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業務を変えるkintoneユーザー事例 第262回

Cybozu Days 2024で披露されたエンタープライズ視点での活用術や悩み

大企業でもkintone ZOZO・プレナス・マルテー大塚はノーコードツールをどう使い、どう推進している?

2025年05月21日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

提供: サイボウズ

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 東証プライムの44%に導入されるなど(2024年12月末時点)、中小企業だけではなく、大企業でも活用が進むkintone。

 大企業ユーザーのコミュニティである「kintone Enterprise Circle(kintone EPC)」では、デジタル人材の育成やガバナンス整備、社内浸透策など、この規模ならではの悩みが日々情報共有されているという。

 2024年11月に開催された「Cybozu Days 2024」のセッションでは、kintone EPCに参加するZOZOとプレナス、マルテー大塚が登壇。コミュニティでの情報共有の延長として、ノーコードツールの活用術や“DXの壁”の越え方が披露された。

第4代kintone EPC会長であるマルテー大塚の石井健太郎氏が進行役を務めた

バックオフィスから営業にまで広がるkintoneの市民開発

 「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念のもと、ファッションEC「ZOZOTOWN」などを手掛けるZOZO。kintoneの活用術を披露したのは、同社のコーポレートエンジニアリング部 ITサービスブロックである新井健太氏だ。

ZOZO コーポレートエンジニアリング部 ITサービスブロック 新井健太氏

 ZOZOでは、承認ワークフローをはじめ、各種マスタや台帳アプリなどをkintone化している。kintoneの活用範囲を広げる中で生まれたのが、同社のフレキシブルな組織形態を支える「入退社異動管理」アプリだ。

 同社のこれまでの入退社異動は、スプレッドシートで管理されていた。異動申請はkintone化されていたが、各情報の入力からデータの2次活用、マスタ類への登録まで、手作業かつ目視での確認とアナログな体制。新井氏は「データの2次活用“あるある”だが、csvファイルを作るために新たなスプレッドシートを展開するなど伝言ゲームが発生していた」と振り返る。

かつてのZOZOにおける入退社異動管理

 作り上げた入退社異動管理アプリは、プラグインである「krewSheet(MESCIUS開発)」を用いて、スプレッドシートのUIを踏襲しているのが特徴だ。データを選択式にして表記ゆれを防止したり、条件検索や動的な条件付き書式を利用したりと、表計算ゆえの使い勝手を維持している。

入退社異動管理アプリ

 また、kintoneアプリ化することで、一覧だけではなく、個々のデータの詳細も確認できる。入社や休職、異動といった人事イベント毎にタブ分けすることで、必要な情報だけをすぐ確認できるよう工夫もこらした。データの2次活用においても、連携先のシステムに合わせた項目を予め設けることで、出力したcsvをインポートするだけでデータを追加・更新できる。

詳細画面

 データを選択式にしたり、マスターデータの引用で選択項目を増やしたりすることで、手入力の工数を大幅削減。アプリ内のデータをcsvやAPIで連携させることで、2次活用での伝言ゲームもなくなった。「“仕事のための仕事”を撲滅できた」(新井氏)。

 もうひとつ披露されたkintoneアプリは、新店の契約進捗を管理する「オープンくん」だ。バックオフィスから営業へとkintoneの活用領域と市民開発を広げる、同社にとって新たな挑戦となるアプリである。

 新規ブランドの出店には、電子契約や社内稟議などのさまざまなワークフローがkintoneで進められる。しかし、それらの進捗はスプレッドシートで管理する体制であり、非効率で情報漏れも多発していたという。

 これがオープンくんによって、ボタンひとつで、各種申請のステータスが取得され、ブランドごとの進捗状況が把握できるように。ステータスの取得を自動にしなかったのは、「営業に自発的に現状を確認してから会議に臨んでほしい」(新井氏)という想いが反映されている。

 オープンくんは、2024年11月にプレリリースしたばかりで、今後も進化していく予定だ。同アプリの開発は、情シスではなく実際に現場で使う営業のメンバーが主体となり、保守運用や機能強化を進めていく。

オープンくんの概要

実際の画面

 新井氏は、「アプリの進化だけではなく、営業内でもkintoneの担い手を育成したかった。現場の業務は他にも効率化できる可能性が大いにある。オープンくんをきっかけに営業でもナレッジを蓄積してもらい、kintoneによる業務効率化をよりスピーディに実現したい」と締めくくった。

