「データセンターの地方分散」から「ワークロードシフト」「地域経済の発展」まで
地方データセンターの役割と価値を変える「ワット・ビット連携」とは?
2025年10月16日 11時00分更新
インテック:地方データセンターと全国ネットワークを“オール光化”へ
上述した“ワット・ビット連携2.0”、つまりデータセンター間のワークロードシフトを効率的に実現するためには、大容量かつ低遅延の通信ネットワークが必要となる。そこで期待されているのが、「IOWN APN(オール光ネットワーク)」を用いたデータセンター間接続だ。
IOWNの技術開発を推進する業界団体、IOWN Global Forumには、NTTグループをはじめとする世界の通信キャリア、クラウドプロバイダー、データセンター事業者、IT/通信機器メーカーなど160社以上が参画している。TISインテックグループでITインフラ事業を展開するインテックも、2025年5月に同フォーラムへの参画を発表した。
インテックでは、本社のある富山県と首都圏/関西圏にデータセンターを保有している。2012年には、これらのデータセンターを一体運用する広域仮想クラウドサービス「EINS WAVE」を提供開始し、その後のサービス強化を経て、現在は「統合型セキュアネットワークサービス」を提供している。IOWN Global Forumへの参画を通じて、自社インフラを用いたこうしたビジネスの高度化を検討/検証していく方針だ。
具体的には、富山市・高岡市のデータセンターやサーバー機器、全国に展開するネットワーク基盤設備をIOWNに対応させる(オール光化する)ことで、消費電力の増加抑制とカーボンニュートラルの促進を図る。さらに「遠隔医療」「スマートファクトリー」といった新たなIOWNユースケースの送出、そして、地方データセンターを活用した「コンピューティング基盤の分散」を実現していく方針を発表している。具体的には、AIデータセンターを地方に分散させることが想定されているようだ。
IOWN活用の取り組みのひとつとして、地方データセンターへの「コンピューティング基盤の分散」を掲げている(出典:インテック)
QTNet:再エネ先進地域で「九州版ワット・ビット連携」の実証スタート
九州電力グループの通信事業者であるQTNet(九州通信ネットワーク)は、九州電力、IIJ、1FINITY、ノーチラス・テクノロジーズと共同で、九州地域の再生可能エネルギー(再エネ)を活用した「ワット・ビット連携の実証プロジェクト」を、2025年10月から開始すると発表している。
日照時間の長い九州地方は太陽光発電の導入が進んでおり、地熱などそのほかの発電方式も含めて“再エネ先進地域”である。電力会社(九州電力)が主導するプロジェクトということもあり、発表の中では「九州版ワット・ビット連携」の実現を目指すことが明記されている。
このプロジェクトでは、中核データセンターと九州各地に分散配置した小型データセンター(コンテナデータセンター、マイクロデータセンター)をAPNで接続し、全体を1つの大きなシステムとして機能させる技術実証を行う。1FINITYの光ネットワークインタフェースカード(光NIC)や、ノーチラス・テクノロジーズの分散データベース「劔“Tsurugi”」を活用し、複数のデータセンターに分散保存されたデータのAI処理などを試行する計画だ。
今回行われる分散データセンター実証実験の概要(出典:QTnet)
「九州版ワット・ビット連携」が目指す社会像(出典:QTnet)
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IOWN APN接続を用いて地方データセンターに新たな役割と価値を与える取り組みは、ほかにも全国で続々スタートし始めている(関連記事:都心と石狩が“まるで隣同士” IOWNでデータセンターを接続)。
こうした取り組みが今後、地方データセンターにどのような新たな役割と価値を与えることになるのか。また、その先に地域の産業と経済にどのような影響をもたらすのか。継続的に注目していきたいところだ。
政府と民間による「ワット・ビット連携官民懇談会」が取りまとめた、今後のロードマップ(出典:総務省)

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