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Google Cloud上の共通データ基盤で選手のプレーを可視化・コンテンツ化

日本プロ野球でもいよいよスタート! 試合の楽しみ方を変える“ホークアイデータ”の裏側

2025年08月06日 10時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 2025年7月24日、「マイナビオールスターゲーム2025」の第2戦、4回表。パ・リーグの清宮幸太郎選手が、横浜スタジアムのライトスタンドへ特大ホームランを放ち、球場に集まったファンを大いに湧かせた。

 このとき、テレビ朝日の中継映像では、打球のスピードや最高到達点、打球角度といったデータが瞬時にビジュアライズされ、全国に届けられた。この打球データは、高精細カメラ映像のリアルタイム解析を行い、ボールや選手の動きをミリ単位でトラッキング(追跡)できる「ホークアイ(Hawk-Eye)」システムによるものだ。

「マイナビオールスターゲーム2025」で清宮幸太郎選手が打ったホームランのデータと軌道のビジュアライズ

 「日本のプロ野球界は、今まさに“データ活用の新しい時代”を迎えている」。そう語るのは、日本野球機構とプロ野球12球団が共同出資する、NPBエンタープライズ(以下NPB) 執行役員 デジタル事業部長の丹羽大介氏だ。NPBでは今年、2025年シーズンから、選手のプレーデータを可視化・コンテンツ化する取り組みをスタートさせている。

 この取り組みを進めるために、NPBではソニーと共同で、Google Cloud上にデータ活用基盤を構築している。Google Cloudが開催した記者説明会で、NPB丹羽氏がデータ活用の取り組みを詳しく紹介した。

NPBエンタープライズ 執行役員デジタル事業部長 丹羽大介氏

「データ」を通して選手の凄さがさらに伝わり、楽しみ方も広がる

 これまでプロ野球各球団では、試合分析や選手育成、ファンへの新たな観戦体験提供などを目的として、それぞれ独自にトラッキングデータを取得・解析・活用してきた。

 この全球団のデータを集約・一括管理する形で、NPBが2025年シーズンから運用開始したのが、共通データ基盤の「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」だ。共通基盤を用意することで、各球団の運用効率化を図るとともに、ファンの期待を上回る新たな価値提供を目指す。

 前述のとおり、選手やボールのトラッキングデータを解析するシステムが、ソニー子会社が開発するホークアイだ。

 米国MLB(メジャーリーグ)では、すでに2020年シーズンからホークアイを導入。グラウンドにいる選手の動作、打球の飛距離や角度、投球の変化量といったトラッキングデータをフル活用している。近年、日本人プレイヤーが出場するMLBの試合中継が放送される機会が増えたが、その中で、詳細なデータとビジュアライズを使った解説を目にしたことのある方も多いはずだ。

 「こうしたデータによって、ファンにはより『選手の凄さ』が伝わり、他選手や過去との比較など『楽しみ方』も広がる。加えて、各球団もデータを活用して、選手の育成や評価に活用できる」(丹羽氏)。

ホークアイのトラッキングカメラ

 NPBのデータ活用戦略はまず、新たに活用できるようになったデータを「知ってもらう」ことから始める。次の段階では、テレビやネットのサービスを通じて「データを楽しんでもらう」。今後、野球のデータをアニメキャラクターに置き換えて表現するなど、幅広い層に訴求するための施策も検討しているという。

 そして、最終的には、「データを活用した新体験」の提供を目指す。例えば、AR/VR・メタバースを活用した選手目線での体験であったり、野球ゲームにリアルデータを反映したりする取り組みを想定しているという。すでにゲーム会社から、データ活用に関する問い合わせもあるという。

NPBのデータ活用によるエンゲージメント戦略

 この戦略に沿って、DMPで管理するトラッキングデータからCGコンテンツを生成する「CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)」も開発している。すでに現在、CGコンテンツはCMSを通じて各球団に提供され、球場のビジョンへの投影やSNSなどに活用されているという。

選手やボールの動きを高精度にデータ化する“ホークアイ”

 ソニーの執行役員である平位文淳氏は、ここまで紹介した新たな野球体験の実現には、「ホークアイの高度なトラッキング技術とデータ活用を支えるクラウド技術」が鍵になるという。

ソニー 執行役員 平位文淳氏

 ホークアイは、ソニーのグループ会社であるHawk-Eye Innovationsのシステムであり、野球のほかにも、サッカーのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)などに活用されている。ホークアイのトラッキング技術は、選手やボールの動きを高精度にデータ化でき、取得できるデータは、投手の球速やボールの軌道、回転数、打者の打球速度、打球角度、スイング速度など多岐にわたる。

CMSでコンテンツ化されたホークアイのデータの例(ホームラン・左、配球分布・右)

 日本のプロ野球では、2024年シーズンに全球団がホークアイを導入。各球団の本拠地球場に、専用カメラやサーバーなどが設置された。こうした背景があって、NPBとソニーがDMPとCMSの開発を始めたわけだ。

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