ジャパンディスプレイ(JDI)が、次世代OLEDである「eLEAP」の事業をいよいよ本格化させる。
ジャパンディスプレイのスコット・キャロン会長 CEOは「JDIにとって文字通り将来を担うのが次世代OLEDのeLEAPである。世界初、世界一となる唯一無二の技術であり、競合他社とテクノロジーの差別化ができ、業績回復の根本的な解決策になる。eLEAPが今後の飛躍的な成長を牽引することになる」と語る。
eLEAFは、JDIが確立した設計ノウハウやプロセスノウハウを駆使。従来のOLEDで用いられていたメタルマスク(FMM蒸着方式)による製造ではなく、マスクレス蒸着とフォトリソ方式を組み合わせた生産方法を採用しているのが特徴だ。生産コストを30%削減できるメリットがあるほか、従来のOLEDに比べて約2倍の高輝度を達成しながら、3倍の長寿命を実現。薄型、軽量、高コントラスト、高速応答などの特徴を持つ。
「JDIでは、OLEDに関する特許を5000件以上、さらにeLEAPに関する特許を500件以上も有している。また、2023年7月には、JOLEDに在籍していたOLEDのエンジニアを迎え入れ、リソースを強化している」とし、eLEAPの事業拡大において、テクノロジー面での強みが発揮できることを強調する。
2023年7月から、eLEAPの 14型の 試作品をサンプル提供してきたが、2024年4月には、ノートPC向けの14型eLEAPを発表。既存 OLEDと比べて約 3 倍となる 1600 nits のピーク輝度を達成し、高いコストパフォーマンスを実現している。
今回発表したeLEAPは、コストを抑えたシングル構造を採用しているが、同社では、タンデム構造を採用した場合には、3000 nits 以上の超高輝度を実現できることも発表しており、より豊かな輝度表現力によって、超リアルな視覚体験が可能になるという。
また、車載分野においても、eLEAPによる新規開発技術や高付加価値製品の新規商談が活発化しはじめていることに言及したほか、これまで収益性が低いために事業縮小を進めてきたスマートフォン向けディスプレイ事業への再参入を検討していることを明かす。
千葉県の茂原工場に第6世代量産ライン、地産地消戦略
生産体制の強化にも余念がない。
同社の基幹工場である千葉県茂原市の茂原工場の第6世代量産ラインへの設備投資を行っており、2023年10月から、eLEAPの試作生産を開始。現在の歩留まり率は60%以上の水準となり、社内計画を上回るペースで進捗しているという。2024年12月には、量産を開始する予定であり、その時点では、歩留まり率を90%以上にまで高める計画だ。
キャロン会長 CEO は、「いよいよ悲願の量産を開始することができる。2024年度は、eLEAP元年になる」と宣言する。
さらに、中国の安徽省蕪湖市とは、eLEAP事業の立ち上げに関してMOUを締結。ここでは、eLEAPの生産能力を50倍以上に拡大するための協議が進められており、2026年度から量産が開始される予定だ。また、インドにおいては、複数の有力企業と技術支援に対する協議を開始したり、共同事業の参画に対する引き合いがあり、eLEAP向け工場の建設に関する具体的な話し合いも進んでいるという。
これにより、中国およびインドにおける「地産地消」でのeLEAP生産体制が構築されることになる。
2024年度下期からは、eLEAPの技術ライセンス収入も計上する予定で、今後の成長に向けた基盤を着実に固めている。
有機ELの需要は以前より高まっている
eLEAFの成長において、見逃せないトレンドが、OLEDに対するニーズが高まっていることだ。
キャロン会長 CEOは、「これからは、OLEDが、世界のディスプレイ市場を席巻すると見ている」と、今後の市場動向を予測する。
その自信の裏づけは、ディスプレイを採用するメーカー各社の動向だ。
「スマホ、車載、PCといったメーカー各社の商品ロードマップを見せてもらうと、今後のディスプレイソリューションとして、液晶に代わって、OLEDを採用する動きが加速することがわかる。MicroLEDやMicroOLEDも注目はされているが、克服できていない課題がある。歩留まりが悪く、コストも高い。それらの課題をOLEDは解決している」と自信をみせる。
バックライトを要する液晶に対し、OLEDは自発光の有機素子を利用しており、高い視認性を実現できるほか、色鮮やかな色相や超高視野角、高い動画視認性、黒表現の深さといった特徴を持つ。また、薄くて、軽くて、省エネであることや、フレキシブルで自由な成形が可能な点もメリットだ。そして、OLEDにはエコシステムがすでに構築されており、MicroLEDやMicroOLEDに比べて、規模の経済性が働く点も強調した。
もちろんOLEDにも弱点はある。それは、液晶に比べて寿命が短いことと、高コストであるという点だ。
だが、キャロン会長 CEOは、「JDIが10年以上をかけて開発してきたeLEAPは、OLEDの完成版である。OLEDが持つ2つの課題を解決できる」と語る。
先に触れたように、eLEAPは、一般的なOLEDに比べて 3倍の長寿命と、30%の生産コストの削減を実現する。
OLEDに需要がシフトするなかで、OLEDが持つ課題を解決できるeLEAPの成長機会は大きいというわけだ。
一方でJDIはあいかわらずの赤字
JDIは、依然として赤字から抜け出せてはいない。
2023年度(2023年4月~2024年3月)連結業績は、売上高は前年比11.7%減の2391億円の減収。EBITDA、営業利益、当期純利益も赤字だ。また、2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績見通しは、売上高は前年比7.3%減の2218億円とし、EBITDA、営業利益、当期純利益のいずれも赤字の見通しである。
「JDIは、連続で赤字が続いている。恥ずかしい。あってはならない。1日も早く赤字からの脱却を図らなくてはならない」と語る。
だが、ここでは大胆な構造改革を進めている。
収益性が悪く、ノンコア事業とするスマートフォン向けの液晶事業は、戦略的に事業を縮小しており、2023年度の売上高は前年比57%減と半減以下に絞り込んだ。
また、車載分野における不採算製品からの撤退および縮小にも取り組んでおり、「筋肉質化に向けた徹底的な固定費削減と、事業生産性向上により、損益分岐点が低下している」と成果を示す。
一方で、コア事業とする「車載」、「スマートウォッチ・VR等」の合計売上高は前年比6%増と増収。さらに、OLEDの売上高は前期比74%増の大幅な増加を達成しており、現在の工場稼働率は100%だという。さらに、2024年度下期からは、全社EBITDAでの黒字化を見込んでいる。
キャロン会長CEOは、「JDIは、いまは負け組である。ソニー、東芝、日立の技術が集まって設立した会社であるからには勝たないといけない。eLEAP によって、これまでオフだったスイッチをオンにし、世界一のディスプレイ技術を持つ会社になれる。有言実行で実績をつくる」と意気込む
「eLEAP 元年」によって、いよいよJDIの巻き返しが始まる。長いトンネルの先の明るい兆しが見えてきたようだ。
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