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遠藤諭のプログラミング+日記 第165回

SKIPシティで Jetson nano搭載のDonkeyCarが走ってる

生成AIも体験して学ぶ「AIのアイ」展がはじまった!

2024年01月23日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所 主席研究員)

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すべての大人も子供も“AI”に触れて考えてみよう

 埼玉県川口市にあるSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアムといえば、「あそぶ!ゲーム展」でご存じの方もおられるはず。そのステージ1(2015年10月~2016年2月)は、ちょうど私も日本科学未来館の「GAME ON」展を共同企画・監修させていただいた頃で、「あそぶ!ゲーム展」が専門家やマニアに評判だったのを覚えている。

 その映像ミュージアムで、「AIのアイ ~AIが見る世界、AIと創る世界~」と題した企画展がはじまっている。2022年4月の「DALL-E2」からはじまり、2023年は「ChartGPT」がビジネス誌がのきなみ特集を組むなど注目を集めた。いまは、それら「生成AI」が、静かにしかし着実に我々の社会や産業に浸透してきているという状況である。

SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザの2階に「AIのアイ」展の入り口がある(展示は3階)。同じ建物にはNHKの「映像公開ライブラリー」など映像に関する複合的な施設になっている。

 建築の設計事務所が、客の要望をChatGPTに与えてStable Diffusionで完成予想図を作り出しているなんて事例は、AIの理想的な使い方の1つである。教育分野では、AIをどのように扱うかが大きなテーマとなっているが、答えは「Speak」のようなアプリですでに示されているようにも見える。壁打ち的な練習や発見のプロセスが明確なものは、AIは、品質を一定以上に保てる。

 生成AIを日常的に使っている人ならお気づきのとおり、自分が分かっている分野ほど生成AIは威力を発揮する。自分が分かっていないと適切なプロンプトを与えられないしデタラメな結果の検証に時間がかかるだけになる。つまり、1勉強すると2得るものがあるのが生成AIなのだといえる。子供が勉強が好きになるゲーミフィケーション的な世界になりうる。

 そんないま、大人だけでなく子供も体験できるAI展は、とてもタイムリーだし意義あることだ。ちなみに、彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアムが会場なので、最先端AIの仕組みの中でも“ビジュアル”に重きをおいた展示になっている。

 ということで、入口を入ってすぐのところに「AIの目、人間の目」というパネル展示がある。「AIの目」と「人間の目」は、どう違うのか? 答えは、生成AIには「生身の身体」というものがない。そしてまた、生成AIには「人生や個人」とうものもない。知り合いや景色が目に映ったとたん記憶や感情が喚起されるような「心の反応」がないのだ。人間では、「見る」ということが、複雑な心や体の反応と関係することがある。

 なんと、視覚という1点から生成AIが現時点でどんなものかが明らかになってしまうのだった。教育におけるAIの取り扱いの境界線もこのあたりにくるはずである。

 「AIのアイ」の展示スペースは、けして広くはないのだが、いま体験しておきたいソフトや知っていたい事柄がそつなく並べられている。自宅でもパソコンやスマートフォンがあれば試せる「ChatGPT」や「Dall-E」だが、体験コーナーでは大人も子供も初めて触れる人が少なくないようだ。動画生成の「Phenaki」などは映像展示、「ディープフェイク」などはパネル解説になっている。人間がイラストを描くゲーム「Quick, Drow」は、ずっと遊んでいる子供がいるほどの人気だ。

お馴染みChatGPTはタブレットで体験できるように工夫されている。記事冒頭の写真にあるコミュニケーションロボット「ユニボ」や「DALL-E」と同じく来場者が繰り返し試していた。

ビジュアル系を中心にさまざまなAI事例が紹介されている。これは、東映ツークン研究所によるグリーンバック不要、マーカー不要のトラッキングによるリアルタイム合成システム「LiveZ studio」。

AIでRCカーを走らせよう! が全面協力

 この「AIのアイ」展に、私が仲間たちとやっている「AIでRCカーを走らせよう!」のコミュニティが協力させてもらっている。展示のいちばん奥のあたり「運転するAI」の1つとして、10✕4.5メートルというかなり大きめの特設コースで、AIカー(模型の自動運転カー=Jetson nano搭載の「DonkeyCar」)のデモンストレーション走行が行われている。

