フィンランドのアーティスト、タピオ・ヴィルカラ(Tapio Wirkkala 1915-1985)の日本初となる大規模個展「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」が、東京ステーションギャラリーで開催されています。2019年の「アルヴァ・アアルト展」、「ルート・ブリュック展」につづく北欧・フィンランドのアーティストを紹介する展覧会です。
タピオ・ヴィルカラ、1980年代
© Maaria Wirkkala. Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
デザイナーであり彫刻家でもある、タピオ・ヴィルカラは、“自然からインスピレーションを受けて、美しくて機能的なものを作った”アーティストです。ガラス製品、家具、カトラリー(ナイフ・フォークなど)、彫刻、パッケージデザインまで、幅広い分野で活動しました。ヴィルカラは、フィンランド北部のラップランドにある「ウッカス」という場所に自分のアトリエ小屋を建て、自然と向き合いながら創作していました。その地は“世界の果て”とも言えるような静寂の地で、この展覧会のサブタイトルにも冠されており、ヴィルカラが自然とどのように対話し、形にしてきたかがテーマになっています。
《シェル(巻貝)》1956年 Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art.
© Ari Karttunen / EMMA
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
《スオクルッパ》1975年 Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art.
© Ari Karttunen / EMMA
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
タピオ・ヴィルカラの生涯について簡単に紹介していきましょう。1915年に、フィンランドのハンコという港町で生まれたタピオ・ヴィルカラは、父親も彫刻家だったので、小さい頃から芸術に親しんで育ちます。ヘルシンキの美術工芸学校(今のアールト大学)で彫刻を学び、最初はグラフィックデザインや彫刻の仕事をしていました。
1940年代に入り、第二次世界大戦後のフィンランドで「新しいデザイン」が求められる時代になると、ヴィルカラは、フィンランド航空(フィンエア)のロゴやポスター制作も担当するなど、グラフィックの仕事でも活躍するようになります。
そして1946年にイッタラ社が主催したデザインコンペで見事優勝し、これが彼の大きな転機になり、国際的にも有名になりました。その後ミラノ・トリエンナーレ(国際デザイン展)で何度も金賞を受賞します。ガラス、木、金属、プラスチック、陶磁器など、あらゆる素材を使ったデザインを始め、自然をテーマにした作品で人気を得ます。
《カンタレッリ》1946年 Collection Kakkonen.
© Rauno Träskelin
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
《リントゥ(鳥)》1975年 Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art.
© Ari Karttunen / EMMA
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
なかでも、「ウルティマ・ツーレ」シリーズが大ヒット! フィンランド国内だけでなく、イタリア、日本、アメリカなどでも仕事を広げました。また、手作り感のあるデザインだけでなく、工業デザインにも力を入れたのも彼の特徴のひとつです。69歳で亡くなるまで自然に向き合い、シンプルで温かみのあるものづくりを続けました。
《ウルティマ・ツーレ(ドリンキング・グラスのセット)》1968年 Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art.
© Ari Karttunen / EMMA
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780
東京ステーションギャラリーの赤レンガの壁とヴィルカラの作品が調和し、静謐で温かみのある空間が広がっています。一方で3階展示室では映像を交えたスタイリッシュな空間が楽しめます。それぞれ自然素材を活かした作品群は、訪れる人々に北欧の自然とデザインの融合を感じさせます。また「ウルティマ・ツーレ」シリーズのインスタレーションでは、氷が溶ける瞬間や自然の躍動を視覚的に体感できます。
「自然と人間をつなぐデザイン」を追求し、芸術と日常生活を結びつけたアーティスト、タピオ・ヴィルカラの日本初の大回顧展「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」は、6月15日までです。ヴィルカラの多彩な作品を通じて、自然との対話や彼の創作の深淵に触れる貴重な機会です。彼の存在を知らない方でも、自然を元に作られた作品の美しさや、背景にある物語を感じ取ることができるはずです。ぜひ会場に足を運んで、ヴィルカラの世界を体感してみてください。
タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
開催期間:2025年4月5日(土)〜6月15日(日)
時間:10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし5/5、6/9は開館)
会場:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
主催:東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)
企画協力:エスポー近代美術館、タピオ・ヴィルカラ ルート・ブリュック財団、ブルーシープ
特別協力:イッタラ
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター
協賛:T&D保険グループ
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