このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第209回

3年でレガシーシステムをクラウドに刷新 アルペンが語るDX実現の鍵とは

2023年12月07日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

IT人材のほとんどいないアルペンがなぜ3年間で内製化まで進めたのか?

 なぜ95%の社員がプロパーで構成され、IT人材がほとんどいないアルペンが、3年間でここまでの内製化を進められたのだろうか? その理由は3つある、と蒲山氏。

「1つ目は経営陣との合意形成です。よくDXを阻害するのは経営陣の理解不足だと言われます。当社の場合も、2019年時点ではシステムはベンダーに作ってもらうもの、という考え方でした。ここについては、多少品質に目をつぶってくれれば、内製化して金と時間を圧縮できますよ、とコミュニケーションをしました」(蒲山氏)

 システム開発は大きな予算が必要になるが、クラウドサービスを活用すれば初期投資を抑えることができる。失敗したときのリスクも限定的だ、と説得したという。

 そのうえ、大きな仕組みを変えるのではなく、顧客系や情報系の周辺を固めるようなところから少しずつ進め、オーダーメイドで100点のシステムを作るのではなく、最速で80点のシステムを作るというアプローチを説明した。そうして、経営陣の思考を内製化にシフトチェンジしてきたという。

内製と外注のハイブリッドで最速で80点のシステムを目指す

「2つ目のポイントはクラウドの技術進歩です。kintoneにプラグインを組み合わせることで、例えば、お客様が持ってきたバーコードをスキャンしてkintoneに取り込んだり、逆にkintone内の預かり証や注文受付票といった情報を帳票印刷して作ることが可能になります。当社の場合、クラウドのデータウェアハウスとETLツールで連携させているので、画面はkintoneですが裏側のデータは基幹システムから引っ張ってくることができるようになりました。ここまでくると、ノーコードで何でも作れるな、と実感しています」(蒲山氏)

 3つ目のポイントは人材特性だという。システムを開発する際は、業務部門側と開発する側が衝突するケースが多い。現場部門からは「情シスは現場を知らない」、IT部門からは「ユーザーは好き放題している」というクレームが出るのだ。

 その点、アルペンではそのような衝突が起きにくい人材が揃っているという。大半の社員がまず店舗で実務経験を積むという人材モデルになっており、4年~10年目のタイミングで、本社に配転されるという。その中のさらに一部の人が、情報システム部に異動するそう。

「新入社員はスポーツ経験者が大半なので、協調性やカバー意識がものすごく強く、とても根性があります。さらに、一人前になるまで店舗で修行し、最低限のビジネスマナーや当社の業務も理解しています。その中で、情シスに向いているとスクリーニングがかかった人たちが来ますので、専門的なIT技術という点を除けば結構内製向きの人材が揃っていると感じています」(蒲山氏)

専門的IT技術を除けば、内製向きの人材特性があった

DXを成功させる要因はITリーダーの覚悟が持てるかどうか

 なぜ、アルペンのような短期間で大規模なシステムの内製化を実現する事例が少ないのか? 蒲山氏は個人の見解、と前置きしたうえで、DX成功の鍵は「ITリーダーの覚悟次第」だと語った。ITリーダーが、会社のITの方向性を自分で決めて、自分がビジネスそのものを変えていくと覚悟を持てるかどうかが重要だという。

「日本企業の多くのITリーダーたちは、業務側からシステムが使いにくいぞというプレッシャーを浴びせられ、経営陣からはもっと安くしろというプレッシャーを浴びせられ、ベンダー側からはもっと業務部門をコントロールしろというプレッシャーに浴びせられ、色々なものに挟まれながら仕事を回しています。事業を変革するのであれば、ITリーダーは技術トレンドや他社事例などを勉強し、自社のビジネスに置き換えて、これから当社はこうやっていかねばなりませんと、発信する立場になるべきです」(蒲山氏)

 海外ではシステムインテグレーターというビジネスは基本的には存在していない、と蒲山氏。経営層からの依頼で、IT部門が課題を認識し、システムを変えるというのが常識になっているという。一方、日本企業はシステムインテグレーターという巨大な産業が、日本のITを育ててきた経緯がある。そのため。ITの導入経験や知識はシステムインテグレーターの中に蓄積されてしまったのだ。

 今後重要なのは、業務効率でも自動化でもなく、ビジネスを引っ張っていくのが自分の役割なんだ、とITリーダーが認識して、自分が真ん中に立ち、インテグレーションをすることだという。

ITリーダーは挟まれるのではなく中心に立って仕事をすべき

「当社は2019年に私が外から入ってきて、しがらみもない中で経営陣に後押しをしてもらい、好き放題にITの改革を進めてきました。覚悟を持てばkintoneでここまでできます」(蒲山氏)

 現在、アルペンにおける店舗の仕組みはPOS以外はほぼkintoneで構築したという。顧客から店舗で注文を受け付けて会計するところまで、注文管理をkintoneで行っている。さらに、ECサイトにも接続し、商品を取り置きしたり、逆に店舗に在庫がなくても店頭で会計後、ECサイトから発送するというサービススキームも作った。当然、この仕組みを作るには、全社の在庫や会員情報とも連携する必要があるが、ここもすべてkintoneで作ったという。

アルペン店舗では、POS以外をほぼkintoneで構築している

「IT人材が不足しがちな企業におけるDX成功の鍵は、便利なクラウドツール、前向きで挑戦を好む人材特性、理解して後押ししてくれる経営陣などの後方支援に加え、ITリーダーが自分でビジネスを変えるんだと覚悟を持てるかどうかだと思います」と蒲山氏は語った。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事