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難治性がん治療で期待も、超高額なCAR-T療法を安くする方法

2024年04月17日 10時34分更新

文● Cassandra Willyard

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STEVE GSCHMEISSNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY

画像クレジット:STEVE GSCHMEISSNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY

米国食品医薬品局(FDA)は難治性がんの治療法として期待されているCAR-T療法を2次治療として承認し、最初の再発後に使えるようにした。課題は超高額な費用。CAR-T療法の費用を抑える方法はないのだろうか。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

がんと闘うために患者自身の細胞を操作して作り出される「CAR-T」療法は、通常、他の治療法を使い尽くした人々の最後の選択肢となっている。しかし4月5日、米国食品医薬品局(FDA)は多発性骨髄腫のためのCAR-T製品である「カービクティ(Carvykti)」を2次治療として承認した。それにより、患者は最初の再発後にカービクティでの治療資格を得ることになる。

今回のFDAの承認により、米国の一部の多発性骨髄腫患者がCAR-Tを早期に利用できるようになる。一方で世界の大多数の患者は、CAR-T療法を全く受けることができないままだ。場合によっては、50万ドルを要する高額な治療法であるためだ。それは、変えられないのだろうか。

ここではCAR-T療法をより安価に、より利用しやすいものにするための取り組みを見ていこう。

CAR-Tが高価な理由は容易に想像できる。その治療法の開発には、多段階のプロセスが存在する。まず、医師が患者からT細胞(リンパ球の一種)を採取する。次に、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor、CAR)をコードする人工遺伝子をウイルスベクターに組み込み、採取したT細胞に体外操作で加える。この受容体は、T細胞ががん細胞を識別して破壊するためのフラグを立てることを可能にする。こうして作られたCAR-T細胞はその後、数百万個になるまで研究室で培養される。その間に患者は化学療法を受け、CAR-T細胞を受け入れられるように、体に残っているT細胞をすべて破壊しなければならない。次に、CAR-T細胞を患者の体内へと戻すと、体内でがんに攻撃する生きた抗がん剤となる。ハイテクかつ手間のかかるプロセスである。

米国では、CAR-Tは大金を生む。その治療費は30万ドルから60万ドルに設定されている。しかし、入院時間や副作用への対処に必要なケアなど実際の費用を見積もると、場合によっては総額100万ドル以上になるという試算もある。

費用を抑えるためのひとつの方法として、医薬品の開発と製造が大幅に安価な国で、治療に用いるCAR-T細胞を作り出すことがあげられる。インドは、初の国産CAR-T療法となる「ネックスカー(NexCAR)19」を3月に承認した。生産に取り組んだのは、ムンバイを拠点とする小規模バイオテック企業のイミュノアクト(ImmunoACT)である。インド製CAR-T療法にかかる費用は3万ドルから5万ドルで、米国製品価格のおよそ10分の1だ。コロラド大学アンシュッツ・メディカルキャンパスで小児血液専門医として勤務するテリー・フライは、「CAR-T細胞の製造費用について、米国のような場所であっても検討する必要があると考えさせられます」と述べている。

費用が低いのは、さまざまな要因による。薬の開発と試験が実施され、現在では製造地となっているインドでは、労働力が安い。ImmunoACTはまた、製造過程において最も高価な品目のひとつであるウイルスベクターを独自に製造して費用を削減した。

費用を抑えるもうひとつの方法は、治療を実施する医療センターでCAR-T細胞を製造することだ。がんセンターは、患者からT細胞を採取するが、通常、CAR-T細胞をその場で製造することはない。代わりに、細胞の操作や培養のための専用施設を持つ製薬会社へ採取した細胞を送っている。その後、製薬会社からCAR-T細胞が送り返される。しかし、CAR-T細胞を自社で製造すれば(ポイントオブケア製造と呼ばれるモデル)、費用を節約して待ち時間を短縮できる。バルセロナのある病院は、独自のCAR-T療法の製造と試験を実施し、 現在はそれを9万7000ドルで患者に提供している。これは、有名メーカー製の数分の一の値段だ。