AIカーの係員のいるブースより「AIでRCカーを走らせよう!」のコースを望む。

コースは、内回り、外回りが可能。後で触れるがY字路の一方に通行止めサインを立ててAIカーに判断させる。

 AIカーについては、このコラムでも何度か紹介させていただいてきた。毎年、東京ビッグサイトで開催されるMaker Faire Tokyoでは3回連続でコースを設置して、走行会&デモンストレーションを行ってきた。詳しくは、「ラズパイありNVIDIAあり、Donkeyありタミヤあり、未来のクルマは《オモチャ》なのだ」をご覧のこと。ちなみに、我々のコミュニティ「AIでRCカーを走らせよう!」は、Facebookグループで情報交換を行っている。

 ところで、設置されたコースだが、今回のためにオリジナルで設計して製作・提供させていただいたものだ。いままでは、AIカー用に海外で販売されているものを購入して利用したり、床面はそのままで段ボールやガムテープでコースを作ることがほとんどだった。これは、なかなか画期的なことである。

 また、今回のコースは、オリジナルであるばかりでなく内回り・外回りの2種類の走行ができるようになっている。これは、DonkeyCar用に販売されている公式コースやアマゾンAWSのAIカーであるDeepRacer用のコースでも行われていないものだ。デモ走行では、Y字になった分岐点で一方のルートを通行止めすること内回り・外回りをさせている。通行止めのサインとしては、侵入禁止を示すバーと赤いパイロンを立てる。ディープラーニングで走るDonkeyCarなので、AIを知っている人なら「なるほど」となると思う。

内回りコースを通行止めにして外回りのコースを走らせているところ。DonkeyCarはカメラに映った画像を学習するわけだが、このように通行止めのサインを置いて3~4周走らせるだけで覚えてしまう。

外回りコースを通行止めにして内回りコースを走らせているところ。侵入禁止を示すバーとパイロンでコースをふさいでいる。

 まだ展示は始まったばかりだが、やはり走るものは子どもにも大人たちにも興味を持ってもらえている。デモ走行を見ている人から「AIカーはどうやって自動運転しているのか?」という質問がきたり、興味津々で見ている子供に「AIカーに積まれたコンピューターが任天堂Switchの中身と同じだよ」と説明すると、「そうなのか!」と驚いたりしていた。

株式会社FaBoによるJetson nano版DonkeyCar改。1回の充電で30分程度走行。

子供が見入っている画面はDonkeyCarに搭載のカメラがとらえているコースのようす。

 「AIでRCカーを走らせよう!」としては、AIカーの提供とコースの設計のほか、メンテナンスを可能な範囲でやらせていただく予定だ。デモ走行の運用は「AIのアイ」展で係員の方がやってくれているのだが、土日に限り、「AIでRCカーを走らせよう!」のメンバーが、メンテのかたわら自身のオリジナルのAIカーを走らせているかもしれない。AIカーに興味のある方は、ぜひ「AIのアイ」展、来てみていただきたい。

 AIは、基本的にはとても賢いのだが、ときに自分勝手な行動をとることがある。AIカーも文字通り迷走したり、通行止めのサインに突入することもあるが、それも展示の一環といってもよいのである。しかし、予期せぬ事態になったとしても生き物のようになんらかの反応をする可愛さが、従来のコンピュータープログラムとは違うところだ。AIの肌触りが見えるのがAIカーであり、DonkeyCarである。

 

展覧会名■AIのアイ ~AIが見る世界、AIと創る世界~
会期■2024年1月16日~2024年6月30日
会場■SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
開館時間■9:30~17:00 (入館は16:30まで)
休館日■月曜日(祝日の場合は翌平日)
入館料■大人520円/小中学生260円(常設展も入場可)
主催■埼玉県
後援■埼玉県教育委員会 / 川口市 / 川口市教育委員会
協力■AIでRCカーを走らせよう! / NHKさいたま放送局 / OpenAI / Google / GROOVE X株式会社 / 慶応義塾大学SFC大前研究室\ / 国立研究開発法人産業技術総合研究所 / 埼玉県産業振興公社 / 東映ツークン研究所 / 橋本総業ホールディングス株式会社 / ユニロボット株式会社 / 早稲田大学基幹理工学部表現工学科 尾形哲也研究室(50音順)
企画・制作■デジタルSKIPステーション
公式ページ■https://www.skipcity.jp/event/vm/ai/

 

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。人工知能は、アスキー入社前の1980年代中盤、COBOLのバグを見つけるエキスパートシステム開発に関わりそうになったが、Prologの研修を終えたところで別プロジェクトに異動。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

X(旧Twitter):@hortense667

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