全社を挙げてAI活用を推進中、“クリエイティブ業務へのAI適用”のポイントを語る
日テレ「ZIP!」の試行錯誤 AIエージェントで番組企画に“魂を吹き込む”には?
2025年08月21日 16時30分更新
日本テレビホールディングス(日本テレビ)は、現在、中期経営計画(2025-2027)に基づいて「コンテンツ企画制作へのAIエージェントの実装」を推進している。その先駆けとして開発されたのが、情報番組「ZIP!」の制作現場を支援するAIエージェントだ。ただし、そこにはクリエイティブな業務ならではの苦労もあったという。
2025年8月5日と6日、Google Cloudが開催した「Google Cloud Next Tokyo 25」の日本テレビによるセッションでは、ZIP!の「企画支援エージェント」開発プロジェクトで得られた学びが共有された。
クリエイティブな業務におけるAI適用のポイント
日本テレビでは、今年度から3年間の中期経営計画において、「コンテンツ企画制作へのAIエージェントの実装」を掲げている。全社プロジェクトを発足させて、編成や制作、PRなどの領域でAIエージェントを導入していく計画だ。
日本テレビの経営戦略局 経営戦略部兼R&Dラボ 主任である辻理奈氏は、「『コンテンツの企画制作』という、放送局の中核業務にAIを積極活用するのがポイント」と強調する。
その取り組みのひとつが、ZIP!の制作現場向けに開発された企画支援AIエージェントだ。試験運用の舞台に選ばれたのは、“知って得する情報”を水卜麻美アナウンサーがプレゼンする「?よミトく!」コーナーである。コーナーが毎日放送されるため検証がしやすいこと、フォーマット化されていること、「ネタを探して企画を提案する」という汎用的な目的が、ほかの業務にも横展開しやすいことが選定の理由だという。
辻氏はまず、番組企画をはじめとするクリエイティブな業務にAIを適用する際のポイントを2つ挙げた。
ひとつは「暗黙知を構造化すること」だ。いわゆる定型業務とは異なり、クリエイティブな業務は人に依存しており、明文化されていない判断軸やノウハウを体系的に整理する必要がある。「ZIP!で言うと、『生活者に寄り添う』という暗黙知がある。こうした構造的ではないものをあぶり出すことで、(クリエイティブ業務にも)AIが使えるようになる」と辻氏。
もうひとつは「人に寄り添い、アイディアをより引き出すこと」だ。クリエイティブな業務での最終決定者は人なので、「人の感性に刺さるよう、AIがどれだけ人に寄り添ってくれるかがポイント」(辻氏)になるという。
今回のAIエージェントが支援するのは、これまでディレクターが担ってきた「企画案の提案」「企画書の作成」「見せ方(演出)の提案」という業務だ。
具体的には、AIエージェントがニュースや時事ネタなどに基づく企画案を提案し、ディレクターがそこから良い案を選んで、エージェントと一緒に企画をブラッシュアップしていく。内容が決まったら、AIエージェントに企画書の作成も任せられる。
その後の企画会議で企画が採択されると、AIエージェントは、どう視聴者にプレゼンするか、どうテロップを出すかといった見せ方を提案する。「単なる業務効率化だけではなく、複数案を構想する時間が減ってひとつの企画に集中できるため、企画のクオリティを上げることにもつながる」(辻氏)
それでは、このAIエージェントは、辻氏が述べた「AI実装の2つのポイント」をどうやって反映したのだろうか。
まず「暗黙知の構造化」は、企画採択の責任者(総合演出)の判断軸を、過去の企画会議の音声データから抽出することで解決した。Googleの生成AI「Gemini」が、総合演出とディレクターの議論の様子を分析して、評価レポートを作成。それをAIエージェントに与えることで「納得感」を生み出している。
「人に寄り添う」については、AIエージェントに各ディレクターの“個性”を付与している。ディレクターの会話ログをGeminiで分析することで、ディレクター独自の視点やこだわりを付け加える。こうすることで、ディレクターのアイディアをより引き出すことができる。
ここでは、通常業務の中からデータが収集できるよう工夫した。「現場の人は本当に忙しいので、判断軸のレポートなどをもらうことが難しい。仕事をしている間にデータが溜まり、気づいたら構造化されているというのが理想」と辻氏。














