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減災ソリューションズと熊本県菊陽町が「災害図上訓練」の結果を数値化

“紙とペン”の伝達で情報はどれだけ抜け落ちる? 災害初動で検証した結果

2025年05月02日 15時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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災害対策本部における“紙とペン”の情報共有

 災害発生時に役場などに設置される災害対策本部には、被災者や関係機関から一度に大量の情報が寄せられる。しかし、多くの自治体では、報告をメモ用紙に書き留め、ホワイトボードに転記して全体を把握する“アナログ運用”が中心だ。そのため、記載者によって情報の精度が異なり、メモがあちこちを行き来して、緊迫した状況下にも関わらず「情報が変容・欠落するリスク」が生じると指摘されてきた。

 この課題を明確にすべく、減災ソリューションズが、2025年3月、熊本県菊陽町と協力して「災害図上訓練」を数値化する取り組みを実施。アナログ方式とデジタル方式を同一条件下で比較し、定量的な評価を行った。

 この訓練では、大規模地震の直後、約20分間のあいだに約40件の被災・避難情報が役場に殺到する状況を想定した。

 災害対策本部室内では「情報収集担当者」「報告担当者」「意思決定者」の3つの役割を設定。まず、情報収集担当者が電話で伝えられた被災状況を記録し、それを報告担当者が整理して、意思決定者へ伝達する。最後に、意思決定者が集まった情報から対応を指示する、といった災害初動期の流れを再現した。

 この図上訓練を、紙とペンだけを使うアナログ方式と、パソコンやタブレットを活用して記録・閲覧するデジタル方式で連続して実施。「情報の網羅率」や「記録ミスの発生率」、「受信から意思決定に至るまでの速度」を数値化して比較した。なお、デジタル方式では、減災ソリューションズが開発中の災害情報共有アプリ「GENSAI-Platform」を使用している。

GENSAI-Platformの情報記録・投稿画面

 結果、アナログ方式では「約3割」もの情報が抜け落ち、一部では重大な転記ミスや誤認が生じるなど、災害対応に支障をきたすリスクがあることが検証できた。具体的には、高齢者の転倒事故を「5歳児が転倒」と間違って記録し、誤った対応指示を出しかけるケースを確認。さらに、報告時刻や記録担当者など、対応検討に必須の情報が抜け落ちたケースも多く見られた。

 また、記録用紙があちこちに散在するために書き写しが間に合わず、理想とすべき「時系列」で整理できた情報は全体のわずか「18%」にとどまっている。

 一方、デジタル方式では、受信日時や発信者は自動的に記録されるほか、複数の担当者が同時入力しても即時に時系列で整理され、情報の抜け漏れが「ほぼゼロ」に。報告から意思決定までの時間も「最大20%」短縮されたという。

 減災ソリューションズは、今回の訓練について、「曖昧になりがちだった図上訓練の精度を数値化し、DXによる具体的な改善効果を客観的に示した点に、大きな意義がある」と述べている。また、訓練に参加した職員へのアンケートでは、「災害時の情報処理体制への理解」の評価(5点満点)が、訓練前の「2.15」から「4.53」へと大幅に上昇するなど、災害初動業務への理解と担当意欲が向上するという成果もみられたという。

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