富士通と横浜国立大学の共同研究、高解像度モデルを大規模並列処理に最適化
“適中率わずか数%”の竜巻予測にブレイクスルー 台風に伴う竜巻を「富岳」で再現
2025年02月13日 10時15分更新
高精度な気象シミュレーターを“大規模並列処理向け”に最適化
もともと富士通は、気象災害の予測だけではなく、「ゼロエミッション材料の発見」や「オーダーメイド医療」といった領域で、イノベーションによる社会課題の解決を推進してきた。
富士通研究所のコンピューティング研究所長である中島耕太氏は、「コンピューティングでイノベーションを起こし続けるには、その領域の専門家とガッツリと組むことが不可欠」と強調する。そこで、日本有数の台風研究者が多数所属する横浜国立大学と「スモールリサーチラボ」を設立し、これまで実現されてこなかった竜巻発生の高精度予測に取り組んできた。
今回、富士通は、気象シミュレーターCReSSを、富岳上で大規模並列処理向けに最適化することで、計算時間を短縮した。台風に伴う竜巻をCReSSで再現するには、広範囲な領域を100m以下の高解像度でシミュレーションして、かつ台風と竜巻という1000倍以上も規模が異なるものを同時計算する必要があった。そのため、水平約600km四方を80mの解像度で、鉛直方向も含めて約30億地点に分解し、風速や風向、雨量などを時刻順に計算・保存する手法をとった。これを実現するために、富岳の計算資源をフル活用する大規模並列処理技術を新たに開発している。
その技術のひとつが、「通信の最適化」だ。富岳のサーバー間のネットワーク構造に適したシミュレーション処理を適切にマッピングすることで、冗長な通信経路を排除した。もうひとつの技術は「ファイルアクセスの最適化」となり、メモリ上のデータ結合によって書き込みコストを削減し、ファイル出力と演算の処理をオーバーラップ実行することでシミュレーション時間を短縮した。
その結果、富岳を8192ノードまで並列実行させても、十分な性能が得られるスケーラビリティを達成。最適化前は、4時間後の予測のためのシミュレーションに、666分を要していたのを、74分にまで短縮して、実時間以上の速度で再現できることを確認している。
さらなる精度の向上の鍵は、富岳をフル活用したアンサンブル予測
実際の実験では、2024年8月に宮崎県などで竜巻の被害をもたらした「台風10号」をシミュレートして、九州東岸で発生した多数の竜巻を再現することに成功した。九州東岸の20km四方の風や雲の動きを可視化して、3Dで竜巻が発生している様子も再現している。
一方で、課題もまだまだ存在する。現状では、竜巻のポテンシャルを予測できるが、時間については数10分から1時間程度、場所については数キロから10キロ程度の誤差が発生する。
また、すべての台風・竜巻を同様に予測できるわけでもない。竜巻が発生する台風を識別すると共に、寒冷前線といった台風以外の現象から発生する竜巻も予測できることが求められる。
ただ、今回の研究では富岳の資源の5%(20分の1)のみを用いており、単一の決定論的予測にとどまっている。今後は、富岳の資源を更に活用して「アンサンブル予測(わずかに異なる複数の予測モデルを用いて気象現象の発生を確率的に捉えること)」をすることで、精度や確率の向上を目指していく。
また、富岳向けに開発した大規模並列処理が可能なCReSSは、2025年3月までに研究コミュニティ向けに公開予定だ。中島氏は、「本成果をより幅広い人に活用してもらい、この領域の研究開発が進むことを目指している。今後はAI技術なども活用することで、精度向上や高速化を進め、台風に伴う突風や大雨を予測するなど、さらなる環境問題の解決を横浜国立大学と取り組んでいきたい」と展望を語った。













