法人向けネットワークサービスなどを展開するColtテクノロジーサービス(Colt)は2023年8月29日、日本市場に対する今後の投資と戦略に関する記者説明会を開催した。
同社 ジャパン・カントリー・マネージャーのジェラルド・バーン氏は、今年2月に発表した西日本(広島、岡山、福岡)へのネットワーク拡大計画について、今後3年間で累計150億円規模の大型投資を予定していることを明らかにした。
均一なグローバルサービス、オンデマンドの回線拡張など強みをアピール
説明会ではまず、英本社のCMOを務める水谷安孝氏が、グローバルの事業戦略や日本国内の最新導入事例などを紹介した。
グローバルなネットワークサービス事業者であるColtは、ヨーロッパ、北米、アジアに60拠点を展開し、自社保有のネットワークインフラを使ったビジネスを行っている。現在、Coltの接続都市数は222、接続済みデータセンター数は1000以上、接続済みビル数は3万1000以上に及ぶ。日本市場では、1999年のKVH設立から24年の実績を持つ。
近年では、SD-WANとセキュリティを提供する「Colt SASEソリューション」や、4G/5Gアクセスの「Colt IP Access 4G/5G Wireless Access」、AWSとの協業による金融市場向けのマルチキャストデータサービス「Colt Market Data in the Cloud」など、よりソリューションに近いサービスラインアップの拡充も続いている。
水谷氏は、Coltの強みを示す国内導入事例として2件を紹介した。
1つは日本に本社を置く航空宇宙企業での、グローバルネットワークサービスの導入事例だ。この企業は現在、日本とヨーロッパのルクセンブルクに拠点を持つが、今後も海外拠点を拡大していく方針だという。そのため、どの国でも同じネットワークサービスが利用できることが要件となった。
「たとえば北米、中東なども含めて、同じようにネットワークを提供できる体制づくりを目指している。それ(グローバル各地域のネットワークサービス)が1つの窓口で行ける、そういうサービスができる通信事業者は、世界中を見ても珍しいと思う。今後はそのポジションをもっと強化していきたい」(水谷氏)
もう1つは、利用するネットワーク帯域を柔軟かつオンデマンドでコントロールできる「Colt On Demand」を導入したエアネットの事例だ。法人向けにクラウドサービスなどを提供する同社では、都内データセンターのバックアップサイトを大阪に設置している。
「バックアップサイトは常時使っているわけではないので、ふだんは回線を必要最低限の帯域にしておく。一方で(メインサイトがダウンするなど)有事の際には、その帯域幅を一気に大きくすることができる」(水谷氏)
Coltの発表によると、エアネットではColt On Demandを利用して合計5回線の専用線を自社運用しており、平均で60%のコスト削減に成功しているという。
水谷氏はもうひとつ、Coltのネットワークインフラを構成する光ファイバ網において、オープンなアーキテクチャを採用していると紹介した。具体的には光トランスポンダ(光信号の送受信機)とオプティカルスイッチ(光スイッチ)を分離した構成にすることで、技術進化に応じて任意のベンダー製トランスポンダを採用可能にし、常に最新のテクノロジーでネットワークを構成できるようにしているという。これにより、ネットワークに大きな変更を加えることなく、バックボーンを容易に増速できるなどのメリットがあると説明した。
今後の戦略については、「AI」と「デジタル社会のエコシステム」というキーワードを掲げた。
Coltが今年7月に実施したIT決裁権限者に対するグローバル調査によると、「IT投資におけるAIの重要性」について「必要不可欠」「とても重要」と考える回答者が過半数(53%)を占めていた。「ある程度重要」まで含めると77%が、今後のIT投資においてAI領域の取り組みを重視していることになる。ちなみに日本の回答者はさらに強くAIを重視していた。
水谷氏は、企業がAI活用を進める中では大量のデータを蓄積する場所、処理する場所のさまざまな組み合わせが発生し、そこにおいてフレキシブルなネットワークが必要になると説明した。
「たとえば(オンプレミスにある)大量のデータをクラウドに持って行き、AIで分析したいという声もかなり強まっている。そのとき(Colt On Demandならば)一時的に広帯域の回線を使ってマイグレーションを行い、終わったら帯域を絞るといったことができる」(水谷氏)
もうひとつの「エコシステム」については、ハイブリッドクラウドや5G、マネージドサービスなど、企業のITインフラニーズは今後さらに複雑なものになっていくと予想されることから、幅広いパートナーとのエコシステム構築がColtとしての差別化のポイントになると考え、重視していると述べた。
「3年間で累計150億円」投資の背景には日本市場への高い期待
ジャパン・カントリー・マネージャーのバーン氏は、Coltでは「Think Global, Act Local(グローバルな視野で考え、ローカルに行動する)」という言葉を掲げており、日本法人においても本社との密な連携を図りながらローカルに行動できる組織体制を持っていると説明した。
冒頭でも触れたとおり、Coltでは今回日本国内、特に西日本におけるネットワーク拡張に継続的な投資を行う方針を表明している。バーン氏によると1999年の創業(KVH)からこれまで24年間の設備投資額は累計およそ1000億円であり、それと比べると、今回明らかになった「3年間で150億円」という投資計画は大きなものに見える。
Coltが日本市場への投資に注力する理由について、水谷氏は「ガートナーの市場予測によると、2022年から5年間のデータサービスの伸び率はグローバル平均で1.7%だが、日本単体で見ると5.8%と、3倍以上の伸びが予測されているため」だと説明する。
バーン氏は、インフラ投資に関しては少なくとも5~10年後の需要まで満たせるようにキャパシティを検討していると述べたうえで、今回の投資額については「おおよそ3年目から回収ができるものと考えている」と述べた。