アドビが現地時間10月14日から「Adobe MAX 2024」を開催し、Adobe Creative Cloud全体で100種類以上の新機能を発表した。なかでも生成AI機能「Adobe Firefly」に動画生成機能「Firefly Video Model(ベータ)」を発表したことは注目に値する。Adobe Premier Proでも一部機能が利用可能になる。
Firefly Video Model(ベータ)は、ほかのAdobe Fireflyモデルと同じく商用利用が可能だ。アドビが公開したサンプル映像は短尺だが、画面端まで破綻がなく、一貫性が保たれている。
Adobe Fireflyには用途に応じたモデルのバリエーションがある。画像を生成するイメージモデル、ベクターデータを生成するベクターモデル、デザインを生成するデザインモデル、3Dデータを生成する3Dモデルだ。ここに新たに加わった、第5のラインナップがビデオモデルだ。アドビでは9月12日にモデル自体を発表していたが、Adobe MAX開催をもって正式に導入を発表した。
Firefly Video Model(ベータ)は2つの機能を備える。テキストから動画を生成する機能、画像から動画を生成する機能だ。
1つ目がシンプルにテキストから動画を生成する機能だ。Web版のFirefly(Firefly.Adobe.comでベータ公開する)で利用できる。テキストプロンプトにくわえて、プルダウンメニュー画面からズーム、パン、チルトなどのカメラワークを指定するユーザーインターフェースをもつ。初期はプロンプトは英語のみ対応。
2つ目は1枚の画像から動画を生成する機能だ。動画の始点を指定して、スパークリングウォーターを注いだり、猫を散歩させたり、果物でいっぱいのフルーツボウルを爆発させるような映像を生成できる。コマ撮り風の動画や、モーショングラフィック、物語を補完する映像(Bロール)などの用途を想定している。
1回に生成できる動画は最長5秒で、生成時間は2分以内。炎、煙、ほこり、水などの特殊効果を生成して、既存の映像に重ねるような使い方も想定されている。
AI業界ではいま動画生成競争が激化している。OpenAIがエポックメイキングな動画生成AI「Sora」の技術論文を公開したことに端を発し、先行企業のRunway、中国勢のHailuo AIなどが生成精度を劇的に向上させている。今後、Adobe Premier ProでAPIを通じて様々な動画生成モデルが利用可能になることで、競争がさらに激しくなることも予想される。
ハリウッドを中心にAIと映像業界の関係も整理が進んでいる。映画スタジオのライオンズゲートはRunwayとパートナーシップを結び、映画制作に導入できるAIモデルの開発に向けて自社のカタログを提供した。カリフォルニア州では俳優の同意なしにデジタルクローンを作成することを禁じる法律が制定され、デジタルヒューマンを含めたAIを使用する際の条件が整理されつつある。
Firefly Video Model(ベータ)は、広告や映像などのクリエイティブにAIが普及するきっかけになるだろう。生成AIの活用によって、映像の納期短縮やクオリティーアップなどがはかられ、映像業界の常識が激変することが考えられる。近い将来、AIが使われない映像を探す方が難しくなる可能性もありそうだ。