ソフトウェアエコシステムが発展すると
新しい分野に参入できる可能性が増える
こうしたことが理由で、これまで独立系プロセッサーIPベンダーは(ごく少数の例外を除き)安全性の高い分野への参入ができず、低価格のプロセッサーIPを提供するに留まっていた。
ところがRISC-Vが来たことでこの構図が変わると考えたわけだ。先に挙げたツールベンダーがRISC-Vに対応してさえくれれば、RISC-Vコアもそこで利用できることになるからだ。もちろんベンダーの側はアーキテクチャー対応でなく個別のコアごとに対応というかサポートを行なうのが普通なので、ちゃんと自社のプロセッサーIP上でそれらのツールが正常動作することを(ツールベンダーと共同で)確認する必要がある。
こうしたコストは掛かるものの、それは新規アーキテクチャーへの対応を一から行なうよりははるかに安価で済む。端的に言えば、あるツールベンダーに「弊社のプロセッサーIPは×××社に採用されると見込まれるので、サポートを行なっていただくと×××社とその下受けの△△△社や□□□社、さらにその下の○○○社や※※※社などでも御社のツールを利用する可能性が高いです」という話を持ち込めばいいわけだ。こうした顧客が見込めるのであれば、ツールベンダーとしても積極的に対応する理由になり得る。
実際のところ、SiFive、Andes Technology、Cortus、CodasipといったRISC-VプロセッサーIPメーカーが2020年あたりから相次いで自動車向けのIPソリューションを提供し始めたというのがこの傍証である。いずれも自動車向けの機能安全規格であるISO26262 ASIL-BやASIL-D対応(ASIL-Bは目標故障率が1億時間あたり1回未満、ASIL-Dは10億時間あたり1回未満)に対応したものである。
もちろんこうした低故障性を実現するためには、それなりの回路技術が必要になるので誰でも作れるわけではないが、それよりも難しかったのはそのプロセッサーIPをサポートするOSやハイパーバイザー、ツール類のサポートであり、この目途が立ったからこそより高価格で売れる自動車向けのプロセッサーIPを手掛け始めたのである。
ちなみにこうした安全規格は産業・航空機・医療など分野別にそれぞれ別に定められている。例えば自動車向けのプロセッサーIPをそのまま産業用に販売することはできず、別途安全規格の認定取得(例えば産業用ならISO/IEC61508がこれに相当する)を取得する必要がある。
ただISO26262とIEC61508がまったく異なる要件か? というとそうでもなく、ハードウェア的には同一でもそれほど問題はなく、異なる規格に対応するための書類が膨大に必要、という程度の話である。だから自動車向けにきちんと動作するプロセッサーIPが完成したら、次はそれを異なる分野に持っていくという横展開も可能である。
「可能である」という表現なのは、実際には自動車/産業/航空宇宙/医療などでは分野別にプレイヤーも違えばユーザーのニーズも異なり、しかも専属のサポートチーム(FAE:Field Application Engineer)を要求されるので、かなりの大企業でもないと複数分野向けに展開しきれないという現状があるからで、各社ともに自社の体力を睨みながら少しづつ展開先を増やす、という感じになっているが、これはRISC-Vとは関係ない話である。
いずれにせよ、独自ISAを捨ててRISC-Vを採用することで、こうした新しい分野に参入できる可能性が増えたというのがわかるだろう。こうした独立系のプロセッサーIPベンダーが前のめりだった理由がこれである。
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