プロセスも構造も大変身を遂げた
インテル「Meteor Lake」の詳細が判明
今年もインテルの年次イベントである「Intel Innovation」の2023年版に合わせ、同社は次期クライアントPC向けプロセッサーに採用される「Meteor Lake」の概要を発表した。Meteor Lakeはモバイル向けの「Core Ultra」として今年12月14日より発表される。
本稿はインテルがプレス向けに詳細な技術的発表を行った資料をまとめたものである。今回の資料はスライドにしてざっと300ページ近いというとんでもない代物ゆえ、全てをカバーすることはできない。プロセスやパッケージングの詳細は大原氏の解説にお任せするとして、これだけは知っておきたいというポイントだけをまとめておく。
ただしインテルはCore Ultraのラインナップやコア数・クロックといった最終製品に関係する情報は開示しなかった。これに関してはもう少し後に発表されると思われる。
本題に入る前にお断りしておくが、遠からず発売が噂されるデスクトップ向けの第14世代インテルCoreプロセッサーは、第13世代の「Raptor Lake-S」のリフレッシュ版である。つまり今回の話は自作er向けの次期CPUの話とはとは違うということだ。
Intel 4の採用+タイルが積層される3D構造
Meteor LakeではCPUの構造そのものが大きく変化する。これまでインテルは1つのダイに様々な機能(CPUコア/グラフィック/各種IO等)を納めるモノリシックな構造にこだわってきたが、Meteor LakeではCPUは“タイル”と呼ばれる小さなダイを“ベースタイル”と呼ばれるダイに積み重ねる構造を採用した。
ベースタイルはCPUをマザーに実装するためのPCB(サブストレートと呼ばれる)やタイルを連結するための配線板のようなもので、上に積まれるダイに電気的な経路を提供するためのもの、というイメージでよい。電子工作でおなじみの“ブレッドボード”のようなものだ。
このベースダイの上に「コンピュートタイル」でCPUコアを、「グラフィックスタイル」でGPUコアを、「SoCタイル」でメモリーコントローラーやディスプレー出力、様々なメディア機能を、そして「IOタイル」でPCI Express Gen5やThunderbolt 4といった機能を追加する。
これらタイルはタイルごとにプロセスも製造施設も異なるというのがMeteor Lakeをユニークな存在にしている。まずコンピュートタイルは同社が社運をかけて開発・製造している「Intel4」プロセスを採用しているが、グラフィックスタイルはTSMCのN5、IOやSoCタイルはTSMCのN6といった塩梅だ。プロセスが混在したタイルをベースタイルに連結するために、インテルは同社が長年培ってきたFoverosを採用している。
このようなタイル構造を採用するメリットは、Foverosの持つ優位性(電力効率や帯域、レイテンシーなど)の他にタイルの仕様を変更することで顧客のニーズにあった製品を投入できるということが挙げられる。例えばゲーミングデバイス向けにはグラフィックスタイルをもっと強化するとか、上位と下位モデルでIOタイルに格納するPCI Express Gen5のレーン数を変えるなどのバリエーションが生み出しやすくなる。
PコアもEコアも新アーキテクチャーへ移行
さらに低消費電力のEコアも追加
Intel4で製造されるコンピュートタイルには、Alder Lakeから採用されるP(Performance)コアとE(Efficiency)コアを組み合わせたものが設置される。各コアのアーキテクチャーもRaptor Lakeから1世代進化し、Pコアは「Redwood Cove」、Eコアが「Crestmont」となった。それぞれ処理効率やIPCの向上が計られ、さらにITD(Intel Thread Director)へのフィードバックもより詳細な情報を提供できるようになっている。
だがMeteor Lakeの真の見どころはコンピュートタイルの外、具体的にはSoCタイルにも2基のEコア(LP-Eコア)が存在するという点だ。SoCタイルのEコアはコンピュートタイルのEコアよりも低消費電力で動作するため、ちょっとした作業はLP-Eコアに任せコンピュートタイルは深い省電力ステートのまま、というような運用が可能になる。コンピュートタイルは本当に必要になる時まで使わないことで、より長時間のバッテリー動作を可能にするのだ。
これら3種類のコアの使い分けはこれまで通りITDが行うが、ITDの振り分け(スケジューリング)方式もLP-Eコアを効率良く使えるよう改善された。Raptor LakeまでのITDはざっくり言えば処理の重要度(フロントかバックグラウンドか、等)で振り分けられるが、Meteor LakeのITDではまずLP-Eコアを使い、これで間に合わないようならコンピュートタイル内のEコアを使う。電力効率の高いコアから先に使い、Pコアに負荷が移るのは本当に必要になった時だけ、という感じだ。
つまりアイドル状態、あるいは2基のLP-Eコアだけでカバーできる負荷状態であればSoCタイルだけでWindowsを動作させることもできる。Meteor LakeではSoCタイルこそがCPUの中心であり、コンピュートタイルは重い処理、またはマルスレッド処理に特化したアクセラレーターと言ってもよい(言い過ぎか?)。
新アーキテクチャーを採用した内蔵GPU
Meteor Lakeのグラフィックスタイルは前述の通りTSMCのN5ノードで製造されるが、内部設計はこれまで3年間使い続けてきた「Xe-LP」から「Xe-LPG」へ進化。ゲーミング向けGPUアーキテクチャー「XP-HPG」ベースのArc Aシリーズと“ほぼ同じ”アーキテクチャーになった。
Arc Aシリーズとの違いはAI向けの行列演算器であるXMX(Xe Matrix Engine)が省略されているという点だ。Meteor LakeではSoCタイルの中に「NPU(Neural Processing Unit)」と呼ばれるAI向けの行列演算器が組み込まれていることを受けての変更と思われる。AI処理をグラフィックスでなくSoCダイに移した理由は電力効率の追求であり、AI処理のためだけにグラフィックスタイルを起こす必要がなくなるからだ。
グラフィックスタイルにXMXがないとなると、インテル版DLSSともいえるアップスケーラー「XeSS(Xe Super Sampling)」が利用できなくなるのでは? 不安になるかもしれない。だがこれは杞憂に過ぎない。XeSSはGeForceでもRadeonでも動作する技術であり、XMXがなくてもDP4aと呼ばれる命令をサポートしていれば動作する(GeForceならPascal、RadeonならVega以降の全て)。
Meteor LakeでノートPCはさらに進化するか?
以上で簡単ながらMeteor Lakeの技術的見どころの解説は終了だ。タイル、Intel4、Pコア+Eコア+LPコア、Xe-LPGベースのGPU、この辺りの情報が既存のインテル製CPUとの決定的な違いだ。さらにSoCの中を通るインターコネクト技術やNPUの話などネタは多いが、この辺で終わりとしておきたい。動作クロックやコア数などは後日インテルがCore Ultraを正式名称するまでのお楽しみだ。
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