エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第15回

【メタ観光・台北旅行記② マッサージと台湾茶】書家の川尾朋子さんに教えてもらった「街中の交流拠点」は身体にも心にも気持ちよい

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

  • お気に入り
  • 本文印刷

 台北の街並みは、古くからの建物や斬新な現代建築が自然に混ざり合い、東京や大阪などの日本の街とは似たところもあれば、違ったフィーリングもあり、個人的には少しクリームがかった色合いや室外機の並びなどに味わいを感じ大好きなのだが、伝統的な飲食店とともに、よく見かけるのが、マッサージとお茶の店だ。一般社団法人メタ観光推進機構の台湾旅行記第2回は、京都と台北で二拠点生活を過ごしている書家の川尾朋子さんにおすすめの店に連れて行ってもらった。

一般社団法人メタ観光推進機構:https://metatourism.jp/

台北・林森の「足尚氧生養生館」

台北・麗水街の東方美人専門店「大自在空間」

 台湾のマッサージというと、リラクゼーションや伝統的なマッサージが有名で、台北などの都市では多様な選択肢がある。台湾式マッサージは、指圧やツボ押しを組み合わせたもので、疲れを癒すのに良い。足裏マッサージは、足つぼを刺激して全身のバランスを整えるスタイルが人気で、街中にも専門店がたくさんある。ホテルや専門施設では、アロマオイルを使ったリラックス系の施術でスパや高級マッサージが楽しめる。

 台湾の烏龍茶は、その品質の高さから世界的にも有名。現在台湾では、様々な特徴のある烏龍茶が生産されているが、その中でも「東方美人茶」「凍頂烏龍茶」「文山包種茶」が「台湾三大烏龍茶」として知られる。

 東方美人茶は、発酵度は70%程度で、紅茶に近い重発酵烏龍茶。新芽の部分をウンカという虫に喰わせ、その部分を含んだ一芯二葉を手摘みし、手もみでつくられる。別名「白毫烏龍茶」や「香檳烏龍茶」とも呼ばれる。産毛の残る新芽の部分(白毫)が多いもの程高級とされており、東方美人という名はイギリスのビクトリア女王が命名したとも言われている。品種としては、青心大冇がもっとも適していて、夏の時期のみに生産されている貴重なお茶で、独特の蜜のような香りがあり、自然な甘さが売り。

 凍頂烏龍茶は、台湾中部・凍頂山一帯で採取される烏龍茶で、近年の台湾茶ブームの中心的存在。他の烏龍茶より発酵度が低いため、抽出されるお茶の色は薄い金色で、花の香りと優雅な味が特徴。しっかりした味わいと喉越しの良さがあって、焙煎の度合いによって味が変化するのもポイントだ。

 文山包種茶は、緑茶に近い軽発酵で作られたお茶。台湾北部・文山地区で作られている。烏龍茶のなかでもとくに発酵度が低い軽発酵烏龍茶で、日本の緑茶に近い味わい。その特徴である龍の形をつくり出すには熟練した技術を要するため、比較的高値で取引されている。昔は紙に包んで販売されていたことから、包種茶と名付けられた。

●川尾朋子さんに聞く台湾の魅力

 「台湾で繁体字を使用した台灣華語を学ぶため、2022年より京都と台北の二拠点で活動をしています。昨年から今年にかけては自身のHITOMOJI PROJECT -Women-を台湾の女性と実施し、今年の9月から11月に台湾の横山書法芸術館にて作品が展示されます。

 私にとって台湾の最大の魅力、それは"人"です。大らかであたたかい心、助け合いの精神があるように思います。 人口約2,300万人の国に原住民、福佬人、客家人、外省人という多様な人種が混在している台湾。ジェンダー平等が非常に進んでおり、2019年にアジアで初の同性婚の合法化もされています。その台湾にいると、私はそのままの私でいていいんだと思わせてくれて、自由な気持ちになり、リラックスできます。

 "開心"という言葉は台湾華語で「楽しい」という意味ですが、まさに"心を開いて"交流し、台湾人の"熱情"(親切)や"貼心"(思いやり)に触れると、心があたたまるのを感じるはずです。 台湾に来たら、今回ご案内したようなマッサージや台湾茶のお店に行き、現地の方となるべく長く触れ合う時間を過ごしていただきたいです。携帯の翻訳機能を使ったり、漢字をメモしながら会話することも可能なので、恥ずかしがらずにコミュニケーションを取って、"開心"の台湾時間を過ごしてください」