プレナスのしくじりに学ぶ“DXの壁”を超える方法

 続いて、プレナスのテクノベーション部 中嶋里衣氏からは、“DXの壁”を越える方法について披露された。プレナスは、ほっともっとややよい軒、MKレストランなどのフランチャイズ業を手掛けており、海外を含めて約3000店舗を運営する。プレナスはDXを推進する中で、仕組みのひとつとしてkintoneを導入、本部やフランチャイズの各店舗などで活用している。

プレナス テクノベーション部 中嶋里衣氏

 中嶋氏は自身の経験から、プレナスのDXにおいて、「今までの考え方から脱却して、変化する必要があるのではないか」という問いが重要だと考えている。「外食市場の状況次第では、会社としてのブランド力や多店舗展開、資金力といった強みが十分に活かされるとは限らない」という課題感を持っているからだ。

 とはいえ、同社のここまでの成長は、先人たちの風土文化があってこそ。先人をリスペクトしつつ新しい価値観を混ぜることで、時代の変化やスピードに対応できる新しい風土文化を醸成することが大切になる。

 例えば、労働集約型から「デジタル風土文化」に。縦割組織には「プロジェクト型の組織」を加える。請負構造は「企画・提案型」に、前例主義は「チャレンジ主義」に、といった形で新たな価値観を加えつつ、即決実行や真面目・素直といった風土文化は残していく。

先人をリスペクトしつつ新しい価値観を混ぜる

 特に、チームで仕事のやり方を変革していく「デジタル風土文化」が必要だと実感したプロジェクトがあったという。それは中嶋氏が、顧客からの受付対応を担う「コンシェルジュアプリ」をkintoneで作った際に、3つの“しくじり”に直面したことからだ。

 ひとつ目は、ど派手に決めたい「クジャク問題」だ。100点を目標にするも、経験したことのない挑戦だったため、確信が得られないまま答えを探し続けた。「まず方向性が正しいのかを、仮説を立てて検証していくことが重要だと気付いた」と中嶋氏。

 2つ目が、果てしなく走り続ける「ハムスター問題」だ。課題の本質が分からないと、今ある知見のみで同じところを回り続けてしまう。この反省から、同じ課題を持っている企業を参考にする“借り物型アプローチ”を取っていくことを決めた。

 最後は、指示待ちの「牧羊犬問題」だ。最初は前向きだった他部門のメンバーも、取り組みが長くなってくると「これいつまでやるの?」という姿勢になってしまう。そこで、主体的なメンバーを集めた“小集団のチーム”を設けたり、部門長を巻き込んで認めてもらったりすることで、チームに当事者意識を芽生えさせることに成功した。

中嶋氏の披露した“しくじり先生”3選

 中嶋氏は、「やっぱりDXは難しく、デジタルだけやれば良いというものではなかった。“意識変革”や“プロセス変革”、“仕組み変革”がDX成功の鍵であり、加えてそれを支える本質的な土台が重要になる。この本質が追求できないと、意識やプロセス、仕組みも壁になってしまう」と振り返る。そして、DXの成功には「意識・プロセス・仕組み・本質」という方程式をどんなチームでも理解しやすい形にするための取り組みが必要だと呼びかけた。

kintone EPC会長から“あったらいいな”の活用術

 セッションの最後には、kintone EPCの会長である、マルテー大塚のシステム部 副部長 石井健太郎氏から、ちょっとしたアイディアで“あったらいいな”を実現するkintone活用術が披露された。

マルテー大塚 システム部 副部長(第4代kintone EPC会長) 石井健太郎氏

 ひとつ目は「承認者の自動入力」だ。申請ルートマスターを別で作り、承認者を選択できるようにする手法でも、ユーザーは誰を選んでよいか迷ってしまう。そこで、細かいkintoneのカスタマイズが可能な「gusuku Customine(アールスリーインスティテュート開発)」を活用。追加画面を表示しただけで、自動ルックアップで事前設定された承認者が自動入力される仕組みを実現したという。

 もうひとつは「保存後の申請忘れ防止」だ。こちらもgusuku Customineで、レコード保存時に「このまま申請するか」を尋ねるダイアログボックスを表示。申請するか下書きとして保存するかを選択できるようカスタマイズした。石井氏は、「基本機能に追加してもらっても問題ない」と参加者をわかせ、セッションは終了した。

承認者自動入力

保存後の申請忘れ防止

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