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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第836回

DRAMもNANDも限界! AI向け「第3のメモリー」に微細化の壁を越える次の一手はあるか?

2025年08月11日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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多層構造化が容易だが動作が不安定なPCM/SOM

 まずPCM/SOM、PCM(Phase Change Memory)といってピンとこないのであれば3D XPoint、あるいはOptaneと言えばおわかりかもしれない。Optane Memoryはバルク材料の相変化をスイッチング機構に利用した構造である。

 ちなみに3D XPointというのはもう少し一般的な用語であり、行アドレス線と列アドレス線を3次元的に直交(XPoint)に配した構造であって、その交点にスイッチング素子が配される。ここにPCMを利用することで密度を高めるというものである。

3D XPointは、PCMの構造がインテル/Micronとは異なるので、3D XPoint Memoryではあるが、Optaneではない

 3D XPointはSK Hynixも研究しており、4層レベルまでは研究室レベルでは実装できており、2023年のVLSIシンポジウムで発表もされた。ただ20nmをさらに微細化しようとすると、以下の問題が出てくるとする。

  • 交点に置かれるPCMとOTS(Ovonic Threshold Switch)のアスペクト比が高くなる(底面積が減るのに高さが減らない)事でプロセスの構築が難しくなること
  • 微細化に伴いSet/Restの書き込みのマージンが減少する(Set/Resetの状態の差がどんどん減っていく)
  • 層間絶縁体も薄くなる関係で、熱干渉が大きくなり動作が不安定になる

 そこでSK Hynixは2024年からPCMに変わり、SOM(Selector Only Memory)という新しい構造を導入。今年は2層構造の構築にも成功し、より多層構造を今後目指すとしている

PCMとSOMの特性の比較。Set/Resetが電流ないし温度のPCMと異なり、SOMでは電圧変化でSet/Resetが操作できる

SCMの寿命はおおむねPCMと同程度。Flashよりははるかに頑丈だが、DRAMにはおよばない。アクセス時間もDRAMにはややおよばない程度

理論的にはFlashほどではないにせよ多層構造化が容易(少なくとも3D DRAMよりは楽)なので、DRAMより容量密度を稼ぎやすいとする

動作速度が高速で長寿命だが、記憶密度が低いSTT-MRAM

 次がMRAMである。Magnetic RAMの名前からわかるように磁気を利用して記憶する方式である。こちらも何種類か方式があり、第1世代のMRAMに続き、STT(Spin Transfer Torque)-MRAMやSOT(Spin Orbit Torque)-MRAMなどの方式が開発されている。

 特にSTT-MRAMの場合、スピントルクを注入することでMTJ(Magnetic Tunnel Junction:磁気トンネル接合)と呼ばれる記憶素子の磁荷方向を反転させる方式だが、初期は水平方向の反転だったのに後に垂直方向の反転とすることで記憶密度を高める工夫がなされたりしている。

MRAMの基本原理である。左下の3層の箱がMTJの概念図。1st FM layerを操作することで、Tunnel barrierを挟んだ2nd FM layerが記憶素子として働く形になる

 このSTT-MRAMはすでに実用化されており、研究レベルでは5nmのFinFETプロセスに統合しているし、製品で言えばルネサステクノロジが2024年にMRAM搭載MCUのサンプル出荷を開始。今年5月にはRA8P1として正式に出荷も開始している。

左下のものはSamsungの14/8/5nm FinFETプロセスでの試作例であろう

 MRAMの特徴としては、動作速度が高速(SRAMより遅い程度)で、寿命が長く(SRAMに匹敵)、不揮発性でデータ保持期間も長い。ただしDRAMよりも記憶密度が低いため、New Value Positionには向かないという致命的な欠点がある。

"Progress in Power & Speed, but Density?"がMRAMの問題点を如実に表している。正直MRAMはむしろ大容量のL4キャッシュなどかが一番向いている(SRAMより高密度でDRAMよりも高速だから)

 MCUなどに使われるのは、特に車載向けなどだと不揮発性と長寿命性が重視されているからで、それもあって使われ方としては例えばデータロガーのような不揮発性が貴ばれる用途向けとなっている。

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