『PERFECT DAYS』公開前に、「丸の内映画祭」でヴェンダース作品を予習してきた!

文●オシミリン(LOVEWalker編集部)

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 皆さんは、ヴィム・ヴェンダース監督を知ってますか? 12月22日公開のヴェンダース監督の最新作「PERFECT DAYS」で主演された役所広司さんが、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を獲得したというニュースを聞いて、名前を聞いたことがある方が多いかもしれません。

 かく言う私も、このニュースでお名前を知ったという口で、「PERFECT DAYS」は観たいな~と気になっていたものの、これまでのヴェンダース監督作品はまだ見たことがありませんでした。ちょっと調べてみると、代表作に1984年の「パリ、テキサス」、1987年の「ベルリン、天使の詩」といった作品があるドイツの著名な映画監督で、映画通の方なら誰でも知っている監督とのこと。不勉強な私でも、流石にこれらの作品名くらいは聞いたことがあります。俄然、ヴェンダース作品に興味が出てきました。

 そんななか10月23日~11月1日に開催された「第36回東京国際映画祭」に、審査委員長としてヴェンダース監督が来日。これと連動して10月28日~30日に丸ビルホールを会場で開催された「第1回丸の内映画祭」では、ヴィム・ヴェンダース監督特集が組まれました。これはぜひ、『PERFECT DAYS』を観る前にヴェンダース作品を予習しなくては!ということで行ってきました!

ヴィム・ヴェンダースにどっぷりつかった1日

 私が訪れたのは、開催2日目の29日。この日はヴェンダース作品3本の上映がありました。

「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」
(2011年/監督:ヴィム・ヴェンダース)

 1作目は「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」。2009年に急逝した天才舞踏家ピナ・バウシュの生きた軌跡を、20年来の友人であるヴェンダースが鮮やかな映像で捉えたドキュメンタリーです。

 普段はドキュメンタリー映画を見る機会があまりないので楽しめるだろうか…と少し不安だったのですが、そんな不安は開始早々の映像で吹き飛びます。

 一面に土が敷かれた舞台上で、男女がそれぞれ15名ほどずつ激しく踊るシーンに、一瞬で引き込まれてしまいました。踊りが進むにつれ、ダンサーたちの顔や衣服が土に汚れていき、またダンサーたちの息遣いも聞こえ、とても生々しい映像に感じられます。ダンサーたちの踊りによる振動や、土のにおいも実際に伝わってくるのではないかと思えるほどでした。

 その後も街中や自然の中、水浸しの舞台上で繰り広げられる踊りなど、どの踊りも刺激的です。また、ダンサーたちのピナ・バウシュへの追悼メッセージなども織り込まれ、ピナが尊敬され、愛されていた人物だということがよくわかります。

 現在、「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」は日本には上映権がなく、今回は特別に上映。スクリーンで見ると迫力が増すので、とっても貴重な機会でした。

 上映後にはこの作品の主要楽曲を提供した三宅純さんが登壇し、アフタートークを実施。

三宅純さん

 ピナの作品作りについて、「この作品の音楽監督から “今、舞台上ですごい勢いで人が走り回り、その後水に飛び込むかもしれない。どう思う?”というような唐突なSOSが入り、そこからお互いにいろいろと話し合って、そこから音楽ができるようなこともありました」というエピソードを披露されました。

「リスボン物語」
(1995年/監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース)

 2作目は「リスボン物語」。映画監督の友人フリッツに頼まれ、リスボンにやってきた録音技師のヴィンター。しかし、フリッツは撮影済みのフィルムを残して失踪。ヴィンターは街のざわめきを録音しながらフリッツの行方を捜す……というストーリーです。

© Wim Wenders Stiftung 2015

 リスボンまでの道中で車が故障してしまうハプニング、ヴィンターの家に到着してからの近所の子供たちとの関わり合いなどがとてもコミカルに描かれていて、くすっと笑えるシーンがたくさんあります。鑑賞後も明るく気持ち良い作品で、オススメです!

