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覚醒プロジェクト

「覚醒プロジェクト」PMに聞く

「自由な発想で生命工学フロンティアに挑戦を」覚醒PM・NEDO客員フェローの湯元 昇氏

2024年04月30日 11時00分更新

文● 島田祥輔

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国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)による若手ディープテック研究者を支援するプロジェクト覚醒プロジェクトが、2024年度の研究実施者を募集している。学士取得から15年以内の若手研究者を対象に独創的な研究開発テーマを募集し、採択された研究者には300万円の支援や産総研の最先端設備、プロジェクトマネージャー(PM)による伴走などが提供される。応募は5月7日まで、同プロジェクトの公式サイトで受付中だ。
新設の「生命工学」分野でPMを務める国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)客員フェローの湯元 昇氏に、昨今のトレンドや応募者への期待について聞いた。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 客員フェロー
湯元 昇氏

1978年、京都大学理学部卒業。1983年、同大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了(理学博士)。学振・奨励研究員、JST-ERATO・研究員、京大・助手を経て1992年大阪工業技術試験所(現産総研)入所。産総研で、研究部門長、理事、フェローなどを経て2016年に国立循環器病研究センター・特任部長。同センター・オープンイノベーションセンター長、大阪大学大学院薬学研究科 特任教授を歴任。バイオインダストリー協会・評議員などを兼務。専門はバイオサイエンス、バイオテクノロジーで、酵素化学、蛋白質科学、神経科学、ペプチド工学、ナノバイオ工学など多様な分野で研究を実施。

生物の力を借りたものづくりや社会の実現に向けて

――今回の「覚醒」プロジェクトでは新たに「生命工学」が募集分野に加わりました。生命工学における昨今のトレンドについて教えていただけますか。

湯元 ゲノム編集に代表される遺伝子改変技術が発展したことで、遺伝子改変した微生物や細胞を使って物質を生産するバイオものづくりが盛んになっています。企業も、今後は石油資源に依存しない社会になることを見据えて産学連携が進んでいます。こうした取り組みの先にあるのが、循環型社会の形成に大きく貢献すると期待されている「バイオエコノミー」です。

――バイオエコノミーとは何でしょうか。

湯元 バイオエコノミーとは、バイオテクノロジーや、バイオマスとよばれる再生可能な生物資源を利活用して、持続的で再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させる概念のことです。具体的には、生分解性プラスチックやバイオ燃料の普及などが挙げられます。

 バイオエコノミーは2009年に経済協力開発機構(OECD)によって提唱され、当時は私もレポートの作成に関わりました。その後、欧米ではOECDのレポートに基づいて各国で独自のバイオエコノミー戦略が立てられてきました。

 日本でも、内閣府のバイオ戦略の中で「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標に掲げています。グリーンイノベーション基金のようにバイオエコノミーを推進する国のプロジェクトや、それに伴う大型予算が組まれています。

内閣府は2019年に「バイオ戦略」を発表し、バイオエコノミー社会を推進している(出所:内閣府

――湯元先生ご自身はこれまでどのような研究をされてきたのでしょうか。

湯元 生体内分子であるタンパク質やペプチドの構造について研究をしていました。酵素や受容体などのタンパク質や、タンパク質よりも小さいペプチドがどのような構造に基づいて機能を発揮しているのか、あるいはどのように構造を変えれば機能が上がるか、といった研究をしていました。

 特に、産総研が発足した2001年以降は、分野の垣根を超えた融合分野の研究を推進し、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーを融合したナノバイオ分野の研究を行ってきました。

 例えば、生物の特徴の一つに自己組織化があります。タンパク質は、私たちが動かさなくても自然に別の分子と結合して反応が起きます。ナノテクノロジーにおいても、生物がもつ自己組織化の性質を活かして自然とモノが組み上がるようなシステムができるのではないと考えています。

 工学とは、目的に合うものを自在に作ることです。タンパク質の構造を変えて好きなものを作ることは、バイオエコノミーやバイオものづくりで求められていることです。

自由な発想を研究者ネットワークで支援したい

――今回の「覚醒」プロジェクトの意義について、先生の考えをお聞かせください。

湯元 応募条件に大学院生の博士課程前期(修士課程)と博士後期課程(博士課程)が含まれている点が、若手支援という意味でとてもよいと思います。

 大学の研究室に所属していると、その研究室でやっていることしか見ることができません。しかし、「覚醒」プロジェクトに採用されれば、PMや他の採択者と交流でき、研究の取り組み方にはさまざまなアプローチがあることを学べます。

