オンプレミス回帰やハイブリッドクラウド化の動きも、「ITユーザトレンド調査 2023」
国内企業のIT投資意欲が過去最高、注目度首位はやはり「AI」 ―JEITA調査
2023年11月07日 07時00分更新
電子情報技術産業協会(JEITA)が、「ITユーザトレンド調査 2023」の調査結果を公表した。
同調査では、将来のIT技術開発の参考にすることを目的に、一般企業や公共・公益法人などを対象にアンケートを実施。JEITAでは、同様の調査を1999年から継続的に行ってきた。今回の調査は、2023年8月のオンラインアンケート816件の有効回答をまとめている。
調査結果では、国内企業におけるIT投資意欲が過去最高の高まりを見せる一方、パブリッククラウドからオンプレミスへの回帰、ハイブリッドクラウド化を検討する動きが見られるなど、興味深い結果が明らかになった。
IT投資の見通しは、2023年度、2024年度ともに「増加する」と答えた企業・組織が過半数を突破。2023年度は53.0%、2024年度は53.9%が増加すると回答し、特に金融サービス、官公庁・自治体での回答が多かったという。
JEITA プラットフォーム企画専門委員会 委員長の竹田薫氏は、「2023年度のIT投資が、前年度とほぼ同じという回答を含めると過去最高の95%となり、さらに2024年度には、前年度よりも増加させるという回答が半数を超えている。IT投資に対する高い意欲が見られている」と総括した。
過半数が生成AI活用に向け動くが、技術確立には至らず
同調査によると、企業のIT投資意欲は「AI」や「サイバーセキュリティ」「システム運用」「デジタル人材育成」などの領域で高い傾向にある。なかでも「AI」は注目度が前回比22ポイント増と急上昇しており、長年に渡ってトップの項目だった「サイバーセキュリティ」を一気に追い抜いた点も特筆される。企業のなかで、とくに役員クラスがAIに注目していることも浮き彫りになった。
ただしその一方で、AIを「構築済み」とした回答は19.2%に留まり、導入はこれからのフェーズにあることも示された。
生成AIに特化した設問では、「すでに活用」は10.1%に留まるものの、「一部の業務でテスト利用」が23.3%、「検討している」との回答も26.6%と、利活用に向けて動き出している企業が過半数に達している。利活用の目的としては、「テキスト生成、文書要約、機械翻訳」と「プログラミング」に対する意向が高いという。
AIの利活用における課題としては「分析技術が確立していない」との答えが最多の42.7%を占め、次いで「導入・運用コストの高さ」が39.5%、「技術としての使いにくさ」が38.1%、「費用対効果が明確ではない」が35.9%を占めた。また、AI人材確保と育成を課題にあげる回答も多かった。竹田氏は、「AIの利活用に向けた動きは進んでいるが、技術的に使いやすいというところにまでは至っていない。コストや人材面を考えると、急速に利用が広がることは難しい」と予測した。
なお、IT投資のなかで「業務オンライン化/テレワーク」については注目度が下がっており、これまで緊急性が高かったこの分野へのIT投資は、コロナ禍が収束しつつあるなかで一巡したと分析している。
パブリッククラウド利用企業の61.1%が、次期システムとしてオンプレミスやプライベートクラウドも検討
パブリッククラウドに関する項目においては、オンプレミス回帰やハイブリッドクラウド化の動きが予想以上に強いことがわかっている。
パブリッククラウド上で利用するアプリケーションとしては、人事や総務、経理・財務といった「共通業務の基幹系システム」を60.9%が利用。企業固有のアプリケーションが重視される「生産管理・販売管理システム」も52.2%となり、過半数がパブリッククラウドで運用されている。竹田氏は、「基幹系システムでもSaaSで提供されるサービスが増加しており、パブリッククラウドの利用が50%を超える水準に達している」と述べた。ちなみに最も多いのが、グループウェアやチャット、オンライン会議などの「コミュニケーション系」システムで、67.9%を占めている。
また、パブリッククラウドを導入する理由は分散傾向にあり、「利用が容易/早く導入できる」が46.7%、「柔軟なサービス利用」が46.2%、「初期コスト(コスト標準化)」が45.4%となった。導入の容易性、コストの平準化など、パブリッククラウドの柔軟性が評価されていると推測され、「セキュリティが担保される」点も42.9%が評価している。
一方で、竹田氏は「コストメリットや課金方法、決済手段、クラウドベンダーによる運用管理の信頼性、システム性能やサービスレベルについては、パブリッククラウドを評価する声が優勢だったが、課題として、柔軟なシステム構築ができないことや、システム連携およびデータ連携が『できない』、あるいは『しにくい』という指摘が多い」と解説する。
パブリッククラウド利用者の次期システムに対する考え方を調査したところ、「オンプレミスやプライベートクラウドによる運用も検討する」と回答した企業は61.1%と過半数を占めた。また「次期システムではオンプレミスやプライベートクラウドに移行させる」との回答も14.3%となった。「次期システムもパブリッククラウドで運用する」との回答は20.6%に留まっている。
「パブリッククラウドの利用における課題にあげられた『柔軟なシステムが構築できない』『システム連携やデータ連携ができない』といった理由を背景に、オンプレミスやプライベートクラウドを利用し、適材適所にシステムを配置したハイブリッドクラウドでの構築を考えている企業が増加していると推察される。今後のITシステムの運用形態は、アプリケーションやシステムの特性に応じて、オンプレミスとクラウドを活用したハイブリッド構成での運用を検討する方向性が伺える」(竹田氏)