「東京画」
(1985年/監督:ヴィム・ヴェンダース)

 この日、最後に上映されたのは「東京画」。1983年4月、東京で開催されたドイツ映画祭のために来日したヴェンダースが、敬愛する小津安二郎の描いた“東京”を探して街をさまよい歩くドキュメンタリー。小津安二郎監督作『東京物語』主演の笠智衆、小津組の名カメラマン厚田雄春との対話を通して、小津の“東京”と、近代化した当時の東京を描き出す作品です。

 劇中、パチンコや竹の子族、食品サンプルの製造の現場など、当時の日本の風景が映し出されます。私から見ると作品の中の日本は「昔の」日本、というように感じますが、小津の描いた日本を愛していたヴェンダースから見ると、当時の日本は近代化されてしまった残念な印象だったのではないでしょうか。

小津安二郎とヴィム・ヴェンダース

 上映後には、ドイツ大使館&ゲーテ・インスティトゥート東京 presents「小津安二郎とヴィム・ヴェンダース」特別講義を開催。ヴェンダース研究者のイェルン・グラーゼナップ教授によるレクチャーが行われました。

イェルン・グラーゼナップ教授(左)

 グラーゼナップ教授は「ヴェンダース作品には“都市のポートレート”というべき作品が多くあり、『東京画』もその中に含まれます。しかし、『東京画』は東京をあまり好意的に描いていないという点で異彩を放っています。ほんの数日しか滞在していない東京に批判のまなざしを向けるやり方は、問題があるのではないかと思います」と話しました。

 意外にも批判的な意見が出たことに驚きです!

 レクチャーの後には、石川慶監督が加わり、グラーゼナップ教授とトークを行いました。石川監督の作品は、私も「蜜蜂と遠雷」や「ある男」を観たことがあったので、どんなトークが繰り広げられるだろうかとわくわく。

左から司会の月永理絵さん、石川慶監督、グラーゼナップ教授

 石川監督は小津安二郎が愛用していた茅ヶ崎館に長期滞在し、「ある男」の脚本を手掛けたそう。「ある男」は小津をことさら意識したわけではないけれど、邦画らしい映画を撮ろう、と意識はしていたというエピソードを披露してくれました。

 レクチャーの最後にグラーゼナップ教授から投げかけられた「日本の観客が『東京画』をどのように感じたのか知りたいです」という問いかけについて、石川監督は「初めて見た時には、ヴェンダースと小津って関係あるのかな……と思い、ずっとその印象を持っていました。でも、先日改めて見た際に少し印象が変わりました。小津監督の描く日本は、あの当時にも実際に存在していたわけではなく、小津監督が持っていたイメージで、それをヴェンダース監督が東京に探しに行ったけれどなかった、という作品になっていると思います。けれども、イメージを追い求める姿勢というのは、小津監督もヴェンダース監督も共通していて、自分の中にもそういうものがあるのではないかと思いました」と答えます。

 これに対して、グラーゼナップ教授は「ヴェンダースは『東京画』の中で、小津の映画で知っている東京を探し求めているために、小津的でないものを常に確認する作業になってしまっています。その結果、マイナスの意味で均質的な東京としてまとめ上げてしまっています」と再び批判的な意見が飛び出し、これには石川監督からも会場からも苦笑が起きました。

 しかし教授は「今日はヴェンダース監督や『東京画』について批判的な意見ばかり述べてしまいましたが、私はヴェンダース作品が本当に大好きで、ヴェンダース作品には素晴らしい作品もたくさんあります」ともお話しされていました。ヴェンダース作品について深く知る方だからこその批判的な意見はなかなか聞ける機会のないもので、とても貴重な体験となりました。

 いよいよ12月22日に公開される「PERFECT DAYS」。この作品も東京が舞台となっており、役所広司さんは渋谷の公共トイレの清掃員を演じています。「東京画」の撮影から約40年が経過し、今度はどのように東京をとらえた作品になっているのか、ますます公開が楽しみになりました!


第1回「丸の内映画祭」
期間: 2023年10月28日(土)~10月30日(月)
場所:丸ビル7階丸ビルホール
主催:三菱地所株式会社
共催:東京国際映画祭
協力:一般社団法人PFF