生成AI/GPUサーバー向けエリアを設置、「グリーン」「コネクティビティ」の需要にも対応
NEC、神奈川と神戸でグリーンデータセンター新棟を開設 ― 写真で見る
2024年05月15日 12時55分更新
NECは2024年5月から、神奈川県にある「NEC神奈川データセンター 二期棟」と、兵庫県にある「NEC神戸データセンター 三期棟」を開設し、サービス提供を開始した(以下、データセンターは「DC」と略記)。
NECでは、2つの新棟にそれぞれ200億円規模の投資を行っている。GPUサーバーなどコンピューターの高集積化による高排熱に対応可能なサーバールームの設計を実現し、生成AIをはじめとする次世代テクノロジーへの対応を強化。また、100%再生可能エネルギーの使用を通じて、顧客のESG経営を支援する。
2014年に開設し、約3000ラックを収納するNEC神奈川DC一期棟は、すでに200社以上が利用。「1部屋や2部屋を大きく提供する余力がないところまで埋まっている」(NEC)という状況だ。同様に、NEC神戸DC二期棟も順調に利用が進んでいるという。デーセンターに対する旺盛な需要が、今回の新棟稼働につながっている。
NEC Corporate SVP 兼 クラウド・マネージドサービス事業部門長の繁沢優香氏は、「グリーンやセキュリティ、AI対応といった観点で、DCに対する需要が高まっていることから、それらに対応する新たなDCを開設した」と説明した。
コアデータセンターとして企業や自治体などに提供、「高負荷対応エリア」も
NECでは、顧客ニーズにあわせて「クラウドHub DC」「コアDC」「地域DC」の3つのDCを整備している。今回の2つのDCは「コアDC」に位置づけられるもので、リテール分野を中心としたデータセンターサービスを提供する。企業や自治体、医療分野などへの提供のほか、クラウド事業者やECサイトなどの大規模ユーザーにも、安全安心な環境を提供するのが特徴となる。
新設されたNEC神奈川DC二期棟は、地上6階建で、約1500ラックを収容。約8000kWの電力容量、ラックあたり1500kgの床荷重に対応する。天井高は3000mmで、供給電力は平均8kVAのラックを用意しているが、これから需要増加が見込まれる高集積、高負荷なGPUサーバーの導入にも対応できるように、最大実効20kW/天井高3500mmのラック設置が可能なサーバールームも用意されている。同時に冷却装置を強化し、ラックレイアウトのカスタマイズも可能にしており、高排熱への対応を図っている。
NEC神戸DC三期棟は、地上7階建で、約1700ラックを収納し、電力容量は約1万1000kWとなっている。床荷重や天井高の仕様は神奈川DC二期棟と同じで、GPUサーバー対応の電力供給、高負荷対応エリアの構築も可能。
先行商談においては、GPUサーバーなどに対応する高負荷対応エリアへの引き合いがかなり多いという。
「生成AIの広がりなどによって、求められる演算能力は指数関数的に増加している。それに伴い、GPUサーバーの高性能化や高集積化が進み、高い排熱がDCの課題になっている。新棟では、最大実効20kWのラック設置に対応するとともに、3~5年後を見据えたさらなる高集積化に対応するために、NVIDIAやサーバーベンダーとも同期していく必要がある。それにあわせて、水冷式なども検討していくことになる。今後は、高負荷対応の専用エリアの設定も含めて、実証や検討を行っていくことになる」(NEC クラウド・マネージドサービス事業部門データセンターサービス統括部 シニアディレクターの伊藤誠啓氏)
安心・安全:物理セキュリティ、電力供給、災害対策など
新設された2つのDCは、「安全・安心」「効率・グリーン」「コネクティビティ」の3点に特徴がある。
「安全・安心」では、JDCCファシリティスタンダードのティア4に相当する堅牢な環境を実現したほか、同DCから提供する「NEC Cloud IaaS」がISMAPにも登録されていることを紹介。また物理セキュリティについては、入館カードや顔認証などによる7段階の厳格なセキュリティチェックを実施。同時に、利便性の向上に取り組むため、入館登録には運転免許証を用いたセルフチェックイン方式を用いている。
