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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第745回

ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴

2023年11月13日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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ある程度技術力と資本力のあるメーカーにとって
RISC-Vは技術力の蓄積とコスト削減の両方を図れる

 もう1つ前のめりだったグループが、NVIDIAやMicrosemi、Western Digitalなどだった。これらの企業はすでにASIC(Microsemiの場合はFPGA)を自社で製造、販売しているベンダーである。

 一例としてWestern Digitalの場合を説明すると、同社はHDD用のコントローラーを自社で開発・生産しているし、2018年頃になるとHDDに加えてフラッシュ・ストレージも増えてきている(2016年4月にSanDiskを買収、同社のフラッシュ・ストレージ製品を傘下に加えたため)。

 さて、昔はストレージ(HDD/フラッシュを含むすべて)はある意味単純であり、単に高速にアクセスできれば良かったのだが、2018年頃になると目的別のストレージ階層が必要になってきた。

 この頃には、例えばクラウド向けにホット・ストレージ(容量は小さいがアクセス頻度が多く、高速アクセスできるもの)とコールド・ストレージ(容量は大きいがアクセス頻度が低く、アクセスに時間がかかるもの)と、その中間のウォーム・ストレージといった階層を設けようなど、特定の目的に向けたストレージ(これはその後、コンピュート・ストレージと呼ばれる、データ処理機能を持つストレージにつながっていく)を作ろうといった具合に、さまざまなニーズが想定されるようになってきた。

 こうなるとコントローラーに求めらえる要求も変わってくることになる。

Western Digitalが2018年6月に行なったRISC-Vに関する説明会の資料より。ストレージに対するニーズが多彩化したことで、それに合わせてコントローラーも多彩化される必要が出てきた

 下の画像はストレージというよりも一般的な話であるが、例えばコンピュート・ストレージでこうした用途に必要なプロセッサーを求めようとすると、すでに汎用品では追いつかないということになる。

ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴

機械学習はコンピュート・ストレージとは縁遠そうであるが、分析やセキュリティ検出などはストレージ側である程度前処理をしておくことで処理性能の向上が図れそうな分野である

 もともとWestern DigitalはCPU IPを他社(SynopsysのARCプロセッサー)から購入して自社のコントローラーに採用していたが、今後さらに性能を拡充していくとなると、それに応じた性能の拡充が必要である。さらに言えば、高性能化するにあたって汎用コアだけでなく専用アクセラレーターを追加し、これをコアから高速にアクセスするといった拡張性がある方が好ましい。

 もちろんARCコアにも命令拡張機能はあるが、どのみちアクセラレーターを自社開発するのであれば、それをサポートする命令は自分たちで開発する必要があるので、別にARCでなくRISC-Vであってもまったく困らない。もちろんRISC-Vをモノにするには開発費が余分にかかるが、その代わり自社で開発できればライセンス費もロイヤリティもかからないので、ある程度の数量が出れば割安になる。

ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴

一点だけ突っ込んでおけば、16bitには未対応だと思う。いや縮小命令セットの話をしているのかもしれないが

 もっと重要なのは、技術力があるメーカーにとっては、自社でCPUを作るという貴重な機会が生まれることになる。エンジニアの育成にもつながるし、自社にもノウハウが溜まる。先端のアプリケーションプロセッサー向けという話であれば、例えばSamsungが開発コストの高騰に耐えきれずにExynos M7の開発を中止したように、けっこうなコストがかかる話になるが、Western Digitalが狙っているのはもう少し組み込み寄りのプロセッサーであって、そこまでコストがかからない。こうした用途向けにRISC-Vを採用することで、以下のメリットがある。

  • 基本的な命令はRISC-Vを踏襲することで、設計の手間を省ける
  • 拡張命令を自由に追加できる
  • 基本命令がRISC-Vのままなので、既存のRISC-V対応のソフトウェアはそのまま稼働し、あとは拡張命令部分だけ追加対応すればいい
  • 実装の方法に制限はない。また参考になる実装(Rocket、Boom)も存在する

 実際Western Digitalは2018年にはまずSweRV EH1と呼ばれるIn-Order/2-wayで8段パイプラインのコアを開発、これに続きSweRV EL2/EH2を2019年に開発している。

ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴

2019年ごろ公開されたWestern Digitalのロードマップ

 SweRV EL2/EH2は、EH1の改良版となるイン・オーダーのコアだが、EH2の方はSMTに対応するなど、少しづつ機能を向上させている。このSweRV EH1/EL2/EH2はChips Allianceとの共同開発なのもあり、オープンソースでGitHubに公開されているが、より性能を向上させたSweRV EHX3を2021年のRISC-V Summitで発表している。こちらはCortex-R82と同程度の性能とされており、ストレージ・ワークロード向けに最適化されたコアとなっている。

ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴

 NVIDIAも同様で、詳細は明らかにしていないがGPUの内部制御用に独自のRISC-Vコアを開発している。同じことを考えたImagination TechnologiesはやはりRISC-Vコアの開発を手がけるが、それが行き過ぎて(?)Catapultと呼ばれる独自のRISC-VコアのIPライセンスまで始めてしまった。

 ある程度技術力と資本力のあるメーカーにとっては、RISC-Vは技術力の蓄積とコスト削減の両方を図れる選択肢であり、これが前のめりになった理由になっている。

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