Salesforce Service Cloudを中核に進める“運用効率化”と“オムニチャネル化”
「接客で本当に使えるの?」 一度は却下された生成AI導入、KINTOはどう挽回したか
2025年05月08日 08時00分更新
人手不足や品質の均一化といった課題を解決すべく、AI活用が加速するカスタマーサービス領域。実際の現場では、どのような検証や決裁プロセスを経て導入に至っているのか。
本記事では、セールスフォース・ジャパンが2025年3月に開催した「Agentforce Innovation Day Service」における、トヨタグループのKINTOのセッションを紹介する。「音声認識×生成AI」で後処理業務を効率化するために、どう困難を乗り越え、いかに成果を上げたかが語られた。
KINTOが目指すは省力化・効率化・オムニチャネル化
トヨタグループの一員として2019年に設立されたKINTO。カーライフ向上の新たな選択肢として「クルマのサブスクサービス」を手掛け、サービスの累計申し込み数は13万件を突破している。
KINTOが、カスタマーセンターの高度化のために取り組むのが、「接客領域の省人化」、「運用面の効率化」、そして「ツールのオムニチャネル化」である。KINTOカスタマーセンターのセンター長である平井宏樹氏は、「どうしてもこれらをやり遂げたいという想い」から、Salesforceのカスタマーサービス向けアプリケーションである「Service Cloud」の有効活用を進めていると説明する。
課題は山積していた。まず、省人化・効率化を推進するうえでは、カスタマーセンターの各フローを改善する必要があった。たとえば、顧客応対中に行うナレッジ検索の時間短縮、エスカレーションのための迅速な応対内容の理解、後処理における応対履歴やナレッジの作成の効率化といったことだ。
また、電話・メール・ウェブ窓口のオペレーションではService Cloudを活用していたが、チャットだけは別ツールを使用。マルチチャネル化は実現していたが、チャネル間で情報連携するオムニチャネル化には至っていなかった。
これらの課題解決のため検討したのが、Service Cloudの生成AI機能「Einstein for Service」を中核とした省人化・効率化だ。応対中には、関連すると思われる過去のナレッジがレコメンデーションされ、回答を自動生成する。後処理においても、Einsteinが応対内容の要約、ナレッジ生成を行う。一方で、チャットツールはService Cloudの「Digital Engagement」にリプレースして、基盤統合を進めるという構想だ。
経営層は「接客に耐えうる精度なのか?」と懐疑的
上述の構想ですべての課題が解決するが、まずは決裁プロセスを進めなくてはならない。
KINTOカスタマーセンターが、Service Cloudで生成AI活用やオムニチャネル化を進めるうえでは、3つのツールをリプレースしなければならなかった。チャットツールのDigital Engagementへのリプレースに加えて、通話音声を文字起こしできるようService Cloudに対応したPBX、このPBXに対応する音声認識ツールも必要だった。
そして、もうひとつの大きな壁として立ち塞がったのが、リプレースに対する「経営会議の承認」である。最初の会議では、「生成AIの精度」や「本当に接客領域に使えるのか」といった点で、経営層は懐疑的な反応を示していた。自動車という高額商品をあつかうビジネスであり、ひとつ回答を間違えると商談に大きな影響を与える可能性もある。それに加えて、リプレース費用も高く、いきなりの本番導入は許されなかった。
ここから巻き返しを図るべく、Salesforceの協力を得て、方向転換を図っていく。
まずは、提案のスコープを修正した。導入目的を「後処理業務の“効率化のための要約”」と明確化し、接客領域での活用は今後のオプションとして位置付けた。そして、2カ月間のPoCで、効率化を検証。5年間でイニシャルコスト(PoCや本番構築、年間ライセンスの費用)を回収できる成果を得られたら、本番移行するという承認を勝ち取った。
PoCでは、過去の応対履歴から500件のシナリオを作成して、ACW(平均後処理時間)を計測。ACWが長いメンバーと、既にKPIを達成しているメンバーを対象に、本番に近い形で検証を進めた。手順としては、音声での応対をテキスト化してリアルタイムに要約。そして、Einstein for Serviceの「ケース分類」の機能で、問い合わせの分類と自動連携させるまでを試した。「単なる要約にとどまらず、件名や問い合わせ、回答を手入力していたのを自動化したかった」と平井氏。
しかし、PoCを始めて1週間。ACWが長いメンバーでも「1件あたり平均30秒」しか短縮されず、求められる成果にはまったく届かなかった。このままだと“プロジェクト消滅”の危機だ。
