Windowsでの普及が進まなかったところに
より安価なUSB 2.0が登場
ただこうしたマーケティングの努力は残念ながら実らなかった。1つ目の理由はUSB 2.0の登場である。2000年4月に発表されたUSB 2.0は480Mbpsの帯域を持っており、IEEE 1394/1394aと帯域でそう遜色はない。
厳密に言えば双方向400MbpsのIEEE 1394/1394aの方が実効性能では上だが、その差が明確にわかるほどの転送をする機会は当時そう多くなかった。USBの方もClass Driverの充実などもあって、使い勝手はむしろIEEE 1394より良い場合もあった。
2つ目が価格である。USBも一応製品をUSB-IFに登録するのにコストは必要だが、それは1回だけであって、ライセンス料はかからない。対してIEEE 1394では特許使用料が必要で、それを複数の企業に対して支払う必要があった。
さすがにこれは1394 TAの方でも問題視し、最終的に1システムあたり25セント程度の使用量を一括で支払えば良いことに落ち着いた(一時期は1システムあたり1ドルという報道もあった)。支払の方も、ソニー/Apple/COMPAQ/Philips/東芝/Panasonic/STMicroelectronicsの7社が共同で一括して特許を許諾する体制が整った。これはMPEGの特許を一括して供与するMPEG LAが、1999年11月に新しい1394 LAというライセンスプログラムを立ち上げて実施している。ただそれでも明確にUSB 2.0よりは高コストにつく。
3つ目がマイクロソフトとインテルである。ASYMCOが2012年に出した、1984~2004年のMacintoshとWindowsの出荷台数の比率を見ると、2000年頃はだいたい28倍程度である。つまりMacintoshのシェアはパソコン全体の中で約3.5%でしかない。
Appleが率先してSCSIを廃して全面的にIEEE 1394に移行したとはいえ、それは市場全体ではほんのわずかだ。したがってIEEE 1394の普及には圧倒的なシェアを誇っていたインテルの協力が必要だし、そのインテルのマシンで動くのはWindowsである以上、マイクロソフトの協力も当然不可欠である。なのだが、両社ともにIEEE 1394には冷淡だった。
もともとインテルは1994年にIntel 440BX+PIIX4Eというチップセットをリリースしているが、このサウスブリッジのPIIX4EにIEEE 1394aのコントローラーを搭載したバージョンを後追いで出す計画を立てていた。
ところがこのIEEE 1394aのコントローラー搭載サウスブリッジはまずIntel 820世代に後退。実際にはICHの拡張版で対応するという話になり、そのIntel 820がDirect RDRAMに絡むトラブルで二転三転している間にICHにIEEE 1394aを搭載する話がどこかに消えてしまった。
インテルのこの当時のマザーボードでIEEE 1394ポートを搭載する製品は、TIのコントローラーをマザーボード上に搭載して対応していた。当然これは高コストになるわけで、高価格のハイエンドマザーボードには搭載されていても、普及帯向けでは実装されないものが多かった。
マイクロソフトは? というと「中立」で、USB 2.0とIEEE 1394のどちらもサポートする意思を示し、Windows 2000ではIEEE 1394デバイスからのブートや、IEEE 1394ベースのプリンター/スキャナーのドライバーサポートも追加されたが、これはUSB 2.0に対しても同様であって、つまり使い勝手で言えばUSB 2.0とまったく差がないことになる。
この状況はIEEE 1394bの出現で変わるか? と思われたのだが、昨今のSSDが普及している現状ではともかく、当時のHDDでは800Mbpsの帯域は使いきれなかった。もっと言うなら、Windowsマシンでは、まだ広くSCSIも使われていた。というより、特に高速なHDDはSCSI接続なことも多かった。
Macintoshではそもそも本体からSCSI I/Fが削除されたので、否応なくIEEE 1394に移行せざるをえなかったが、Windowsマシンでは別にそんなこともない。こうなってくると、IEEE 1394に移行すべき理由が見当たらないことになる。
Appleはこの後も引き続きIEEE 1394を搭載し続けたものの、2008年のMacBookでついにIEEE 1394ポートの搭載をやめる。Early 2008モデルにはあった「FireWire 400ポート1基(最大400Mbps)」の文字が、Late 2008モデルでは消えている。Appleはこの時期にIEEE 1394に見切りをつけ、Thunderboltの開発をインテルと共同でスタートしている。
IEEE 1394がうまく行かなかった最大の理由は、インテルを開発当初から巻き込まなかった(巻き込めなかった)ことだとApple(というか、Steve Jobs)は考え、その反省からThunderboltはインテルを巻き込む形で開発を進めた、というのは邪推だろうか?
Appleの製品からもIEEE 1394搭載モデルが次第に減っていくことで、市場も縮小の一途を辿った。まだ市場ではIEEE 1394aのI/Fカードやケーブルを購入できるが、肝心の周辺機器の方がもう新品はほとんど売られていない。
古いIEEE 1394機器を使いたい場合には利用できるが、新規製品はもうUSB 3.0やThunderboltなどに移行してしまっていることを考えると、消えたI/Fとしてしまって差し支えないだろう。
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