【後編】クランチロールCOO ギータ・レバプラガダ氏ロングインタビュー
日本アニメだけで有料会員数1200万人突破した「クランチロール」が作る未来
2023年10月15日 15時00分更新
■「印税方式とデータ開示」でコンテンツ企業とクリエイターを育てる
―― アニメの作り手に対して、レベニューシェア(印税方式)契約をして還元していることに驚きました。また、クランチロールは「アニメ制作会社への視聴データの提供」も実施していますが、現状では非公開というプラットフォームも多いようです。視聴データ開示を決断した理由をお聞かせ下さい。
ギータ アニメは最近ではポップカルチャーの1つとして認識されていて、何百万人もの視聴者がいる。そういった誇りに思えるデータというのは、メーカーやスタジオと共有すべきだと思っています。。ライセンサー様とクランチロールの関係は強く、これは信頼と透明性の上に成立しています。
「こんなに見てくれる人がいるんだよ、こんなに売れたんだよ」というデータは彼らにとってすごくうれしいことだろうし、うれしいという気持ちを共有したいのです。
アニメの業績を共有することももちろんですが、それと同時にデータを共有することによって、「どんな人が、どういった地域でこの作品を見ているのか」も共有することができます。スタジオ側にも「こういう人たちに人気なんだ」「こちらの地域ではそうじゃないんだ」ということをわかってもらえます。
―― 前回、国や地域ごとに好まれるアニメが異なるというお話をされていましたね。
ギータ アニメの成長を共有することはクランチロールの価値観の1つでもあります。レベニューシェアと同様に、視聴データを共有する理由も同じです。
コンテンツパートナー様が成功し、彼らが望む、そしてクランチロールが望む視聴数を獲得できるアニメを作るお手伝いができればと考えています。視聴データは、アニメ制作者の方々に“視聴者が作品をどのように受け取っているか?”をお知らせする最も効果的な方法です。これはとても重要なことです。
よって、たとえクランチロールでコンテンツが配信されなくても、エコシステムを育てていきたいのです。
また、コンテンツに対する規制があるのはインドだけではありません。中東もそうですし、ほかにもそのような国はたくさんあります。
クランチロールはたくさんの国や地域で、配信サービスだけでなく、それぞれに審査基準が異なる映画の配給もグローバルで手掛けているため、コンテンツに対するニュアンスの違いを知っています。そして、地域ごとに異なるそのニュアンスをパートナー様にご案内しています。
―― えっ、クランチロールの視聴データを参考にした作品が、クランチロールの配信に乗らなくてもいいんですか?
ギータ はい。スタジオやメーカーさんにとっても得になるようなデータを共有しているので、その情報を元に新しい作品ができていけば、アニメ業界そのものが全体的に拡張していくことにつながります。その結果、多様な作品が生まれるので、我々としても利があると考えています。
私たちの目標の1つは“アニメ業界自体を大きく育てていく”ですが、これはもう1つの目標である“各国のファンやコミュニティーを育てる”ことにもつながっています。
■クランチロールの歴史
2006年……
・8月、クランチロール設立
2008年……
・『NARUTO -ナルト- 疾風伝』サイマル配信開始を機に、クランチロールはUGCサイトから、正規にライセンスされたアニメ作品を配信するサイトへ
・クランチロール株式会社を設立。日本法人はクランチロールのライセンス戦略において重要な役割を果たしている
2009年……
・2月、有料会員数1万人を達成
2012年……
・4月、スペイン語とポルトガル語でラテンアメリカでのサービスを開始
・このころ、クランチロールが米国外で人気と関心を集め始め、コミュニティーに参加したいと世界各国のユーザーから直接現金が送られてきた
10月、ブラジルでサービス開始
2016年……
・12月、ベストアニメを選出する「クランチロール・アニメアワード」を初開催
2017年……
・1月、有料会員数100万人を達成。SVOD(定額制動画配信サービス)のグローバルトップ10にランクイン
2018年……
・3月、クランチロール・ゲームズを立ち上げ
・10月、有料会員数200万人を達成
2020年……
・7月、有料会員数300万人を達成
・ラッパーで、シンガーソングライターのミーガン・ジー・スタリオンさんとコラボレーションしたクランチロール限定のストリートウェアコレクションを発表
2021年……
・8月、Funimation Global Group, LLCが、クランチロールを運営するEllation Holdings, Inc.を取得完了
2022年……
・7月、100近い国と地域で価格を値下げ
・12月、有料会員数が1000万人を突破
2023年……
・3月、「クランチロール・アニメアワード」授賞式を日本で初開催
・インドのファン向けに現地チームとサービスを拡大
この連載の記事
-
第58回
アニメ
辞職覚悟の挑戦だった『ガールズバンドクライ』 ヒットへの道筋を平山Pに聞いた -
第57回
アニメ
なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く -
第56回
アニメ
マンガ・アニメ業界のプロがガチトークするIMART2023の見どころ教えます -
第54回
アニメ
世界のアニメファンに配信とサービスを届けたい、クランチロールの戦略 -
第53回
アニメ
『水星の魔女』を世に送り出すうえで考えたこととは?――岡本拓也P -
第52回
アニメ
今描くべきガンダムとして「呪い」をテーマに据えた理由――『水星の魔女』岡本拓也P -
第51回
アニメ
NFTはマンガファンの「推し度」や「圧」を数値化する試みである!? -
第50回
アニメ
NFTで日本の漫画を売る理由は「マンガファンとデジタル好きは重なっているから」 -
第49回
アニメ
緒方恵美さんの覚悟「完売しても200万赤字。でも続けなきゃ滅ぶ」 -
第48回
アニメ
緒方恵美さん「逃げちゃダメだ」――コロナ禍によるライブエンタメ業界の危機を語る - この連載の一覧へ