再エネ余力がある地域のデータセンターにワークロードを動的に配置換え、需給バランス図る
データセンターの消費電力に“余剰再エネ活用” NTT西やQTnetらが実証実験
2025年06月23日 07時00分更新
データセンターの消費電力が急増する一方で、再生可能エネルギーは出力制御され発電余力が十分に生かされていない――。こうした矛盾を解消するための、新たな実証実験が行われた。
NTT西日本は2025年6月11日、NTTおよびQTnet(九州電力グループ)と共同で、次世代光ネットワークのIOWN APNを活用した「遠隔データセンター間での処理配置最適化」実証実験に成功したことを発表した。
この実証実験では、約600km離れた大阪(NTT西日本)-福岡(QTnet)のデータセンター間を大容量/低遅延のIOWN APNで接続し、アプリケーション(仮想マシン)のライブマイグレーションを実行。ダウンタイムを抑えながら、遠隔分散したデータセンター間で最適なワークロード(処理)配置を動的に行えることを実証した。
さらに、ワークロードを配置するデータセンターの選択を、地域の再生可能エネルギー需給状況やデータセンターの電力使用量に基づき、独自のアルゴリズムで自動制御する実験も実施。再生可能エネルギーの余力が見込める地域のデータセンターにワークロード配置を移すことで、再生可能エネルギーの利用率向上が見込めることも実証している。
再エネの“余力”があるデータセンターにワークロードを移動
今回の実証実験は、IOWN APNを活用した分散データセンターの構築、および再生可能エネルギーの発電量に応じたワークロード配置最適化を目的として実施されたもの。NTT西日本 デジタル革新本部 技術革新部 IOWN 推進室の吉田耕陽氏は、その背景を次のように説明する。
「AIなどの需要に伴い、データセンターの需要や投資が急拡大している。それに伴い、消費電力が大幅に増加傾向にあることが課題になっている。これを解決するために再生可能エネルギーの利用が期待されているが、実際には、電力の需給バランスを維持するために、全国で年間約19億kWhもの電力量が出力制御されており、発電された再生可能エネルギーが十分に生かし切れていない現状がある」(吉田氏)
とくに九州エリアにおいては、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの利用が活発だが、そのぶん出力制御も多い(2023年度で12.9億kWh)。そこで、電力需給に応じて九州のデータセンターにワークロードを移すことで、余剰電力の活用を進め、データセンターの消費電力課題に対応する狙いだ。
「再生可能エネルギーの電力量に余力が見込める地域のデータセンターに、処理配置を変更することで、これまで以上に再生可能エネルギーを積極的に利用でき、カーボンニュートラルへの貢献も期待できる。IOWN APNによるデータセンターの付加価値向上と環境負荷軽減を両立する」(吉田氏)
NTT西日本とQTnetは、2024年11月に大阪-福岡間をIOWN APNで接続し、複数拠点を低遅延で結んだダンスレッスンの実証実験を行った実績がある。今回はこのインフラを活用して分散データセンター環境を構築するとともに、NTTネットワークシステム研究所が持つ再生可能エネルギー考慮型仮想ネットワーク制御技術を組み合わせてのフィールド実証となった。
具体的には、実際に九州市域で再生可能エネルギーの出力制御が発生した2023年3月15日のデータを用いて、再生可能エネルギーの発電量やデータセンターの電力使用量に応じて、ワークロードを配置するデータセンターを30分サイクルで選択し、自動制御を行った。
ワークロード配置の計画には、多種多様な要件を考慮する必要がある。今回は、NTTが開発した独自アルゴリズムによって、従来はおよそ9日間かかっていた1日分の最適化計画を、2分以内で算出することに成功している。
「処理配置最適化機能によって作成されたスケジュールでは、日中は福岡のデータセンターで処理し、太陽光発電による出力が落ちた夕方以降は、福岡と大阪で、半分ずつの処理を行う負荷分散配置に自動的に移行した」(吉田氏)
この結果、データセンター間で均一にワークロードを分散させる方式と比べて、データセンターにおける再生可能エネルギー利用率を、最大31%向上できることが確認された。今回実証された最適化技術は、3つ以上のデータセンターに分散させる場合も適用が可能で、電力需要に応じたデータセンターへのワークロード配置を積極化できる。
「データセンター活用」と「サステナビリティ実現」の両立目指す
NTT西日本では今後、需要が増大するデータセンターにおける再生可能エネルギーの積極的な利用を促進することで、環境負荷の低減に貢献するほか、AIやIoTなどの需要に対するデータセンター活用と、サステナビリティ実現の両立に向けて、ユースケース実証や技術開発を進めていくという。
また、今回の実証にも見られるように、IOWN APNはネットワーク機能のみならず、制御や計算機能と組み合わせることで新たな価値を生み出せる。このことから、3社による連携を継続し、IOWN APNの活用や付加価値向上に向けた実験を進め、地域や社会の課題解決に貢献することを目指す考えも示した。
「今回の実証は、処理配置最適化と、データセンターにおける再生可能エネルギーの積極活用に向けて、第一歩を踏み出したに過ぎない。得られたフィードバックを反映するほか、パートナー連携の拡大、他の技術との組み合わせによるユースケースの創出も目指す。ワット・ビット連携も視野に入れたものになる。社会実装に向けて、さらに踏み込んだ技術実証を行っていく」(吉田氏)