川尾朋子さんプロフィール(公式サイトより)
https://kawaotomoko.com/

 「書家。6歳より書を学び、国内外で多数受賞。2004年より祥洲氏に師事。

 古典に向きあう日々の中で、空中での筆の軌跡に着目した呼応シリーズが生まれる。

 近年は、自身が文字の一部となるHITOMOJIシリーズや、英語を縦書きにする二十一世紀連綿シリーズ等を発表し、書の可能性を追求している。

 Rugby World Cup official movie出演、BBC「The Art of Japanese Life」出演、LOEWEコラボレーション、Porsche(ポルシェ) の映像出演、NHK大河ドラマ「八重の桜」のOP映像、JR京都駅「京都」、阪急嵐山駅「嵐山」、TEDxKyotoでのパフォーマンス、Panasonicの巨大ショーウインドウ、寺院の石碑等、活動は多岐に渡る。

 四国大学特認教授 京都在住」

足尚氧生養生館前にて。左から筆者、川尾さん、齊藤貴弘理事

川尾さんの、大自在空間で初めての台湾茶の練習の様子

地元の人たちと一緒に、台北の街の中に入り込めるコミュニケーションの場

 マッサージもお茶も、台湾の生活に自然に浸透していて、台北市内には多くの店がある。観光で来る人もいるが、地元の人も多く通っていて、気楽な交流の場としてコミュニケーションの拠点となっているようだ。川尾さんの案内で夜のマッサージ店と昼の台湾茶の店に行ってみた。

【足尚氧生養生館】

 今回訪れた足尚氧生養生館は、MRT「中山国小」駅近くにある台湾式マッサージ店。さまざまなランクのホテルが点在する中山国小エリアにあり、「インペリアルホテル(華国大飯店)」や「ロッキーホテル(洛碁大飯店)」からは歩いてもすぐ近く。B級グルメが楽しめる「双城街夜市」も目と鼻の先で、食べ歩きの前後にも寄りやすい。

 マッサージはメタ観光推進機構の齊藤貴弘理事と二人で挑戦。足裏マッサージ30分コース。マッサージ用のハーフパンツに着替えて、マッサージチェアに移動し、足湯で10分間ゆっくりと足を温めて血行を良くしてから、足裏マッサージをスタート。健康状態に自信がなく、ドキドキだったが、意外に痛くなく、気持ちの良い揉みほぐしの合間にビシッと来る感じで、他のお客さんも和気藹藹で世間話が盛り上がっていて、照明も明るい店内で、日本で言うと散髪屋さんに来ているような感じだった。

●メタ観光推進機構・齊藤貴弘理事のマッサージ+台北の感想

齊藤理事(左)と筆者

 「台北の街を歩くと、街の人出と活気に圧倒される。昼夜を問わず、人々が街に繰り出し、食べ、語らい、時には立ち止まって交流する。特に屋台文化は、その象徴とも言える存在だ。 台湾の屋台は単なる『外食の場』ではなく、街そのものと一体化している。店先には魚や肉、麺といった食材がずらりと並び、調理場もあえて通りに面して設置されている。日本では厨房が裏手に隠されることが多いが、台湾では料理の過程そのものが公開され、食欲を刺激してくる。香ばしい匂いが漂い、鉄板の上で食材が踊り、鍋を振るう音が響くーそこには、ただ「食べる」という行為を超えた、街全体を巻き込む食文化がある。 そして、台湾の街には「交流の場」も随所に見られる。

 川尾朋子さんにご案内いただいた足裏マッサージもその一例だ。日本のマッサージは静かで落ち着いた空間をイメージしがちだが、台湾のそれはまるで賑やかな溜まり場のよう。施術を受けながら店主や他の客と会話が弾み、帰りがけには他のお客さんからパパイヤを頂いた。どこか街の社交場としての昭和の床屋のような懐かしさすら感じさせる。 台北の屋台や足裏マッサージは、まさに街の生活と文化をそのまま体験できる場であり、観光客として訪れるだけでなく、その場にいること自体が旅になる要素を持っている。

 単に名所を巡るだけでなく、街そのものの構造や人々の営みを観察し、体験することで、より深くその場所を理解する旅のスタイルだ。 台北の街は、食べることも、人と触れ合うことも、すべてがオープンでフレンドリーだ。観光客としてではなく、街の一部として関わることで、よりリアルな台湾の姿が見えてくる」