ブラジルでは、ワクチンメーカーで中南米最大の生物医学的研究機関であるオズワルドクルズ財団(Oswaldo Cruz Foundation)が最近、国内のCAR-T製造能力の開発を支援するために、米国を拠点とする非営利団体のケアリング・クロス(Caring Cross)と提携した。ケアリング・クロスは、さらに安価にCAR-T治療法を生成できるポイントオブケア製造を展開した。そのおおよその費用は、材料費が2万ドル、そして人件費と設備費が1万ドルだった。

魅力的なモデルである。CAR-Tの需要は供給量を上回ることが多く、待ち時間が長くなっている。スタンフォード大学の小児腫瘍学者クリスタル・マッコール教授は、「バイオテックが作り出す細胞や遺伝子療法へのアクセスが限られていることについて、緊張が高まっています」とスタット(Stat)誌に語った。「『そうですね、患者さんのために私が作ることにしましょうか』と言いたくてたまらなくなります」。

もっとも、こうした治療法でさえ、受けるには数万ドルがかかる。承認されているCAR-T製品が、それぞれ特定の患者に作られるオーダーメイド治療である、ということも理由のひとつだ。しかし、多くの企業がオフ・ザ・シェルフ(棚から取り出してすぐに使える)タイプのCAR-T療法の開発にも取り組んでいる。それは、場合によっては健康なドナーから採取したT細胞を操作するということでもある。  そうした治療法のいくつかは、すでに臨床試験が開始されている。

他の事例では、企業は体内での細胞操作に取り組んでいる。このプロセスが成功すれば、CAR-T療法は、はるかに簡単かつ安価なものになるはずだ。従来のCAR-T療法では、患者は既存のT細胞を破壊するために化学療法を受けなければならない。しかしイン・ビボ(生体内)CAR-T治療では、その段階を省くことができる。また、患者の体外での細胞操作を必要としないために「外来診療所で受けることができます」と生体内CAR-T治療を開発しているキャプスタン・セラピューティクス(Capstan Therapeutics)の最高技術責任者(CTO)、プリヤ・カルマリは言う。「専門のセンターは必要なくなるのです」。

生体内戦略の中には、エクス・ビボ(生体外)戦略と同様にウイルスベクターに依存するものもある。ウモジャ・バイオファーマ(Umoja Biopharma)のプラットフォームでは、ウイルスベクターを使用する。しかし2つ目のテクノロジーも採用して、遺伝子操作された細胞が、ラパマイシン(rapamycin)という薬剤の影響下でも生き残り、増殖するようにしている。昨年の秋、同社は非ヒト霊長類において生体内CAR-T細胞の生成に成功したことを報告した。

キャプスタン・セラピューティクス(Capstan Therapeutics)の研究者は、脂質ナノ粒子を使ってmRNAをT細胞に運ぶという異なる方法を取っている。ウイルスベクターがCAR遺伝子を細胞のDNAに組み込むと、その変化は永続的になる。しかしmRNAを組み込んだ場合、そのCARは限られた時間しか機能しない。「闘いが終わったのに、兵士たちがずっと潜んでいるというのは好ましくないでしょう」とカルマリCTOは言う。

CAR-Tには、征服すべき潜在的な戦場がたっぷりある。CAR-T療法はすでに、血液がん以外でも有望性を示している。研究者らは今年、狼瘡やその他の自己免疫疾患を持つ15人の患者 において驚くべき結果を報告した。CAR-Tについては、固形腫瘍、心臓病、老化、HIV感染症などの治療法としても試験が進んでいる。CAR-T療法を受けられる人の数が増えるにつれて、費用削減の圧力も高まるだろう。

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科学者らは、CAR-T療法の固形腫瘍への応用をようやく前進させようとしている。昨年の秋、 その障壁と進歩について記事にしている。

CAR-Tの開発初期には、本誌のエミリー・マリン編集者(当時)が治療の安全性に疑問を投げかける患者の死亡例を報告した。

同じくエミリー・マリン編集者によるこの記事で時間をさかのぼり、最初のCAR-T療法の承認をめぐって起こった興奮を思いだそう。

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