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「Agentforce」で市場を先行、新たな開発者コミュニティも立ち上げ

企業のAIエージェント導入における「成功法則」とは? Salesforce幹部に聞く

2025年04月02日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 ベンダー各社が「AIエージェント」をプッシュする中、「2025年末までに10億のAIエージェントを立ち上げる」と壮大な目標を掲げているのがSalesforceだ。2024年秋には「Agentforce」、そのわずか3カ月後に「Agentforce 2.0」を発表し、新たな開発者コミュニティ「Agentblazer」も立ち上げて、市場でのリードを図る。

 Salesforceでプロダクトマーケティング担当SVPを務めるサンジャナ・パルレカー氏に、Agentforce、Agentblazer、そしてAIエージェントの課題などについて聞いた。

Salesforce プロダクトマーケティング担当SVPのサンジャナ・パルレカー(Sanjna Parulekar)氏

SalesforceのAI研究開発アプローチは「ビジネスのためのAI」の実現

――あなたはSalesforceで、AIプロダクトのマーケティングに長年携わってきたと伺っています。これまでを振り返って、AIの変遷をどのように見ていますか?

パルレカー氏:ほかのITベンダーと同様に、SalesforceにおけるAIの取り組みは予測型AIからスタートしました。ただしわれわれは、予測AIをいち早く商用化しただけでなく、リサーチチームを率いてLLM(大規模言語モデル)やプロンプトエンジニアリングといった研究も進めていました。現在でこそよく耳にする技術ですが、当時はまだ一般的ではありませんでした。そのため、OpenAIの「ChatGPT」が登場したときも驚くことなく、研究と商用化を進めました。

 予測AIの時代に学んだことは、技術そのものは潜在的な可能性を秘めている一方で、コスト、アルゴリズムのレベル、データといった課題もあるということです。そこで、生成AIが登場した際には、顧客にメリットをもたらず「ビジネスのためのAI」として提供するという方針を決め、ここに大きな投資をしました。 予測AI時代に学んだことは、この技術そのものは潜在性のあるものですが、コスト、アルゴリズムのレベル、データなどの問題があるということ。そこで、生成AI登場時にわれわれは「ビジネスのためのAI」に取り組みました。つまり、顧客がメリットを得ることができるAIを提供するというもので、ここに大きな投資をしました。

 アルゴリズム、テクニック、推論エンジンといった重要技術の研究を行っていますが、われわれが最も気にしているのが「顧客体験」です。最終的な目標は、AIを使って、あらゆる場面で顧客の価値を高めることです。

――しかし、「研究開発段階のAI」と「企業がビジネスの現場で使えるAI」の間には大きなへだたりがあると思います。その橋渡しは簡単ではないでしょう。

パルレカー氏:おっしゃるとおりです。「ビジネスのためのAI」を実現するために、われわれのリサーチ、プロダクト、UX/UIの3チームが緊密な連携のもとでビジネスを進めています。

 リサーチチームは技術分野を徹底的に研究します。アルゴリズムの最適化、情報検索技術の最適化といった分野があります。そのリサーチから生まれたSalesforceの「Atlas」推論エンジンは、RAGを用いるAIエージェントの精度向上という目標からスタートし、回答の信頼性、正確性、引用の適切性などの改善に役立っています。

 プロダクトチームは、最先端の技術をビジネスのユースケースに合う要件に変換します。そしてUX/UIチームが、どうすれば顧客がその技術をうまく使えるのかを徹底的に検討し、分かりやすいUX/UIを設計します。こうすることで、企業が実際に活用できる「ビジネスのためのAI」を提供します。

人間の「置き換え」ではなく「拡張」を実現するDigital Labor

――現在、「AIエージェント(AI Agent)」「エージェンティックAI、エージェント的AI(Agentic AI)」といった言葉が社会に広まっていますが、Salesforceではどのように定義していますか。

パルレカー氏:AIエージェントは、本質的には「デジタルワーカー」と呼べると思います。そこにはLLM、データ、UX、ロジックといった要素が含まれます。エージェンティックAIはより広範な概念であり、「エージェント的(Agentic)」という言葉は、何らかのプロセスに推論能力が加わっていることを意味します。SalesforceのAgentforceは、AIエージェントを作成するツールですね。

――Salesforceでは、Agentforceを「Digital Labor Platform」と表現しています。Digital Laborという言葉を、どういう意味で使っているのでしょうか。

パルレカー氏:Digital Laborと言うと、Human Labor(人間の労働者)と対立し、人間を置き換える存在のように聞こえるかもしれません。でも本当は、人間のチームをデジタル労働力で拡張して、作業効率をもっと高めようというメッセージなのです。

 抱えきれないほどの仕事に追われている人は、日本でも世界でも数多くいます。わたしもその一人ですが、だからと言っていきなり500人もの人を追加雇用することはできません。会社の投資戦略としても間違っているでしょう。その代わりに、比較的単純な仕事は疲れ知らずのAIエージェントに任せて、人間はもっと難しいことや創造的なことに集中してもらいたい。そう思います。

 つまりDigital Laborは、人間の「置き換え」ではなく「拡張」を実現するものです。これからは、どんな職業の人であっても「自分の仕事にAIがどんな影響を与えるのか」を考え、AIを活用する方向に進むべきです。皆さんの仕事を奪うのは、AIではなく「AIの使い方を理解している人」だと思います。

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