齊藤貴弘理事のプロフィール(メタ観光推進機構のHPより)

「Field-R法律事務所弁護士 / 一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会代表理事。風営法ダンス営業規制改正をダンス文化推進議員連盟とともに実現。法改正後は、「自民党ナイトタイムエコノミー議員連盟」アドバイザリーボード座長、観光庁「夜間の観光資源活性化に関する協議会」有識者等としてナイトタイムエコノミー政策を牽引。関連著書に「ルールメイキング ―ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論」(学芸出版社)」

●川尾朋子さんの同店へのコメント

「2014年に初めて台湾に来た時、故宮博物院で丸1日過ごしホテルに帰る途中で偶然見つけたマッサージ屋さんが足尚氧生養生館です。それから台湾に来るたびに必ず行って、二拠点生活を始めてからは週1で通うぐらい身近なお店です。

 店長の椰子さんは私を日本の妹と呼んでくださり、従業員の按摩師さんも含めいつもあたたかく迎えてくれます。お店にいくと他のお客さんも含めわいわいと楽しい交流もあり、身体だけでなく心もリフレッシュできて本当にありがたいです。

 夜中の2時まで営業している安心感もあり、私の中で台湾になくてはならない存在になっています。 台湾の足裏マッサージは、最初に10分間足湯をし、その後クリームを使って両足をマッサージします。私は大体30分か60分ですが、常連のお客さんは足裏マッサージだけで90分、120分される方も。マッサージでは足裏の痛い部分が、体のどこに繋がっているかを手元にある図解を見たり、按摩師の方と会話しながらマッサージを受けるのもおすすめです」

足尚氧生養生館外観

所在地:台北市林森北路580号

公式サイト:https://www.facebook.com/FootStillMassageCenter/

【大自在空間】

 「大自在空間」は台北の永康商圏、麗水街にあるお茶専門店で、台湾を代表する東方美人茶に力を入れている。この店は、茶葉の品質にこだわり、新竹や苗栗、全国三大コンテストで評価された優れた東方美人茶を取り揃えている。特に、手作りで丁寧に作られた茶葉を扱っていて、熟練の茶師が手掛けた特等賞クラスのものまでコレクションしている。

 東方美人茶自体は、発酵度が高めの烏龍茶で、大自在空間では、そういう自然のプロセスを大切にした茶葉を選んでいる。お店の雰囲気は、伝統とモダンが混ざった感じで、価格はグレードによって違うが、一般的な東方美人茶が1斤(600g)で数千台湾ドルから、高級なものは1万元を超えることもある中、ここでは幅広い選択肢があって、気軽に試せるものから本格的なものまで楽しめる。

 この日は、メタ観光推進機構の真鍋陸太郎理事、菊地映輝理事と訪れ、貴重な茶葉を試飲させていただいた。台湾茶用の小ぶりな急須である「茶壺」や、茶葉を茶壷などに移す時に利用する「茶則」など、台湾茶器を使って、1煎から2煎と、変化していく香りや味わいを4〜5煎ほど楽しんだ。コンテストで優勝した茶葉もあり、紅茶もあったり、多彩だ。

●メタ観光推進機構の真鍋陸太郎の感想

手前が真鍋理事、奥に筆者、菊地理事

 「大自在空間で台湾茶をいただいた経験は、私にとってまさに目から鱗が落ちる、そんな貴重な機会であった。

 オフィスではエスプレッソマシンでコーヒーを淹れている私。留学生からいただく台湾茶や中国茶も、その適切な淹れ方を知らず、ただただ『もったいないなぁ』と思いながら過ごしていた。それはもう、一種の文化的損失と言っても過言ではないだろう。そんな私にとって、大自在空間での茶体験は単なる飲食体験を超えた、場所と時間が織りなす多層的な体験であった。

 小さな器に注がれた五種類ほどの烏龍茶や紅茶は、台湾の歴史と文化、そして自然環境という複数のレイヤーを一度に味わう機会となった。茶葉の香りをゆっくりと味わうところから始まり、その香気から味わいへと展開していく過程は、台湾という土地の記憶と物語を体感する旅であった。 この体験は、台北初日に訪れたSimple Kaffaでの記憶と鮮やかに共鳴する。左右で口径の異なるカップがコーヒーの香りと口当たりに変化をもたらし、多様な風味を表現するという、そのカフェの哲学。それは茶文化の知識レイヤーと現代のカフェ文化が重なり合う、まさにメタ観光的な体験といってもよい。