電力は、電力会社から2系統で受電し、冗長構成のUPSを経由してラックまで2系統で配電する仕組みを採用。このUPSは空調システムへの電力供給もカバーしている。また、UPSからの電力供給中に起動する非常用発電機は、無給油で72時間の連続運転が可能になっている。
建物には、制震ダンパー、すべり支承、積層ゴムという3種類の免震デバイスを用いた免震構造が採用されており、震度6強の地震に対しても影響を抑えることができる。
加えて、立地環境は自治体の被害想定区域から外れており、地震、洪水、液状化などに対する十分な安全性を確保しているという。
たとえばNEC神奈川DCは、新宿駅から約1時間という距離にあるが、活断層からは14km以上離れており地震による被害の影響がないこと、海岸からは約30km離れ標高130メートル以上の高台にあること、付近の河川からも30メートルの標高差があるという。NEC神戸DCでは、活断層から7km以上、海岸から9km以上離れた場所に立地。海抜100メートルの高さにあるという。大阪駅から約1時間という地の利の良さもある。
効率・グリーン:pPUE 1.16の省エネ性能を実現、100%再エネを利用
次の「効率・グリーン」では、100%再生可能エネルギーを利用するグリーンDCとして設計。国内商用DCとしては最高クラスとなる「pPUE 1.16」の省エネ性能を実現しているという。高温冷水、自然エネルギーによるクーリングの導入のほか、LED照明の採用、太陽光発電の利用、中央熱源冷却方式の導入、最適空調設計の活用などにより、DCが利用する電力を削減していると説明した。
またグリーンについては、ユーザーへの証書再販による非化石価値の提供も行う。具体的には、JEPXの非化石証書(残高証明書)をユーザー名義で発行する「証明書発行サービス」を提供。ユーザーはこの証書を、各イニシアティブや関係省庁などへの報告に活用できる。また新たなサービスとして、検定付電力量計を用いてラック内機器の消費電力量を計測し、ユーザーに毎月報告する「電力量計測サービス」も提供する。
「NEC神奈川データセンターの利用企業のうち、RE100への参加をはじめとした脱炭素を表明している企業は64%に達しており、こうした強い要請に応えることができる。今後は、生グリーン電力の活用による電力の質的向上も図る」
サーバールームの冷却では、天井からの冷気吹き降ろし方式を採用している。ラックを経由してホットアイルに排出された暖気は、壁面の吸気口から隣接する空調機械室に設置された大型ドライコイルに吸い込んで冷却し、コールドアイルの天井に循環するかたちだ。
なおサーバールームの空調には、冷たい外気を利用することで消費電力を抑制するフリークーリングチラーで冷却した水を用いる。20℃という高温冷水に対応することで、省エネ化とともに、フリークーリングで稼働できる期間を長期化できるメリットもあるとした。
3つめの「コネクティビティ」では、AWSやAzureをはじめとするパブリッククラウドとの閉域接続サービスを提供する。さまざまなクラウドサービスとのシステム連携を可能にしているほか、NECのクラウド基盤サービスであるNEC Cloud IaaSと光ファイバーで構内接続も可能になっている。さらにNECの各データセンターとも、データセンター間ネットワークを通じて接続しており、災害対策や事業継続環境を強固に実現できると説明した。
「お客様のなかには、パブリッククラウドではなく、信頼できるデータセンターを活用したいというニーズも多く、オンプレミス(ハウジング)回帰という動きもある。NEC Digital Platform により、データセンターサービスの提供とクラウドサービスの提供、SIや運用までを含めたトータルサポートを通じて、ハイブリッドクラウドの提案を加速し、そこに新たなデータンターが提供する安心やグリーンの強みを生かしていく」(繁沢氏)