青い日記帳の推し丸アート 第20回

改修工事期間中なのに今、三菱一号館美術館を訪れた方がいいワケ!

文●中村剛士

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 そういえば最近、三菱一号館美術館の展覧会話題になってないな……それもそのはず、2023年4月10日から休館し、設備入替および建物メンテナンスを行っています。

メンテナンス中の三菱一号館美術館

 三菱一号館美術館が誕生したのは、2010年4月6日のこと。竣工した2009年から数えると建設からおよそ15年も経っているのですから、空調や照明も大規模な改修が必要になる時期です。

 美術館はオフィスビルや一般的な住宅とは違い、作品保護の観点から温度・湿度を一定に保つため、私たちが開館中に絵画を観ている時だけでなく、閉館後の真夜中も常に同じコンディションを保っているのです。

 今回の修繕工事では、美術館に欠かせない空調設備の入替を行い、全館LED照明にするほか、予防保全のために建物メンテナンスが行われています。修繕期間が1年以上にもの長きに及ぶのはそうした理由からなのです。

 しかし1年以上も展覧会が開催できないとなると、アートファンだけでなく、丸の内に訪れる方やお勤めの方も寂しさが心に沁み広がります。三菱一号館美術館は丸の内のランドマーク的な建造物であるのでなおさらです。

丸の内のランドマークともいうべき象徴的な建造物・三菱一号館美術館

 そこで、丸の内の道行く人々やブリックスクエアでお食事する人たちに休館中もアートを楽しんでもらおうと、建物を覆う工事用のメッシュ素材の仮囲いなどを利用し、トゥールーズ=ロートレックの作品に描かれた人物をコラージュした壁画のような囲いが昨年の夏から登場しました。

壁画のような囲いが登場中!

 とても工事中とは思えないほど華やかで賑やかな明るい雰囲気の仮囲い装飾は、三菱一号館美術館が所蔵するロートレックの28作品から、19世紀末のパリの街中で実際に活躍した人物を、グラフィックデザイナーの服部一成氏がコラージュ。まさに正真正銘のアート作品といえます。

【服部一成氏 プロフィール】
東京生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、ライトパブリシティを経てフリーランス。主な仕事に、雑誌『真夜中』、『流行通信』、『here and there』のアートディレクション、「三菱一号館美術館」、「新潟市美術館」、「弘前れんが倉庫美術館」のロゴタイプ、『プチ・ロワイヤル仏和辞典』の装丁、ロックバンド「くるり」のアートワークなど。

 ちなみに服部一成氏は、三菱一号館美術館のロゴマークを手掛けたデザイナーさんです。ロートレック作品を自在にコラージュした高さ14.4m、総面積約1,250㎡におよぶ、大型の仮囲い装飾を観るためにブリックスクエアを訪ねるのも全然ありです!

 しかも、今の季節、木々の葉っぱが落ちているので1年で最もロートレックの仮囲いが一番良く見えます。自分も何度も足を運んでいますが、迫力満点で、写真映えもばっちりです。

何度でも見たくなる、迫力ある囲いです

 また、長期休館を告知するメインビジュアルは、独自のユーモアを交えてポップな世界を描くグラフィックデザイナーの中村至男氏が手掛けています。

右が長期休館告知のメインビジュアル

【中村至男氏プロフィール】
川崎市生まれ。日本大学芸術学部卒業、Sony Music Entertainmentを経てフリーランス。主な仕事に、アートユニット「明和電機」のグラフィックデザイン、PlayStationゲーム「I.Q」(佐藤雅彦氏とのプロジェクト)、「単位展」(21_21 DESIGN SIGHT)のグラフィックデザイン、「私の部屋」のショッピングバッグイラストレーション、など。著書に、絵本『どっとこ どうぶつえん』『はかせのふしぎなプール』『ゆきだ ゆきだ』(以上福音館書店)など。

 丸の内パークビル・丸の内ブリックスクエア街区、丸の内エリア外の駅看板、美術館WEBサイト、SNS告知用に長期休館を告知するメインビジュアルまでわざわざデザイナーさんに依頼するのですから、この場所が三菱にとっていかに大切な場所なのかお分かりでしょう。

 長期休館告知メインビジュアルは、トーンを抑えた色面構成で、三菱一号館美術館の建物のアウトラインを強調し、絶妙なバランスの抜け感と色面で構成されたグラフィックに仕上がっておりとても目を惹きます。

 今年の秋にリニューアルオープンを控える三菱一号館美術館。改修工事期間中の今しかお目にかかれないアートなロートレックの仮囲いを観に丸の内へ出かけましょう! 超期間限定です!!

三菱一号館美術館
2010 年、東京・丸の内に開館。JR 東京駅から徒歩 5 分。
19 世紀後半から 20 世紀前半の近代美術を主題とする企画展を年3回開催。赤煉瓦の建物は、三菱が 1894 年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したもの。復元にあたっては、1894(明治 27)年の三菱一号館竣工時に撮影されたと思われる写真の他、図面、保存部材から、可能な限り忠実な復元を目指した。
公式 WEB サイト: https://mimt.jp/
現在は、2024 年 11 月の再開館に向けて設備入替および建物メンテナンスのため長期休館中。

設備入替および建物メンテナンスの概要
1設備入替
展示作品の環境保全のために、空調設備の入れ替えを行う。三菱一号館美術館の展示室はすでに LED 照明を導入していたが、屋内外各所の照明も LED に変更し、環境負荷低減を促進。またレンガの建物ならではの電波環境の悪さについても改善を目指す。
2建物メンテナンス
復元建物の基本は変更せずに、避雷針や棟飾り等、鉄部の錆や汚れの除去、床材の補修等を行う。また屋根を葺いているスレート石の点検・補修も行う。

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