 大自在空間に滞在中、店主が清王朝時代の茶器を鑑賞するお茶会へと出向く姿を目にした。これは単なる伝統行事ではなく、歴史と現代の日常が交差する瞬間である。台湾では茶文化が市民の日常に根付いた娯楽として存在していることをその時改めて実感した。

 興味深いことに、その店主は日本の人気漫画「ワンピース」の熱心な愛好家でもあった。ここにもまた、台湾と日本を結ぶ文化レイヤーの重なりを見出すことができ、なんだか心が温かくなった。

 帰国後、大自在空間で習得した台湾茶の淹れ方を実践することで、物理的には日本にいながらも台湾の文化レイヤーを身近に持ち帰る経験をしている。その技術はいまだ発展途上であるが、これまでとは全く違う茶の味わいを通じて、空間を超えた観光体験を日々楽しんでいる。お土産にいただいた2024年産特級紅茶は、さらに技術を磨いた後に、じっくりと賞味することとしよう。

 大自在空間のある台北MRT東門駅周辺地区は、歴史・文化・商業という多様なレイヤーが重なり合う「観光地」である。永康公園を中心に個性的なセレクトショップや雑貨店が立ち並び、複数の茶藝館も点在する。この地区が洗練さと活気を同時に保持している理由の一つとして、通りの適度な幅員があげられる。歩行者天国ではないものの、歩行者が安全に移動できる空間がしっかりと確保されており、自然と歩行者優先となっている。対面の店舗の距離感も心地いい。空間構成と店舗から滲み出る文化的意識が交わるこの風景は、台北の魅力の本質を象徴しているように感じられた」

真鍋陸太郎理事のプロフィール(メタ観光推進機構のHPより)

「東京大学教授。大学総合教育研究センター 教育DX推進部門長 / 大学院担当(工学系研究科都市工学専攻)。専門は、まちづくりと情報、都市計画、住民参加実践、まちづくりDX、教育DX。近年は、東京大学でのキャンパスマネジメントシステム構築にたずさわる他、文京区でのコミュニティアーカイブの利活用ワークショップ「あなたの名所ものがたり」や、大田区大森山王商店街のデジタルサイネージをコミュニティアーカイブの開示装置として活用する「まちまど」などの実践研究を進める。主な著書に、「帝都物語地図カタログ」(編著・非売品)、「コミュニティデザイン学」(分担・共著:東京大学出版会)、「住民主体の都市計画 まちづくりへの役立て方」(編著、学芸出版社)など」

川尾朋子さんの同店へのコメント

 「2022年に台湾との二拠点生活が開始してすぐに出会った台湾茶の大自在さん。茶葉の栽培から製造まで管理されており、特に東方美人茶はお茶の品評会でも数多く受賞されています。

 こちらで初めて東方美人茶をいただき、その美味しさに感動して、台湾茶を習い始めたぐらいです。台北101の101階で茶会を開催したり、台湾茶を淹れる授業を開いたりとイベントも活発にされています。

 販売されているお茶の品質が素晴らしいのは言うまでもなく、徐友富社長はじめ私の台湾茶の先生である張紘慈さん、今回お茶を淹れてくださった王慧梅さんなど従業員の皆さん全員がお茶の知識とお茶を淹れる技術に優れていて、購入前に店内で台湾茶を試飲することもできます。

 私がこちらのお店を好きな理由は、気楽におしゃべりしながら、飲む前の茶葉の香り・お茶を淹れる美しい所作・飲んだ後の茶器の香りまで、本格的な台湾茶を楽しめるところ。偶然お店に居合わせたお客さんとも一緒にお茶をいただくのも、このお店の醍醐味のひとつ。小さな器に入った台湾茶の香りを楽しみながら、お店の方々と明るい雰囲気の中で自分のお気に入りのお茶を見つけてください」

写真左側から川尾さん、筆者、菊地理事

所在地:台北市大安區麗水街16巷1號

公式サイト:https://www.facebook.com/88dazizai/

過去記事アーカイブ

2025年
01月
02月
03月
2024年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2023年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2022年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2021年
01月
02月
03月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2020年
02月
05月
11月
12月
2019年
05月
2018年
03月
2016年
01月
09月
11月
2015年
11月