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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第56回

IMART2023実行委員 数土直志氏インタビュー

マンガ・アニメ業界のプロがガチトークするIMART2023の見どころ教えます

2023年11月21日 17時30分更新

文● 渡辺由美子 編集●ASCII/村山剛史

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ファン層が拡大した一方で、技術や歴史を追う人は増えていない

数土 そしてもう1つは『アニメ研究の現在、国内と海外の見取り図』(登壇者:三原龍太郎 文化人類学者、須川亜紀子 横浜国立大学教授、松永伸太朗 長野大学企業情報学部准教授、数土直志 IMART実行委員会委員)。

 僕が力を入れたいと考えているのがアカデミズムの分野です。現在、アニメの研究がどのように進んでいて、学会的あるいは世間的にどういった位置づけにあるのか、というセッションです。アニメについては、アカデミックな議論がまだまだ足りません。だから「入り口」から紹介することが大事だなと思っています。

―― アニメでは「研究」分野が、業界やファンから少し距離がありそうですね。

数土 そうなんです。アニメには個別の作品を追う人はライターでもファンでも多い。けれどもアニメーションの映像全体を深掘りする人はあまり増えていない印象です。

 スタジオの歴史をたどってみるとか、監督や演出、美術担当を追いかけて作品を横断して観るなど、アニメの制作や歴史といったことにあまり目が向けられていません。評論や評価といったものもあまり必要とされていないかもしれません。ですが僕は重要だと思うので、こうしたセッションも積極的に入れて活性化したいなと。

『アニメ研究の現在、国内と海外の見取り図』には数土氏も登壇

―― 海外配信が普及して、国内外でアニメを観る人の数は増えたけれども、アニメーションの映像分析までする人は増えていない、ということですね。私もライターとして「アニメ」のフィールドを見てきましたが、ゲームやステージなどのメディアミックスが盛んになったりと、アニメ周りが急に変化した印象があります。数土さんはどんなところに変化を感じていますか?

数土 僕は『アニメ!アニメ!』というWebメディアを作ってファンの方たちを見てきましたが、2010年前後ぐらいにアプリゲームが盛んになって、ゲームをしている高校生や大学生が普通に『ラブライブ!』の話をしているのを目にして、変わったなと思いました。

 2000年代までの「アニメ」って、『名探偵コナン』や『ONE PIECE』、ジブリ作品は知られているけど、それ以外の多くの作品はコア層向けで美少女がたくさん出てくる深夜アニメになる、という印象でしたが、そのコア層向けの作品がどんどん大衆化していく様子を目の当たりにしたのです。

―― 2010年代から女性向けのアニメ作品やゲーム、ステージ展開も増えましたよね。男性が中心に見えたアニメ現場やファン層も大きく変わった印象があります。逆にアニメは広い層が観ることが前提になったために、映像分析をしたり制作や歴史などアニメ全般に目を向けることに力点があまり置かれない状況になっているのかもしれません。

数土 もちろんアニメは監督やスタッフの名前で観てくれる人も多いから、映画宣伝でも「○○監督作品」と打ち出されたりもします。でも監督の名前までチェックするようなアニメファンは、数としてはわりと少数派になってきているんじゃないかなと思います。

―― だからこそアカデミックなセッションも盛り込んでいるということですね。

学びは「早わかりの本」では手に入れることができない

―― IMARTでは一般の方の参加も歓迎とのことですが、それにはどんな意味があるとお考えでしょうか?

数土 マンガやアニメが好きな方にぜひ参加してほしいのは、業界で何が起きているか、そして業界はこんな広い場所なんだということを興味のある人にはぜひ知っていただきたいからです。アニメは何もないところから生まれてくるわけじゃないので、そこには作品を作る人、ファンに届ける人、文化を広げたり残していく人がいる。その仕組みを知っていただきたいんです。

―― それは先ほどのアカデミックな視点に関連することですか?

数土 それもありますが、単純にみんなに知ってほしい。面白いことを伝えることが僕の根本的な欲望なんです(笑) いや僕だけじゃなくてIMARTとしても、業界の人と一般の人、両方を視野に入れているイベントなので、より深く知ってもらうことで、業界・カルチャーの振興につながればうれしいなと考えています。

―― 業界以外の方でも、IMARTで得た視点を、ご自身の仕事や勉強に活かすことができるかもしれない?

数土 そこにつながればいいですね。『自分の仕事や勉強も、アニメやマンガと何かしらつながっているんじゃないか』と思っていただけるとすごくうれしいです。たとえばマーケティングやストラテジー(経営や営業、販売など大局的な戦略や計画)とかは、どんな業界にも存在しますよね。IMARTを通じてさまざまな学びを深めることもできるんじゃないかと思います。

 逆に言うと、アニメやマンガ業界も「好き」だけで動いているのではなく、ちゃんとビジネス、あるいはカルチャーとしてのロジックもあるんだということが伝わればいいと思っています。

―― 学びということでは、学生さんにセッションを見てもらうことも想定していますか?

数土 学生さんに見てもらうのもとてもうれしいですね。IMARTでは学校単位で「教育機関向けパッケージ」も作っていて、「ご協力教育機関」になっていただいている学校さん、今年は東京/大阪アニメーションカレッジ専門学校、東京工芸大学、日本工学院専門学校が参加しています。

 アニメやマンガが好きな学生さんたちでも意外と知らない内容が多いはずで、セッションの視聴を通じて学生さんたちに業界に興味を持っていただければと考えています。もちろん部分的に「難しい」と感じる内容もあるかもしれませんが、セッションはアーカイブ視聴ができるので、わからない言葉などは検索しながら見ていただければと。

IMART2023の協力教育機関である東京/大阪アニメーションカレッジ専門学校、東京工芸大学、日本工学院専門学校の学生は全セッションのアーカイブを無料視聴可能とのこと

―― 私はもう、先ほどのお話で出た「ストラテジー」がわからなかったです(笑)

数土 自分では使わない単語ってありますよね。分野が違えばなおさらです。僕がよく言うのは、その分野のことに詳しくなろうと思ったら「早わかり」的な本を読んで済ましてはいけない、と。わからない部分があっても、まずは専門書を3冊読んでみるべし、というのが僕の考え方です。

―― それはどうしてですか?

数土 そういった「早わかり」的な本だと、一般化するために噛み砕かれた表現になります。すると、やはりあっさりしていると思うんです。真実から遠ざかることも多い。

 難しい話を、最初のわからない単語から1つ1つ理解していったほうが、きっと理解が深まるのではないかと思っているからです。業界を目指すような学生さんたちにも、難しい話なりにセッションを観て学んでいただければ。

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