 私自身も、大学では理学部で博士号を取得して、その後医学部の方とプロジェクトを進めることがありましたが、同じバイオについても理学部の視点と医学部の視点とでは全然違うことに気づきました。違う視点で自分の研究を見るということを、「覚醒」プロジェクトの研究実施者にも経験してほしいと思います。それがおもしろい研究につながっていくと思います。

――そうした経験が、生命工学やバイオエコノミーの発展にもつながるのでしょうか。

湯元 そう思います。私は産総研や国立循環器病研究センターといった研究機関での経験が長く、そこでは基本的に学生の教育や指導はしないので、大学よりも効率よく研究が進みます。ただ、どうしてもプロジェクトの成功確率を考えがちで、成功確率が低いチャレンジングな研究や、融合分野のように成功確率が読めない研究には手を出しにくい傾向があります。

 その一方で、大学で研究を始めたばかりの学生の自由な発想に驚かされることがあります。自由な発想をもつ若手研究者を支援して育成することは、バイオエコノミーの発展にも極めて重要であると思います。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 客員フェロー 湯元 昇氏(インタビューはオンラインで実施した)

――湯元先生はPMとして若手研究者をどのように支援したいと考えていますか。

湯元 自由な発想があっても、それをどう実現するか、どうゴールに向かうかは、やはり若い人にとっては難しい問題です。そこをPMとして特に支援したいと考えています。

 私はこれまで、京都大学、神戸大学、大阪大学などで研究し、産総研、国立循環器病研究センター、JST(科学技術振興機構)のプロジェクトなどでも研究や研究管理を経験してきました。この間に培った幅広い研究者のネットワークを活用して、覚醒の研究実施者を支援したい。先ほどのナノバイオ分野であれば、ナノテクノロジー研究とタンパク質研究をしている人たち同士をつなげるということです。

――研究者のネットワーク構築がやはり重要なポイントになってきますね。

湯元 現代のように技術革新が目覚ましい時代では、他分野で進んでいる技術を取り入れて生命現象を解明したり利用したりすることが増えています。一つの分野にこだわるのではなく、ネットワークで研究の課題を解決できることが多くあると思います。

 特に産総研ではさまざまな分野の研究者が集まっているので、今の研究室ではできないことや思いつかないような研究のヒントが得られるということも十分考えられます。

――最後に、「覚醒」への応募を検討している方々にメッセージをお願いします。

湯元 生命工学領域は、PCR、モノクローナル抗体、iPS細胞、ゲノム編集など、さまざまな技術革新によって爆発的に発展しました。しかし、生命現象にはまだ未知の領域が多く残されており、このフロンティアに果敢に挑戦する若手研究者が応募してくれることを期待しています。

 「覚醒」プロジェクトの研究実施期間は9カ月と決して長くはないのですが、これを一つの足掛かりとして、自分の研究アイデアが実現に向かっていくことを実感してほしいと思います。

覚醒プロジェクト募集概要

応募締切:2024年5⽉7⽇(火)12:00
応募対象:
大学院生、社会人(大学や研究機関、企業等に所属していること)
※2024年4月1日時点で、学士取得後15年以内であること。
対象領域:
・AI
・生命工学
・材料・化学
・量子
研究実施期間:
2024年7月1日(月)〜2025年3月31日(金) ※9カ月間
支援内容:
・1研究テーマあたり300万円の事業費(給与+研究費)を支援
・AI橋渡しクラウド(AI Bridging Cloud Infrastructure, ABCI)やマテリアル・プロセスイノベーション プラットフォーム(Materials Process Innovation, MPIプラットフォーム)などの産総研保有の最先端研究施設を無償利用
・トップレベルの研究者であるプロジェクトマネージャー(PM)による指導・助言
・事業終了後もPMや参加者による情報交換の場(アラムナイネットワーク)への参加

応募・詳細:
覚醒プロジェクト公式サイト

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