酸化膜の形成ミスという報道を否定
電圧上昇が動作不安定を引き起こしているが、依然調査中
7月22日には、まずアップデートとして以下の報告があった。また報告では8月中とされつつ、実際にはバージョン0x125というeTVBのバグの修正が行われたマイクロコード版のBIOS配布が7月中に開始されている。
- 返品されたプロセッサーを検証した結果、マイクロコードの問題に起因する電圧上昇が動作不安定を引き起こしていることを確認した(これは6月18日に説明したeTVBのバグ)。これに対応した新マイクロコードを作成して検証中であり、8月中にはマザーボードメーカーを経由して配布予定である。
- 不安定なCPUを保有するユーザーに対して、OEM/ODMから購入したユーザーはそれぞれのOEM/ODMメーカーへ、リテールボックスで購入したユーザーはIntel Customer Supportへそれぞれ連絡してほしい。ちなみにトレーで購入したユーザーへの対応は現在検討中である
8月1日に、インテルはRaptor LakeのK/KS SKUについては保証期間を2年延長することを明らかにした。要するに購入から3年間だった従来の保証期間が5年に伸びた格好である。ただまだトレーで購入したユーザーへの対応は未定であり、また根本原因に関しても報告できる進展はないとしている。
ついでにこの8月1日には、酸化膜の形成に関する噂の否定も行なわれている。これによれば、Raptor Lakeのごく一部の初期ロットに関しては、製造時(2022年末だそうだ)に酸化膜の形成が不十分なロットが存在していたが、このロットは全量回収されており、市場には流れていないとしている。これは一部メディアが、酸化膜の形成ミスが原因ではないか? と報じたことへの対応である。
8月5日には、誤解がないように対応するプロセッサ一覧を示すとともに、保証期間が最大5年になることをあらためて明記している。
「最大」とはなにか? というと、たとえば筆者は2022年10月30日にCore i9-13900KのボックスをAmazonで購入した。従来ではサポート期間は3年で2025年10月29日までであるが、これが2年延びて2027年10月29日までサポートが有効になる。ただもうすでに2024年9月なので、実質3年と2ヵ月弱しかサポート期間がないことになる。
ちなみにトレーで購入したユーザーもこの対象となるが、交換などの申し出はその製品を買った購入店にするように、としている。ただし、もしも交換を受け付けてもらえなかった場合は、Intel Customer Supportで相談に乗るとしており、実質的にはトレーで購入したユーザーもインテルに交換を依頼可能になったと考えていいいだろう。
8月9日は新しいマイクロコードが発表になった。これはなにか? というと、依然として根本原因は不明であるが、返品されてきたCPUを検証の結果、理由は不明ながら最小電圧(Vmin)が大幅に上昇していることが認められているそうで、これが不安定さの直接的な原因の可能性があると判断。そこで、仮に内部的に電圧を1.55V以上にする指示が出た場合でも、その指示を無視して最大電圧を1.55Vに抑えるというパッチである。
なぜVminが勝手に上がるのか? の原因はまだ追究している最中であるが、とりあえず「本当に電圧だけの問題であれば」利用できる電圧を1.55Vに制限することで、急速な劣化を防げる可能性がある。いくつかのアプリケーション(WebXPRT Online HomeworkやPugetBench GPU Effects Scoreなど)では、このマイクロコードを適用することで性能に違いが出たそうなので、一応ちゃんと仕事していることは間違いない。すでにこのマイクロコードはマザーボードメーカー経由で配布が始まっている。
ただこれも電圧上昇だけが問題なのかがまだ判断できない状態だし、すでに不安定状態になったプロセッサーの電圧を今さら抑えても問題が解決するわけではない。したがって、あくまでも「不安定症状が発生していないプロセッサーに対する予防的緩和策」という位置づけである。
この原稿を書いている現在でも、まだアップデートはない。ただこのまま放置すると、「Raptor Lakeだけではなく、今後出てくるプロセッサーにも影響あるのでは?」という不安が生まれることになる。これを打ち消すためか、8月30日には以下の投稿をしている。
- Arrow LakeおよびLunar Lakeには、このVminがシフトする問題はないことを確認した。インテルは今後投入されるプロセッサーも、この問題から保護されるようにする予定である。
- 8月5日に示された一覧製品以外のプロセッサーに、このVminシフトの問題は発生していないことも確認した。
というあたりが現状である。なんというか、まだ根本的な原因が掴めていないのがもどかしく不安ではある。半年かけてまだ原因が掴めていない、というのはいろいろ問題がある気もするのだが。
ではユーザーはどう対処すべきか? RMA(Return Merchandise Authorization)、要するに交換が効くのはあくまで動作がおかしくなった、あるいは動作しないプロセッサーであって、「Raptor LakeのK/KS SKUを持ってるけどまだ正常に動いてる」ユーザー(筆者もその一人だ)がRMAを申請することはできない。
だから壊れるまで使い続けるしかないのだが、1台しかマシンがないユーザーが壊れたら申請ができない(さらに交換を待ってる間PCが使えない)という問題がある。1つの案は複数台のマシンを持っておくこと(筆者はこのパターン)であるが、もう1つは今のうちに安価な代替品を用意しておくことだろう。Alder Lake以降のCPUならなんでもいいわけで、9月1日時点でのAmazonではCore i3-12100Fの1万3980円が最安値のLGA1700対応CPUである。
以前に比べて少し価格が上がった(以前は1万円切りのCPUが多数あった)のは致し方ないところ。このあたりをスペアとして用意しておいて、問題が出たらスペアに交換したのちにRMAを申請して新品に交換してもらう、というあたりが自作ユーザー向けの現実的な対処法だろう。
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