化と“公共SaaS”による効率化
ガバメントクラウドの利用料は、2025年度以降は自治体が負担する形となるが、標準化を含めて移行後の運用コスト増加が問題となっている。
その対策として進めているのが、ガバメントクラウドの利用料の割引交渉だ。法整備を経て現在は、デジタル庁がクラウドサービス提供事業者との一元的な窓口を担い、各自治体の利用料を回収して一括で支払うという資金の流れを構築している。これにより、大口割引や長期割引を適用させているが、さらなる条件拡充を交渉していく。
加えて推進するのが、コストの最適化だ。前述の見積精査の支援に加えて、適切なクラウド利用、いわゆる「モダン化」によりコストを抑えるための各種施策を展開する。
「単純にクラウド利用するだけでは、コスト軽減には限界がある。クラウドに最適な形でのシステム構成であったり、クラウド事業者が提供している各種サービスを活用することで、省力化や自動化を図る必要があるが、そのための知見がないという声が挙がっている」(藤井氏)
具体的には、モダン化の設計や実践のためのガイドラインを作成中だ。「アプリケーションモダン化ガイド」「インフラ最適化ガイド」「運用モダン化ガイド」の3種を2025年度末までに各自治体に提供予定であり、「(取り組みが)遅いという意見もあるかもしれないが、運用が始まる中で、ガイドを見ながら見直しを進めていく必要がある」と藤井氏。
なお、政府の情報システムは、ガバメントクラウド利用にあたってモダン化の実施が前提となっており、2024年度ベースでの基盤経費の削減効果は51%に達しているという。AWSに注目すると、ガバメントクラウドにおけるAmazon EC2の利用率は、国が15.8%であるのに対して自治体は57.4%と大きな差がみられ(2024年6月時点)、EC2の利用を最適化するだけでも、利用料の削減が見込まれるという。
加えて、ガバメントクラウドの利用機関向けに提供されるWebサービス「GCAS(Government Cloud Assistant Service)」において、コストを「見える化」するダッシュボードを2025年9月末に公開している。クラウドサービス事業者やサービス単位での利用状況や料金を把握できるツールだ。このダッシュボードとあわせて、クラウドコストを最適化するFinOpsを実践するための「継続的運用経費削減(FinOps)ガイド」も公開している。
さらに、将来的にさらなるコスト削減につながる利用形態として、「公共SaaS」がある。ガバメントクラウド上で、民間のサービス事業者の公共向けシステムをSaaSとして利用するもので、2025年3月施行の法改正により実現可能になっている。まずは新規システムから提供開始するが、標準20業務及び関連業務システムの公共SaaSへの移行は特例が設けられる予定だ。
「標準化が契機になっているが、公共システムそのものを所有から利用するという形態に変えていく。開発や調達、維持の負担軽減を図りながら、より良いサービスを使うという観点からも、同種同様のSaaSを臨機応変に利用するという世界観を目指していく」(藤井氏)
最後に藤井氏は、「コストに目が行きがちだが、本当に必要となるシステム構成に最適化する必要がある。サービスレベルを下げれば、コストも抑えられるが、住民サービスの質も低下してしまう。何が最適なのかを考慮しながら、今後もガバメントクラウドが利用されるように、自治体や各省庁と連携しながら取り組みを進めていきたい」と締めくくった。











