業務を変えるkintoneユーザー事例 第264回
重機商工の業務改善の歩みとkintoneコミュニティから得られたもの
あがり症なkintone担当者、あこがれの舞台で「勇気のバトン」をつなぐ
2025年06月04日 09時00分更新
「kintoneでの業務改善で、何か問題が起こるかもしれない。怖かったんです」――と、プロジェクトの失敗を恐れていた岡田孝平氏。一歩を踏み出す勇気を与えてくれたのは、コミュニティを通じて出会った、kintoneの“その先”にいる人たちだった。
2025年4月15日にZepp Nagoyaで開催された、kintoneユーザーの事例共有イベント「kintone hive nagoya」。5組目に登壇した重機商工の岡田氏は、kintoneで進めた業務改善の軌跡とkintoneコミュニティを通じて得られたものについて語った。
自身でも使いたくなるアプリを作ろうと決意
重機商工は、1960年に設立した従業員37名ほどの製造業で、名前の通り、建設機械の修理・販売を手掛けている。同社は、本社を建て替えたばかり。ゼロエネルギーで設計され、SDGsを意識した“令和の建物”だ。一方で、社内の業務は“昭和”さながらで、「紙にまみれていた」という。仕入・売上伝票や請求書、領収書、すべてが手書きの運用をしていた。
そんな中、住宅設備の部署で業務改善の取り組みを始めた岡田氏。一度は、Excel関数で、顧客データと売上を関連付けようとするが、上手くいかない。業務改善の道が開かれたのは、2021年にkintoneと出会ってからだ。
まず岡田氏がkintoneで作ったのが、「工事の工程管理アプリ」である。しかし、なかなか使ってもらえず、「どこに入力するか分からない」「アプリまで辿りつけない」など、ネガティブなフィードバックばかり。岡田氏自身も、内心では「紙なら5秒で書けるのに……」と思いながら、アプリを作成していたという。岡田氏は、心機一転、自分でも使いたくなるアプリを作ろうと決意した。
まず取り組んだのは、改めてkintoneをよく知ることだった。kintoneの認定資格に挑戦し、アソシエイトの資格を得た。サイボウズのコンテンツやYouTubeの関連動画を漁った。プラグインのことも学び、いくつか使いこなせるようになった。そして、kintone化するのは、最も業務が楽になる「手書きの伝票」にターゲットに定めた。
こうして完成したのが、「請求書発行アプリ」だ。プラグインとして、kintone内でデータを自動集計できるメシウスの「krewData」や、帳票が出力できるトヨクモの「PrintCreator」を活用。仕入・売上伝票の入力から繰越請求書の発行、買掛・売掛残高の管理、月次集計までを、一気通貫で担うアプリだ。最初のアプリで反応が悪かった上司も、「便利になった」と評価してくれたという。
こうして住宅設備部の手書きの帳票は一掃されたが、他の部署への展開は悩みどころであった。自部署ならともかく他部署では、「何か問題が起きた際に手に負えないかもしれない」(岡田氏)という懸念からだ。全社展開に迷う中、岡田氏は、kintoneのコミュニティを知る。
kintoneアプリの作成・普及は無駄にならなかった
岡田氏は、全国の有志が開催する勉強会「kintone Cafe」に参加。続いて、ユーザー事例を披露するイベント「kintone hive」にも参加する。そして、登壇したユーザー企業から全社展開のヒントを得る。
そのヒントとは、「現場に出向いて対面で説明」することだ。Zoomなどは使わず、車で1時間かかる営業所にも直接訪問し、顔を突き合わせて、ユーザーと同じパソコンで教えることを繰り返す。それを実践することで全社展開は成功した。「『何かあったら連絡して』と伝えていても、結局は連絡してくれない。それでも、訪問してみると細かい質問が出てくる」と岡田氏。
最終的に、請求書発行アプリは、インボイス制度や電子帳簿保存法の関係で、市販の販売管理ソフトに移行することになる。ただし、苦労しながら作成し、全社展開した経験は「無駄になっていない」という。岡田氏にはシステム導入のノウハウが溜まり、現場社員もパソコンへの苦手意識がなくなったため、新システムへの移行はスムーズに進んだ。
kintoneアプリの作成も成長した。初めて作った工程管理アプリも、UIも洗練され、導線も分かりやすくなり、「使いづらい」と言われないくらい、今では生まれ変わっている。
そして、まだまだ、kintoneに置き換えられる業務はたくさんあり、伝票以外の紙の業務も残っている。今後のkintone活用に意気盛んな岡田氏だが、かつては、「kintoneでの業務改善で、何か問題が起きるかもしれない」と失敗を恐れていたという。
そもそも、5人の前で話すだけでも頭が真っ白になっていたという岡田氏が、今回、kintone hiveの舞台に立ち、400人以上の前でプレゼンをしている。岡田氏の変化は、kintoneコミュニティがあったからこそだ。

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