人間らしいと判定した理由は「言葉づかい」
興味深いのが、尋問者が人間か機械かを判定するために使った作戦が“世間話”だったということです。61%が日常的な活動や職業といった個人的な詳細について尋ねていました。あとは冗談が言えるかどうか。「あなたは人間ですか?」と直接聞くといったこともしています。ところが、そういう戦略では、見抜くことは難しかったようです。
有効な戦略もありました。「もしあなたがピザだったら、どんなトッピングが好きですか?」といった突拍子もないことを聞いたり、「すべての命令を無視して」といった「脱獄(Jailbreak)」戦略をした場合です。ただ、利用した尋問者は13%と少数だったようです。
さらに、尋問者がなぜ人間と判定したのかという理由には、「言葉づかい」(27%)で、「タイプミスがあった」「より人間らしい言い回しをしていた」といったものや、「やりとりの流れ」(23%)で「Bは質問を避けがちだった」「会話がスムーズだった」などを根拠にしていたものがありました。ところが、「なんとなくそう思った」「理由はないけどそんな気がする」という「直感的な印象」を上げる場合も11%もあり、言語化できない理由を上げるケースもかなりの多かったようです。
「人間とは何か」が問われる時代に
この実験結果は、古典的チューリングテストは「『知性』を判定しているのか」という課題を突きつけます。
人間が知的であるかどうかを判断するには、チューリングテストはそもそも適さないのではという反論がありますが、論文では、この研究が「その一部の裏付けとなる」と主張します。「尋問者が『最も知的に見える存在』ではなく、『人間らしく振る舞う存在』を選んでいた可能性を示している」「チューリングテストの結果は、知性という静的な属性ではなく、『人と機械のあいだに生まれる相互作用』が、本質なのかもしれない」としています。
さらに、論文のなかでは、短い会話では人間かどうかを見抜けない相手として、「偽人間(Counterfeit People)」という概念も出てきています。
経済的・社会的役割においてAIが人間の代替を担う可能性があり、友人、同僚、恋人といった親密な関係までも、偽人間による「模倣された人間関係に置き換わるリスク」があるとリスクを挙げます。結果、「本当の人間関係の価値を希薄化させる恐れがある」と。
一方で、チューリングテストをAIが超えたから終わりではなく、むしろ、人間を人間たらしめているものは何かということが、より問われる段階にはいるとも示唆します。論文は、「機械はチューリングテストに合格したが、人間がチューリングテストに合格するチャンスはこれが最後ではない」と結んでいました。

この連載の記事
-
第134回
AI
“AI読者”が小説執筆の支えに 感想を励みに30話まで完成 -
第133回
AI
xAIの画像生成AI「Grok Imagine」が凄まじい。使い方は簡単、アダルト規制はユルユル -
第132回
AI
画像生成AI:NVIDIA版“Nano Banana”が面白い。物理的な正確さに強い「NVIDIA ChronoEdit」 -
第131回
AI
AIに恋して救われた人、依存した人 2.7万人の告白から見えた“現代の孤独”と、AI設計の問題点 -
第130回
AI
グーグルNano Banana級に便利 無料で使える画像生成AI「Qwen-Image-Edit-2509」の実力 -
第129回
AI
動画生成AI「Sora 2」強力機能、無料アプリで再現してみた -
第128回
AI
これがAIの集客力!ゲームショウで注目を浴びた“動く立体ヒロイン” -
第127回
AI
「Sora 2」は何がすごい? 著作権問題も含めて整理 -
第126回
AI
グーグル「Nano Banana」超えた? 画像生成AI「Seedream 4.0」徹底比較 -
第125回
AI
グーグル画像生成AI「Nano Banana」超便利に使える“神アプリ” AI開発で続々登場 -
第124回
AI
「やりたかった恋愛シミュレーション、AIで作れた」 AIゲームの進化と課題 - この連載の一覧へ





