多層構造化が容易だが動作が不安定なPCM/SOM
まずPCM/SOM、PCM(Phase Change Memory)といってピンとこないのであれば3D XPoint、あるいはOptaneと言えばおわかりかもしれない。Optane Memoryはバルク材料の相変化をスイッチング機構に利用した構造である。
ちなみに3D XPointというのはもう少し一般的な用語であり、行アドレス線と列アドレス線を3次元的に直交(XPoint)に配した構造であって、その交点にスイッチング素子が配される。ここにPCMを利用することで密度を高めるというものである。
3D XPointはSK Hynixも研究しており、4層レベルまでは研究室レベルでは実装できており、2023年のVLSIシンポジウムで発表もされた。ただ20nmをさらに微細化しようとすると、以下の問題が出てくるとする。
- 交点に置かれるPCMとOTS(Ovonic Threshold Switch)のアスペクト比が高くなる(底面積が減るのに高さが減らない)事でプロセスの構築が難しくなること
- 微細化に伴いSet/Restの書き込みのマージンが減少する(Set/Resetの状態の差がどんどん減っていく)
- 層間絶縁体も薄くなる関係で、熱干渉が大きくなり動作が不安定になる
そこでSK Hynixは2024年からPCMに変わり、SOM(Selector Only Memory)という新しい構造を導入。今年は2層構造の構築にも成功し、より多層構造を今後目指すとしている
動作速度が高速で長寿命だが、記憶密度が低いSTT-MRAM
次がMRAMである。Magnetic RAMの名前からわかるように磁気を利用して記憶する方式である。こちらも何種類か方式があり、第1世代のMRAMに続き、STT(Spin Transfer Torque)-MRAMやSOT(Spin Orbit Torque)-MRAMなどの方式が開発されている。
特にSTT-MRAMの場合、スピントルクを注入することでMTJ(Magnetic Tunnel Junction:磁気トンネル接合)と呼ばれる記憶素子の磁荷方向を反転させる方式だが、初期は水平方向の反転だったのに後に垂直方向の反転とすることで記憶密度を高める工夫がなされたりしている。
このSTT-MRAMはすでに実用化されており、研究レベルでは5nmのFinFETプロセスに統合しているし、製品で言えばルネサステクノロジが2024年にMRAM搭載MCUのサンプル出荷を開始。今年5月にはRA8P1として正式に出荷も開始している。
MRAMの特徴としては、動作速度が高速(SRAMより遅い程度)で、寿命が長く(SRAMに匹敵)、不揮発性でデータ保持期間も長い。ただしDRAMよりも記憶密度が低いため、New Value Positionには向かないという致命的な欠点がある。
"Progress in Power & Speed, but Density?"がMRAMの問題点を如実に表している。正直MRAMはむしろ大容量のL4キャッシュなどかが一番向いている(SRAMより高密度でDRAMよりも高速だから)
MCUなどに使われるのは、特に車載向けなどだと不揮発性と長寿命性が重視されているからで、それもあって使われ方としては例えばデータロガーのような不揮発性が貴ばれる用途向けとなっている。

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