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幾度となくぶつかった壁、トライアンドエラーを重ねて金沢きっての水引体験教室へと成長

文●杉山幸恵

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金沢随一の人気を誇る水引体験教室に。回り道をしながらもついに花開いた事業の形

 次に中崎さんは〝売る〟から〝教える〟へと方向転換し、ラッピングと水引の教室を中心に活動をスタートする。異業種交流会などでつながった縁もあり、定期教室や出張講座、イベントなど多方面から声がかかったという。

 「特に人気だったのが水引でアクセサリーをつくる教室。当時はまだ珍しく新鮮だったこともあり、すぐに話題になり、自分で言うのもなんですが瞬く間に〝売れっ子先生〟になれました(笑)。最初はコワーキングスペースで教室を主宰していましたが、すぐに小さな物置部屋を借りてお店兼事務所に。『やっと自分の力でスタートラインに立てたな』と実感した瞬間でした」

水引の基本は和風ラッピングコーディネーターの資格を取得する際に学び、その後も独学でスキルを高めていた

再びオープンさせた店舗は月3万円、6畳の一室。DIYで改装した

 こうして2015年に今度は自分自身の力で「金澤くるみ」として店をオープン。ラッピングと水引の講師として活動を続けてしばらく経ったころ、少しずつ新たな課題が生まれてきた。

 「教室で学んだ方のなかに、同じデザインで商品を販売する人や、講座内容をそのままコピーして開催する人、同じイベントに安く出品する人などが出てきたのです。注意したくても、こちらは資格制度や認定制度を設定していなかったため、強く言えず、悩み続ける日々でした…」

 そんな時、中崎さんに一つの転機が訪れる。知人に紹介され、全国的な観光体験予約サイトへ水引の体験教室を掲載することになったのだ。

 「水引づくりを〝金沢の伝統工芸にふれる体験〟として掲載したところ、観光客からの予約が入るようになりました。それならば、と地元向けの定期教室はすべてやめて、観光体験に絞ったプランづくりに集中。そこから少しずつ、でも確実に、事業が軌道に乗り始めました」

観光客にターゲットを絞ったことで事業は大きく成長。最近ではインバウンド需要も高いという

 2014年に起業してから、ここまで来るのに約5年。ゆっくりだけど、いろいろな経験を積み重ねて成長していったという中崎さん。閉店や事業の方向転換を幾度となく繰り返したが、「これは失敗だったな…と感じることは、実はありませんでした」と振り返る。

 「一つひとつ、『こうすると、こうなるんだ』と確かめながら、手探りで前に進んできたという感覚のほうが強いです。うまくいかないことがあれば、そのたびにシフトチェンジ。壁にぶつかっても、『じゃあ、別のやり方を試してみよう』を繰り返し、今に至っています。

 教室の生徒さんに商品や講座を模倣された時、父からこんなことを言われたんです。『真似されるってことは、それだけいい商売をしてるってこと。真似されないところまで突き進んで、誰も追いつけないようにすればいい』と。当時は『そんな簡単に言われても…』と正直思いました(笑)。でも、今となってはその言葉が胸に響いています」

 そんな現状を「観光で金沢に来たら水引体験はここ!満足度No.1の体験教室!と自負しています」と言い、ほこらしげに笑う中崎さん。

 「追いつけないところまで走り抜けたかはわかりませんが、少なくとも自分なりのやり方で、無理なく楽しく、仕事ができている。それが何よりの喜びです」

 2020年、コロナ禍をきっかけに店舗を閉店。現在は「レンタルスペース 金澤町家新保屋」を拠点とし、水引アクセサリー体験教室を中心に活動。さらに実家の倉庫を改装し、小さなオーダーメイドラッピングの店舗も営業。店舗向けのラッピングコンサルティング、水引商品や巨大リボンの販売なども行い、起業の原点であるラッピングの事業もその幅を広げている。

実店舗は構えず、「レンタルスペース 金澤町家新保屋」で体験教室を開いている

生花店など店舗でのラッピング指導のほか、包装紙やリボン、デザインといったラッピング全般のコンサルタントも行う

ディーラーより納車用のリボンを受注することも

 「仕事を通していただく『水引の体験ができて楽しかった!』『ラッピングで困ってたから助かった』という、お客様からのひと言が大きな喜びです。そして、お客様の予約がない日は、会社に縛られることなく、自分のペースで過ごせる。定休日も自由に調整できるから、子どもとの時間もしっかり取れる。そんな日常に、あらためてありがたいなと感じています。

 今の仕事は、まさに私にとっての天職。しかも、その天職を〝自分でつくった〟ということにもたくさん幸せを感じながら、日々生きています」

35歳で長女、40歳で長男を出産した中崎さん。現在はシングルマザーとして2人を育てている

 これからも、時代や環境の変化には柔軟に対応しながら、今のこの〝心地よい働き方〟と〝幸せ〟を維持したいという中崎さん。最後に現在、ライフシフトを考えている女性にメッセージをもらった。

 「私は2018年までずっと、週5日でアルバイトをしながら、ラッピングと水引の仕事を続けていました。『いつか、自分の仕事だけでご飯を食べられるようになりたい!』そう願いながらも、実現するまでに5年かかりました。

 起業って、決して一発でうまくいくものじゃありません。軌道に乗せるまでには、時間も、試行錯誤も必要です。だからこそ、焦らず、無理せず進むことが大切。経済的な不安があれば、アルバイトをしながらでもいいと思います。

 たとえば〝週末起業家〟でも、立派なスタート。そのくらいの気持ちで、一歩だけ踏み出してみてください。その先には、これまでとはまったく違う、ワクワクする世界が待っているかもしれませんよ!」

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